「え~であるからして、新入生の皆さんには勉学に……」
校長先生の話が右から左へと流れていく。
無理もない。死んだはずの同級生が居たというのに、何の話も聞けず体育館に集合させられたのだから。ちらちらとどこかに居るはずの彼女を目で探すが、どこにも見当たらない。
やがて、校長先生の長い話が終わった。
「さて、ここで大事な話があります。」
校長が真面目腐った声色で、一区切りついた後にこういった。
曰く、厚生管理庁による発表により、〇月○日に発生した修学旅行バス事故にて死亡確認されたはずの学生がこの学校に居ること。現在すべての生命活動が問題なく回復し、社会復帰が可能である事。
「困惑するだろうが、皆は過度な接触を控え、普通の生徒の様に彼等に接してください。ただ、具合が悪そうにしていたら…万が一のこともあるので、すぐに教員に連絡して欲しいです。」
その生徒は、一年A組、海波陸斗、翠川蘭。一年B組、灰野芽萌。一年C組、柊鳴琉叶、雁木燈和。と、校長が読み上げる声が体育館に響き渡る。
声こそ出さないもの、困惑した雰囲気が体育館内に満ちていった。
その異様な空気感のまま、俺達の入学式は終わった。
「はいでは、前の席の人から順番に自己紹介してください。」
さて、改めて確認するが彼の名前は青柳爽。つまり出席番号一番である。最悪だ、そう思いながらもある程度テンプレに沿った自己紹介をする。後ろのやつが自分に合わせて自己紹介をするのを恨めしく思いながらも。一人の少女を気に書けるように彼は後ろを何度も振り向いた。
「出席番号○○番、灰野芽萌です。好きな物は~~……」
恐れていた事態が起きた、というべきだろうか。彼女が名前を名乗った瞬間、同級生たちの目の色が変わった。
それもそうだ。死んだはずの人間が今隣にいる、これで困惑しない人間は居ないだろう。好奇と恐怖の視線にさらされながらも、彼女は自己紹介を終え席に着く。彼女の後ろの生徒が、ワンテンポ遅れて慌てたように立ち上がった。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音が鳴り、クラスメイト達が次々とグループを作っていく。……とある一人を除いて。そう、灰野芽萌だ。彼女をチラチラと見る人はいるものの、話しかける人はいない。
仕方ない。彼は息を吐き、学校生活をドブに捨てる覚悟で彼女に話しかけた。
「あー、芽萌?久しぶり……で良いんだよな?」
クラスメイトからの視線で針の筵の様になっている体を感じながら、あくまでもラフに、普通の人間と何一つ変わらずに彼は彼女に話しかける。
「そうそう、久し振り!私が居ない間も元気してた~?」
「俺は何んともねえよ。それより、お前は…」
彼は言葉を探すかのように視線をさまよわせ、行き場のない手を首に置いた。
くすり、そんな仕草を笑うように彼女は笑う。
「…やっぱり変?死んだはずの私が居るのは。」
「っそんなことねえよ!」
「そう?でも皆、近付いてきてくれないし…」
彼女の瞳にまつ毛の影が落ちる。どんな声を掛けようかと彼が逡巡を巡らせる横で、一人の影か彼等に近付いてきた。
「ごめん、ちょっといいかな?自分、灰野さんの話聞きたいんだけど。」
そう言い放ったのは、肩にかかるかかからないかぐらいのボブの髪を持ち、片側の横髪だけを伸ばしている変わった髪型をしている、日にこんがりと焼けた肌を持つ少女。その琥珀の様な瞳をまたたかせ、彼女はずい、と彼等に近付いて行く。
「どうも、八幡真白っていいます。灰野さん、一回死んだって本当?」
おいおい此奴やってるわ。そんな雰囲気の空気が教室を満たす。彼女に気を使って触れないでいようとした事象を、いとも容易く触りに行ったのだから当然だ。一部の女子がひそひそと噂話をしているのが見えた。
そんな空気を吹き飛ばすかのように、芽萌は口を開く。
「うーん、多分?前後の記憶が曖昧なんだよね…バスの中に居たことは覚えてるんだけど。」
「まじで?灰野さん実は死んでないとかあるんじゃない?」
「芽萌でいいよ!にしてもずけずけ聞くね……私もよくわかってないんだよね、ごめんね!」
ともすれば空気が地獄にもなりかねない質問を上手く躱した彼女を見て、悪い人ではないと判断されたのだろう。彼女の周りには少しづつ、少ないが人が集まっていた。
彼の肩をぽん、と叩く手がある。同級生だ。灰野さんとどういう関係だよだとか、よく話しかけに行けたなだとか、お前部活何処に入る?だとか……そんな話をして、彼等の最初の学校生活は終わった。
昇降口から上履きを取り出している爽に声を掛ける影が一つ。
「あー…よう、爽だよな?」
「琉叶……!?」
そう、中学校時代の彼の親友にして幼馴染みの柊鳴琉叶である。彼も修学旅行の前と全く同じ顔で、爽に話しかけた。
だが、爽の反応は違った。彼のために目が溶けるんじゃないかというほど泣き続け、今も塞ぎ込んでいる彼の妹の存在を知っていたからだ。
「お前、今までどこに…っ!というか、日菜ちゃんはどうしたんだよ!!お前のせいであんなに元気なくしてるんだぞ!?」
そう問い詰めると、彼は困ったように頭に手をやり、眉を下げた。
「…父さんと母さんがな、俺の親権を放棄したんだよ。気味悪いから近付かないでって。
だから、日菜は俺のこと知らないよ。」
「なっ…お前、なんで…!!」
言葉が出ない。はくはくと口を開き、怒りと困惑に打ち震える爽を横目に、琉叶は下駄箱から上履きを出し、地面に放り投げた靴に足を通した。
少し乱暴なその仕草が、全く同じで。爽は顔を歪めた。
「一緒に帰ろうぜ。家は別の所だけど、さ。」
夕焼けが橙色に染め上げる通学路で、彼等はぽつぽつと情報を交わした。
保護されていたところに親が呼び出され、しばらく話をしていたと思えば『こんな子私の子供じゃない!』と叫ばれたこと。
日菜に合わせてくれと頼みこんでも、もう近付かないでくれと親に頭を下げられ、引き下がるしかなかったこと。
今は身寄りのない子供たちが住んでいる施設におり、そこでは職員からは化け物を見るような目で見られているが、小さな子供達には普通に接してもらえている事。
A組では腫れ物に扱うように扱われ、橙和としか話をしなかった事。
「よかったよ、お前が居てくれて。新学期早々孤立するところだったぜ。」
そういたずらっぽく笑いかける彼に、爽は曖昧に笑い返すことしかできなかった。
|紹介|
◇柊鳴琉叶 / rk
∟ひいな るか
◇柊鳴日菜 / hn
∟ひいな ひな
◇雁木橙和 / gnms
∟がんき とうか
◇海波陸斗 / uppln
∟みなみ りくと
◇翠川蘭 / lt
∟ひかわ らん
◇八幡真白 / htmngu
∟やわた ましろ
二話迄目を通してくださってありがとうございます😭
ヨゾラです🙌🏻
早くも書き貯めが無くなりましたのでこれからは投稿頻度が落ちます⤵
いいね、コメントとても励みになります💖前話では沢山の反応、誠にありがとうございました🥰
コメント
6件
うめぇ…!そりゃそうよな、死んだ人が普通にいたら話しかけにくいよなー…
テスト終わりの神小説は疲れとれるわ