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地下通路を進むこと数十分。
鳴海たちはようやく目的の出口から外へ出て、夜の高円寺へと降り立った。
深夜のため辺りに人気ひとけはなく、数人の足音だけが響いている。
だが一行がとある路地に入った時、その静寂が突然破られた。
のポケットに入っていた連絡用のスマホが震えたのだ。
“あぁ了解”
相手と二言三言やり取りした猫咲は、そう言ってスマホを切った。
「拠点がまた襲われたらしい」
「またか…」
猫咲からの報告にさほど驚くこともなく眉間を軽く揉んでいる鳴海。
そんな彼を心配して逆がアワアワしていると、同じく現場に出ている隊員から連絡が入る。
『こっちの班戻りますか?』
「待てよ!あそこにも俺らの部下はいる!生半可な訓練させてねぇぞ!」
『なら移動中の護衛やります!』
「護衛?どういう意味だ!」
『え、だって援護部隊の方は戻りますよね?ケガ人出てるだろうし…』
隊員のその発言に、大人組の視線は1人の男へと向けられた。
突然話題の中心に上がった鳴海は、ため息をついた。
静かに鳴海の前まで来た無陀野は、”どうする?” と優しく問いかけた。
「戻るか残るか…鳴海の判断に任せる」
「戻るなら俺が護衛につくよ~」
「紫苑は黙ってろ!今鳴海先輩が考えてんだから!」
「決められそうか?」
「……残るよ。確かにケガ人は新たに出たかもしれないけど、向こうには京夜くんがいるし。京夜くんいるならこれ以上亡くなることは無いって信じてるから。 だから俺は…ここにいる人を含め、外に出てる人たちを全力で守るよ」
「ん、分かった。大我、そういうことだ」
「了解!」
鳴海の男前発言に、大人組は揃って笑みを見せる。
そうしてやり取りがひと段落すると、6人は再び足を進めるのだった。
杉並区の隊長・桃際右京がいると思われる桃太郎機関本部。
その向かいのビルの屋上に無陀野たちが顔を揃えていた。
手すりの上に立ち緊張気味に本部の方を伺う鳴海に対し、大人組は驚くほどいつも通りだった。
「(桃の数が尋常じゃない…どさくさに紛れて何人か誘拐出来そう)」
「鳴海、緊張してんだろ?」
「そこまではしてないよ。猫ちゃんは落ち着いてるね」
「まぁな。あのぐらいは想定内」
「大丈夫!鳴海先輩の実力なら、そう簡単にはやられない!ゲホッ」
「無陀野先輩が直々に稽古つけたんすか?」
「あぁ。お前たちにも引けを取らないぐらいには仕上がってる」
「実際は仕上げられたんだけどね」
鳴海を中心に会話が弾む様子は、とてもこれから敵の本拠地に乗り込むとは思えないほど和やかだった。
「周辺に大勢の警護…中はもっと多いかもな。あのビル丸々、杉並区桃太郎機関の “本部” だ。
ほかにも支部がいくつかあるが、右京がいるのはあそこだろう」
「支部はうちの部下たちが対応する!あと右京が逃走する可能性も考慮して、周辺に部下を配置してる」
和やかムードを切り替え、杉並コンビが作戦について今一度確認を行う。
話を聞き終えると、鳴海は部下に向けて声をかけた。
「獄卒と愛執以外は好き勝手に暴れてきていいよ」
「マジか!!いいんすか隊長!!」
「ええんどすか?あても久しぶりに楽しめそうな現場やさかい張り切ってまうわ〜」
「人形!人形!」
「お兄様はどうしますの?まさか高みの見物とか…じゃありませんよね?」
「俺もやるって。イライラしてるし発散させないとね。愛執は俺とツーマンね」
「了解」
「舞蝶殿、吾輩たちは “お話” 相手を見つけに行きましょう」
1人1人と言葉を交わしていた鳴海の元へ不意に近づいたかと思えば、そう言って抱きついてくる朽森。
この短時間で何度となく繰り返される彼のセクハラ行為を、先輩も同期も呆れたように見つめていた。
そんな視線を背中に受けながら、朽森は耳元で鳴海にだけ聞こえるように言葉を紡ぐ。
「頑張るからさ、終わったらご褒美欲しいな~」
「そんな大層なもん持ってないけど」
「大丈夫、持ってるよ。…先輩の時間、俺にちょうだい?」
「5分で1000万ね」
「待って高すぎない?」
「ヤラシイコトしたいんなら俺より先に旦那様に許可取った方がいいよ」
