テラーノベル
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下を向いたまま、所在なく手をゴソゴソと組んだり外したり……腕時計をソワソワと触ってみたりを繰り返しながら。
それでも、もうひとつだけ。
どうしても気になったことがあった私は、視線を合わせられないままに塚田さんに問いかける。
「――あ、あの、ここは……?」
今しがた、見るとはなしに視線を落とした腕時計は、二十時過ぎを指していた。
歓迎会は十七時半過ぎからスタートしたので、そんなに時間は経っていなくて……そのことにホッと胸を撫で下ろしたのだけれど。
そうなると、今度はここはどこ?が気になってしまった。
今、塚田さんが飛び込んでいらした扉から、隣室の明かりが漏れ込んできている。
隣の部屋もこの寝室も、とても綺麗に整えられてはいるけれど、そこはかとなく人が暮らす生活臭のようなものが漂う、そんな印象の空間だった。
「勝手に連れてきてしまってすみません。ここは……僕の家です」
「つ、つきゃっ……!?」
私は塚田さんの言葉に、思わず顔を上げると、そんな頓狂な声とともに瞳を大きく見開いた。
余りに驚きすぎて、「塚田さんの!?」という言葉がうまく言えなかった。
「……立てますか?」
「は、はい……」
まだ衝撃の余韻が残っていたけれど、塚田さんに優しく手を差し伸べられた私は、彼に支えられてゆっくりと立ち上がる。
塚田さんは作業着の上を脱いでTシャツになっていらして、だからと言って下は部屋着に着替えるでもなく作業ズボンのままで。
ここがご自宅ならば、本来今頃お風呂に入ってゆっくりなさっている頃だったかも知れない。
そう思ったら、申し訳ない気持ちになってしまった。
「ごめ、……にゃさい」
塚田さんのほうを見られなくてうつむいたままそう言ったら、「それは……何に対する謝罪ですか?」と聞かれてしまった。
そんなことを言われるとは思っていなかった私は、一瞬言葉に詰まってしまう。
「私、塚田しゃんにご迷惑おかけしれ……しまってましゅ」
一人で歩くことも出来ないほどに酔っ払って、まともに喋ることもままならない。
考えただけで恥ずかしくて……穴があったら入りたい。
私の言葉を黙って聞いていらした塚田さんが、瞬間、どこか安心したようにほぅっと溜息を吐かれた。そうして「なんだ、そんなことでしたか」とつぶやいて小さく笑う。
「しょんな、ころ?」
私にとっては大問題なのに、と思いながら聞き返すと、
「ええ。僕はまた、僕を大好きだと言ってくださったことを後悔しておられるのかと、心配しました」
クスクスと笑いながら、楽しそうにそう仰る。
私は、塚田さんのその言葉に瞳を見開いた。
(あれは……夢の中の出来事じゃ……なかった、の?)
塚田さんの楽しそうな表情を見て、彼が私の告白を喜んでくださっていることが分かった。それを素直に嬉しいと感じれば感じるほど、それと同じぐらい……いやそれ以上に……。健二さんに対する罪悪感がふくらんで。
「あ、あにょっ、わ、私には……っ」
思わず背後を振り向いてそこまで言って、私は塚田さんの笑顔に、ずる賢くも思わず言葉を飲み込んでしまう。
(私は……人として取り返しのつかない事をしようとしているのですっ)
コメント
2件
恋心はどうしても抑えられないよね。
読了しました……!酔って告白したこと覚えてなくて、でも本人に「後悔してるのかと心配した」って言われて、あっ、夢じゃなかったんだって気づくシーン、すごく切なかったです。主人公の「しょんな、ころ?」みたいな言い間違いも可愛くて、でも同時に健二さんへの罪悪感がぐっと迫ってきて……三角関係の重みがじわじわ来る展開、好きです。この空気感、続きが気になります🌙
latte
775