テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
派手に暴れている大人組と、負傷した鬼を引き渡しつつ残党処理に専念する鳴海。
6人がバタバタと動き回っていると、突然無陀野のもとへ連絡がくる。
耳に仕込んだ通信機器を操作すれば、地下にいるはずの教え子からであった。
「どうした皇后崎」
『すまん、今大丈夫か?』
「問題ない、どうした」
背後から迫る桃を一刀両断してから、無陀野は落ち着いた声音で言葉を返す。
直後皇后崎から報告された内容は、捜していた内通者に関してだった。
『内通者は遊摺部だ。しかも四季を狙ってる』
「えっ!?従児ちゃんが…」
「100%か?」
『…正直わからねぇ。怪しいのに命懸けで四季を助けたり…でも何か隠してることは間違いない… 遊摺部が内通者の確率は100%じゃなく95%位だ…100%の確証がなくてわりぃが…』
「…いや、その5%はお前の優しさだ。対策を考える。警戒はしておけ」
会話は各自の耳に装着した通信機器にも流れ、治療中だった鳴海は聞こえてきた内容に思わず手が止まる。
内通者がまさかの生徒であること、そして同じく生徒である一ノ瀬を狙っていること…
ショッキングな情報の連続で、鳴海の脳内はパンク寸前だ。
と、そんな彼の頭に不意に乗せられる優しい手。
知っている感触に顔を上げれば、そこには思った通りの人物が立っていた。
「無陀野さん~地下には俺行きますわ~話は聞いてました」
「行けるか?紫苑」
「ここより楽そうだし~とか言って~ははは」
無陀野にそう告げると、早速朽森は建物を出て行く。
鳴海も自身の部隊から1人ついて行くように声をかけ、選ばれたのは花山院だった。
「柚、頼んだよ」
「ここは離れて遊んできてもええんどすか?」
「もちろん。沢山遊んできなよ」
「なら、お言葉に甘えてぎょうさん遊んでくるなぁ…裏切り者はどう対処するのん?」
「とりあえず捕縛して。その後のことはその後考えよう」
「えっ」
「八咫烏から出たなら俺1人の独断で決めれるけど、これは俺1人でどうこうする話じゃないよ。 」
「確かにそうどすなぁ。分かった見つけ次第捕縛しとくわ」
「ん。行ってらっしゃい」
鳴海に見送られ花山院は出発した。
それから30分ほど経ち、鳴海たちが相変わらず忙しく動き回っていると、また不意に耳の通信機器が音を立てる。
今度の相手は、先程外へと出て行った朽森だった。
『あ、京夜先輩。いまどんな感じっすか?』
『丁度皆に連絡する所だったよ。皆に緊急で報告がある。遊摺部君が鬼の住民情報を盗んだうえに…四季君を連れ去った』
「!」
鳴海が絶句するのも無理はない。
これで”遊摺部内通者説”が裏付けられただけでなく、一ノ瀬が危険な状況になってしまった。
生徒2人を一度に失いかねない事態に、朽森のお陰で戻った彼の表情がまた暗くなる。
しかし今度はしっかりと自分で立て直せるのが鳴海の良いところだ。
「(あれこれ考えるな…先のことは先で考えればいい…今は最優先事項でタスク処理…!)」
一旦入って来た情報を頭の片隅に置き、鳴海は自分を待っている隊員たちの元へ駆け寄った。
彼らからの感謝の言葉と笑顔に励まされ、徐々に気持ちが落ち着いてくるのが分かる。
そしてやることをすべて終え辺りを見渡せば、夜空が見えるほどに建物は破壊され、桃太郎は1人残らず倒されていた。
フロアの中心にはそれをやってのけた4人の姿。
その中の1人である猫咲が鳴海の視線に気づき、微笑みながら彼に手招きする。
「鳴海、全部終わったからこっちおいで?」
「うい」
「ケガしてねぇっすか!?」
「大丈夫」
「よく頑張ったな。鳴海のお陰でこちらの被害はほぼない」
「戦力も減らずに済みました!ありがとうございます!」
「そりゃよかった」
「先輩の体術、見事でした!鍛えられてきた成果が出て素晴らしいです!ガハッ」
「ありがと」
「あそこまで怒ってるのははじめてみましたけどね」
「あれは相手が悪いから」
「ふっ。…まっカッコ良かったんじゃない?」
やけに明るい月夜を見上げながら、鳴海は”その時”が来たと本能的に感じ取った。
朽森が言っていた”考えなければいけない時”が…
瓦礫の山と化した本部から移動しつつ、5人は言葉を交わす。
口火を切ったのは猫咲であった。
「あらかたぶっ潰したけど…右京はいませんね」
「上から右京は見えたか!?」
『いませんでした!』
「最初からここにはいなかったか」
「四季のことも捜さないと…!」
「京夜さんの報告だと、多分一ノ瀬は右京の所だな」
「同人誌になりそうな事とかされてないといいけど」
「大丈夫!四季君は必ず生きてる!いいですか、先輩!わからない時こそ明るい方を信じるんです!ガハッ」
「つまりイチャラブ的展開と…」
「脳みそ腐ってんのかよ」