「無理ゲーなんですけど…」
「しっかり戦果出せたらデートのお誘いぐらいは受けてあげるけど?」
「言ったね?約束だからね先輩…手出しちゃったらごめんだけど」
「…その時は土管に詰め込んで海に投げ捨てるから」
「紫苑。いい加減離れろ」
「は~い」
ニヤリと笑いかけると、朽森はようやく鳴海を解放した。
疲れた顔をする鳴海にに、無陀野は”大丈夫か?”と顔を覗き込む。
「あ、大丈夫だよ…無人くんも気をつけてね」
「ありがとう。危ないと思ったら、離脱して俺に連絡を入れること。いいな?」
「了解!」
「よっしゃ!杉並区鬼機関の戦闘隊員どもも気合い入れてけよ!」
『はい!』
「なるべく派手に暴れろ。桃の人員を集められる」
「鬼捜査中の桃も応援に来させて、被害にあう鬼を減らすってことですね!グッドで…ゲホッ!」
「準備はいいな。死ぬことは避けろ。…行くぞ!」
無陀野の合図で、ついに戦闘部隊が動き出した。
突入に向けてビルから飛び降りていく仲間を見送った鳴海は、すぐ横で血蝕解放する無陀野を見上げる。
見慣れた血の兵士たちが空に浮かぶや否や、向かいのビルは見るも無残な姿となった。
「ぐ…あの野郎…!」
「いきなり半壊させやがった!」
「効率よくいこうか」
「さすが無人先生…!」
「じゃあ行って来る。お前もしっかり運動してこい。また後でな、鳴海」
「うん!いってらっしゃい!」
笑顔で送り出してくれる鳴海の頭にポンと手を置いてから、無陀野もまたビルから飛び降りて行った。
5分も経つ頃には土埃や桃側の叫び声も落ち着き、ビル内での戦闘がメインになっていった。
今なら外にいた見張りもなく、多少なら暴れても問題無いと判断し、鳴海は軽やかに下へと降りる。
足音を極力立てないようにして中へと進む 途中でケガをしている隊員たちの応急処置をすれば、彼らは感謝の言葉を伝えてから再び戦場へと戻って行った。
そうしてたどり着いた大きなホールのような場所。
中からは建物が破壊されるド派手な音が聞こえ、同時に大地震のような振動が伝わってくる。
当然この中にもケガをした隊員がいるため、鳴海は意を決して室内へと踏み込んだ。
思っていた以上に暴れ回っている数名の大人たちを苦笑交じりに見やりながら、端の方で倒れている隊員の治療を始める。
「大丈夫?今止血するね」
「あぁ…ありがとう…助かるよ」
「どういたしまして!」
「すごいな、援護部隊なのに…怖くないのか?」
「あは、残念。俺は戦闘部隊だよ。残党処理で出てきただけだから。」
「そうか…それは失礼した」
「…あのさ、俺が派手にやったってのは秘密にしてくれない?」
「?」
「まだ生き残りがいたみたいだから」
穏やかな空気が一転、鳴海は隊員の背後に迫る桃の存在を認識して声をあげる。
ケガの影響で上手く体が動かず、万事休すかと思った次の瞬間…
隊員の前には、桃が勢いよく振り下ろした鉄パイプを素手で受け止める鳴海の姿があった。
力で押し負ける、なんてことは無く、鳴海は桃に向かって頭突きを食らわせる。
そして痛みで少しバランスを崩した桃から鉄パイプを奪い取り、躊躇なく顎に向かって振り抜いた。
前評判通り見事に相手を制圧した鳴海は、鬼の隊員を守るように仁王立ちで腕を組んだ。
「俺さ、今めっちゃ機嫌悪いから綺麗に殺すことできないよ」
「うぅっ…この、クソガキ…」
「人の話聞けっての…」
血蝕解放する事もなく残っていた桃の処理をする鳴海を見つめる5人。
誰もが助けに行かないとと思っていたのに、その必要がないどころか頼もし過ぎる一面を見て、4人は口元に笑みを浮かべていた。
一方で無陀野は相変わらずだが、満足そうな表情を隠せてはいなかった。
一時的に5人だけで無線を繋ぎ、各々思っていることを話し始める。
『先輩、すげぇな!』
『解放無しであそこまで応戦すんのか…』
『その正義感の強さが先輩の良いところ…ガハッ!』
『でも出番なくなっちゃったな~あ、先輩の護衛に俺行っていいっすか?』
『必要ない。久遠寺がそばにいるからな。それに必要があれば本人から連絡が来る』
無陀野の言葉に、後輩たちは揃って”了解!”と言葉を返す。
大人組が自分のことを話しているとは知らず、鳴海は未だに桃太郎の掃除を進めるのであった