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(健二さん、ごめんなさい。せめて今夜だけは……夢を見させてください)
ぼんやりした頭の中に、少しだけ芽生えた許婚への罪悪感。
でもそれも、大好きな人の温もりが近くに感じられる嬉しさには敵わなくて、私は塚田さんに誘われるまま、素直に彼に身体を預けてうっとりとまぶたを閉じてしまう。
そうしながら、ぼんやりと、お手洗いに行きたかったことを思い出したけれど、塚田さんにそんな恥ずかしいことを伝えられようはずもなく――。
いよいよ限界になったら……その時に考えよう。
お酒のためかな。いつもならもっとソワソワしてしまうようなことのはずなのに、悠長にそう思ってしまった。
***
「ん……」
無意識に寝返りを打ったところで、「トイレ……」とつぶやいて、私は自分のその声に目を覚ました。
塚田さんに寄り掛かって目を閉じていたときには、とてもじゃないけれどドキドキして眠れないと思っていた。それなのに、私は結局いつの間にか意識を手放してしまったみたい。
ほんのりと薄暗い部屋の中で、私は見知らぬベッドに寝かされていた。身体には柔らかな布団もかけられていて。
寝具全体から香る大好きな塚田さんと似た香りに、私は彼に包まれているような錯覚を覚えて眠りこんでいたらしい。
でも、いま視線を巡らせて見ても、傍に塚田さんの姿はなくて。
それに気付いたと同時に急に不安になった私は、慌てて身体を起こした。途端、くらくらとした眩暈に襲われて、思わずベッドに手をついて身体を支える。
「……塚田、しゃん?」
恐る恐るつぶやいてみたけれど、部屋の中には私以外の気配はないみたいだった。
朧ろな明るさの中、耳を澄ましてみるけれど答えが返る気配はなくて、不安がどんどん増してくる。
それと同時に、トイレに行きたいと言う思いまでもが切実になってきて……迷った末に私は、ベッドから降りてみることにした。
そっと床に足を下ろすと、ストッキング越しに冷たいフローリングの感触が伝わってきた。その感触を確かめながら、私は恐る恐る立ち上がる。
「ひゃっ」
途端、足元がふわふわして、私はベッドに尻餅をついて弾んでしまった。
スプリングに押しつ戻しつされるその揺れに、未だお酒でハッキリしない頭がくらくらする。
と、部屋の一画が、切り取られたように明るくなって、まぶしさに目を細めたと同時に塚田さんが慌てたように走り寄っていらっしゃるのが見えた。
「大丈夫ですか? どこも打ったりしてないですか?」
「は、はい、大、丈夫なのれす……。その、私……お手洗いに行きらくれ、それれ……」
ゴニョゴニョ……。
塚田さんの姿が見えたことに安堵したと同時に、寝室らしき部屋で二人きりなことに気がついた私は、今更ながらドキドキしてしまって語尾が尻すぼみになる。
しかもテンパって大好きな塚田さんにトイレに行きたいとか恥ずかしい告白までしてしまったし……!
(うわぁーん、私のバカっ! 今すぐ消えてしまいたいのですっ……)
そんなあれやこれやが相まって、居た堪れなくなった私は、慌てて彼から視線をそらしてうつむいた。
鷹槻れん

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#契約結婚
鷹槻れん

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コメント
2件
酔っ払いなひおりちゃん可愛い!
塚田さんに包まれて眠ってしまったあとの、目覚めた瞬間のぼんやり感と「トイレ行きたい」の恥ずかしさがすごくリアルで、思わず笑顔になっちゃいました。許婚への罪悪感と塚田さんへの気持ちの間で揺れる主人公の心情が繊細で、ドキドキしながら読んでいました。ふたりきりの寝室の空気感がたまらないですね。続きが気になります!