「子供が拉致ってのはどうゆうことだぁ…!怖い思いしてるに決まってらぁ…!支部の方に右京はいねぇのか!?」
『(優し)いません!』
『(絶対怖い顔してるだろうけど優し)こちらもいません!』
「とにかく急いで右京を捜索しないとだね。奴が見つかれば必然的に一ノ瀬の居場所も分かるから、気合い入れないと」
「残党処理はお任せを〜」
猫咲と無陀野に挟まれて歩きながら、鳴海は元気にそう答えた。
直後、何かの気配を察した無陀野がグイと彼の腕を引く。
驚く秘書を護るようにして振り返った先に、見覚えのある桃が2人立っていた。
「無陀野ぉぉぉ!」
「ミョリンパ先生…困難とはこのことなんですね…」
練馬の桃太郎・桃華月詠と桃角桜介が再び無陀野の前に姿を見せた。
時は数時間前に遡る。
右京に呼び出された月詠と桜介は、豪華な調度品に囲まれた隊長殿を前に不満げな表情を見せる。
「随分な所に拠点構えてんじゃねぇかよ」
「よぉ問題児ども、来てもらって悪いなぁ。お前らも出世しちまって、昔は可愛げがあったのによぉ」
「うっせぇよ。んで?俺ら呼んだってことは困ってんのか?」
「あぁ。今回の戦争は絶対勝たなきゃいけねぇ」
「なんでですか?」
「そりゃ大金がかかってるからに決まってんだろ。長引く戦争のおかげで、今や主要の鬼には懸賞金が懸けられてる」
「興味ねぇな」
「右京さんてそんなお金好きな人でしたっけ?」
「年を取るにつれて金の偉大さを知っていったのさ」
「でも杉並の資料だと、紫苑・大我合わせても1億にならない金額ですけど?」
「特別ゲストが来てんだよ。無陀野一行がな」
右京のその言葉に、2人の目の色が変わる。
どこからか練馬での敗戦に関する情報を仕入れた右京は、リベンジという餌で彼らを釣り上げようとしていた。
すぐに食いつく桜介を制し、練馬の隊長は冷静に問いかける。
“懸賞金目当てなのに、自分たちに首を取らせるのはどういうことか?”…と。
「俺の最優先は最高額の一ノ瀬四季だ。お前らの部隊は一ノ瀬討伐の邪魔になる無陀野の排除をやってくれ」
「やろうぜ月詠!最近つまんねぇ争いばっかで退屈してたんだ!」
「…まぁせっかく来たんだしね。やり方はこっちで決めさせてもらいますよ」
「こっちの要望も聞いて欲しいんだけどなぁ」
「断る。俺らに指図してぇなら神様にでもなってからにしろ」
「わかったよ。お前らが言うこと聞くなんざ思ってねぇさ」
「じゃあこれで失礼しますよ」
「あー待て、1つ言い忘れてた。もう1人欲しい鬼がいんだよ」
「欲しい鬼?」
「斑鳩鳴海ってわかるか?」
聞いた瞬間、桜介の纏う空気が変わる。
生け捕り命令が取り下げられ、変な輩に狙われる心配はなくなった。
元々かかっていた懸賞金は無効とされ、金目当ての奴らも相手にしないと思っていた。
だが今目の前の隊長は、ハッキリとその名前を口にしたのだ。
拳に力が入る同期を横目に見ながら、月詠は殊更冷静な口調で話し出す。
「…もちろん知ってます。生け捕り命令が出てたぐらいですから」
「だよな。そいつも捕まえてきてくれ。わかってると思うが、生け捕りだぞ?」
「懸賞金もないのにどうして彼を?」
「あの鬼を産んだ家から別の懸賞金が出ている。状態次第ではかなりの大金になる」
「! …ふざけんなよ。あいつは俺らが「桜介ストップ」
「どうした?なんでそんな感情的になってる?」
「いえ、何でもないですよ。わかりました。彼のことも頭に入れておきます」
「月詠!」「頼むな」
今にもイライラをぶつけてきそうな相棒を無視して、月詠はさっさと部屋を出てしまう。
廊下では何とか我慢していた桜介だったが、エレベーターに乗り込んだ瞬間一気に爆発した。
「おい、どういうつもりだ!あんな理由で鳴海を捕まえるなんざ許さねぇぞ!高く売るって何だよ…あいつはモノじゃねぇ!」
「僕も同じ気持ちだよ。みすみす鳴海を渡したりしない。彼は大切な人財としてうちに迎え入れるんだから」
「だったら…!」
「でもあそこでそれを言ったら、別動隊を出して手荒に捕まえた後、僕たちに売ってくるだろ。 そんな関係性で仲間になっても、絶対に望む形にはならない。だったら自分たちで動いた方がいい。 1つ気がかりなのは、他に鳴海を捜している奴がいるかどうかだね…」
「クソッ!せっかく生け捕り命令がなくなったのに…また鳴海を怖がらせちまう」
「無陀野と並行して鳴海の捜索も隊員に伝えておこう。桜介の恋のお相手を護らないとね」
「おう。誰にも手は出させねぇ」
“恋”という単語にあれほど敏感に反応していた桜介が、今回は噛みついてこない。
ようやく自覚が出てきたのかな…と、月詠は保護者のような目で彼を見つめるのだった。
82
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!