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「なに、よぉ……これぇ!」
適当に釜にぶち込んだ結果、出来上がったんだろうよく分からない造形物が、床のそこかしこに転がっている。
「ゼロ様に貰った材料……全部……」
マーリンの途方にくれた声が、虚しく響く。
「いやぁぁぁぁぁあ!! あたしのっ、お気に入りの服がぁぁぁ!」
うわぁ、ルリの服ときたら金ぴかの上に、なんかトゲトゲがついてたものものしい感じになってやがる。趣味悪っ!
そして目の端をさっきから蠢いてる、なんか見たことない生き物。
これってもしかして、新しいモンスター生み出したり……いや、まさかなぁ。
拗ねたいたずらっ子、手に負えねぇ。
この惨状を生み出したと思われるいたずらっ子ブラウは今、キングサイズベッドでユキを抱きしめて寝ている。
泣きながら寝てしまったのか、頬に涙の跡がある。
浜辺で遊んで帰ってきたら、誰もいない。置いていかれて拗ねた結果だろうと、容易に想像がつく。可哀想な事をした。次からは気をつけよう。お互いの為に。
しかし、今回はいたずらした相手が悪かったかも知れない。ルリとマーリンから、かつてない黒いオーラを感じる。
「ブラウ?起きてちょうだい?」
優しい声と口調で起こされたブラウ。
目をこすりながら「う~……なんだよ、起こすなよォ」とかボソボソ言っていたが、不穏な空気に気付いたのか、急に後ろに飛びすさり、女性陣から距離をとった。
戦闘センスは普通にありそうだ。そのうち鍛えてやろう。
「なっ、なんだよ! お前らが悪いんだぞ!!」
「そうね、置いて行ったのは悪かったわ。でも世の中にはね、やっていい事と悪い事があるのよ」
両手を腰にあて、威圧感たっぷりに見下ろすルリ。黒オーラ全開で、俺でも怖い。
ブラウはチラチラこっちを見ているが、助けないからな。
子供は元気にいたずらして、度が過ぎればガツンと怒られるのが望ましい。今日のは度が過ぎてるから、あきらめて怒られてくれ。
「ブラウ、こっちを見なさい」
「うぅ……だって、お前らが置いて行くから……おれ、さ、寂しかったからっ」
泣きだしてしまった。
「お前らが、悪いんだっ……」
「だからって材料全部使うなんて酷いわよぉ~!」
「マーリンは黙ってて」
ひっくい声で遮られて、マーリンは一瞬で黙ってしまった。ルリ最強!
「あたし達も悪かったから、マーリンの材料全部ダメにしちゃった事も、あたしの服を有りえないデザインにした事も、100万歩譲って許してあげる」
譲るのに100万歩も必要だったか。
「でも、あの動いてるの、スライムじゃないの? ブラウ、生き物の合成は遊び半分でやっていい事じゃない。死んでしまったらどうするの!」
俺達は全員が凍りついた。
ルリがまともに説教してるのもかなりレアだが、あの蠢いてるの……あれが、スライム?
「だって! あいつスラっちに憧れてて、し、進化したいって、言うから」
自分の事が話題になったのが分かったのか、元スライムが、庇うようにブラウの前に出た。
「ノーネームだから死なない、って。試したいって……俺っ、大丈夫だと思って……ふぇ……ご、ごめんなさい……っ」
なるほど。たしかに人道的にはどうかと思うが、元スライムのやつ、意外と考えてるな。ぶっちゃけ俺でも同じ立場なら考えた選択しかもしれない。
本格的に泣き始めたブラウに、元スライムはプルプルと寄り添って慰めているようだ。それを見て、ルリは大きくため息をついた。
「んもぅ……泣き顔が可愛かったから、特別に許してあげる」
「アホかぁっ!」
もう、お前にはガッカリだ!
やぁねぇ冗談よ、と笑っているが、今のは絶対に本気だった。
「まさかと思ったけれど、ブラウはスライムの言葉が分かるのね」
コクコクと頷くブラウ。スライムの言葉が分かるなんて初めて聞いたぞ。そんなことってあるのか。
「私もダンジョンモンスターのはしくれだから、そこのスライムちゃんの気持ちも分からないではないわ」
「だな、何をしてでも強くなりたい欲求は俺にもある」
俺も軽く同意した。ゼロは驚愕の表情だが、ダンジョンなんかに召喚されてくるようなヤツはそこそこクレイジーだ。まあ、スライム達は下位の魔物だから召喚に応じるの応じないのって選択肢はないだろうが、まあ、強くなりたいのは本能だしなぁ。
「ねぇブラウ、2つだけ約束して。錬金釜にモンスターを入れるのは、本人が希望した時だけ。そして、ゼロかマーリンがそれを許した時だけ。……ゼロ、それでどうかしら」
ゼロが口を開きかけたが、俺はそれをやんわりと止めた。俺に敵を「殺さないで」と泣きながら言った時と、同じ表情だったからだ。
「ゼロ、本人の望みなら許してやっていいんじゃないか? 危険もちゃんと説明してやりゃいい。お前が思うよりずっと、この世界の奴らは強さに重きがあるんだよ」
ゼロは悲しそうな顔をしている。
「死んでも? 自分じゃなくなっても?」
俺は頷く。俺だって、召喚契約は尊厳の全てをなくす覚悟だった。運良く大事にしてくれるマスターの所に召喚されただけだ。
「僕、自分の事も分からないの、凄い怖いよ。そんな状況になっても? それでも、強さの方が大事?」
俺とルリが頷く。高レア度で召喚に応じてるヤツなんか、少なからずそんな輩だ。
ゼロは暫く迷った後、「分かった」と答えた。
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