…痛い。
お母さん、お父さん、やめて。
私はただ、外に出たいだけなの。
何を言ってもお父さんは私を殴るのをやめない。
ごめんなさい、ごめんなさい。
私が「悪い子」だったから。
お父さんは私を怒鳴ったり殴ったりするんだ。
ねぇ、お父さん。
私が、「いい子」になれる方法。
私ね、思いついたんだ。
…あれ、何で、こんなに視界が赤いの。
……お父さん?
なんで、目を閉じてるの?
なんで、目を開けてくれないの?
私、また悪いことしちゃったのかな…?
お母さんも、どこかに行っちゃった。
…私、相変わらず「悪い子」なのかな…?
……お母さんも、ずーっと帰ってこない。
…もう、いなくなっちゃおうかな
私が生きられてたのは、お母さんのおかげ。
まだ、「優しかった」お母さんがいてくれたから。
ねぇ、帰ってきてよ。
私が生きる理由。
お母さんがいなきゃ。
私、生きていけないよ。
…そうだ。
お母さんが、昔よく連れて行ってくれてた場所。
たしか…神社だったかな…
…あぁ。
懐かしいなぁ。
確か、最後に来たのは5年前だったかな。
その時、本殿の裏道を見つけたんだ。
そこを通っていってね、開けた場所に出たの。
そこにね、綺麗な金髪の狐みたいな人がいたの。
その人はね、私が話しかける前に気づいたの。
そしてね、知らないはずの私の名前を呼んだの。
「勿忘草 桜」って。
私ってさ、名前が全部変なんだよね。
まぁ、そんなことはどうでもいいの。
あぁ、この場所、久しぶりだなぁ。
……あの人、いるかな……?
あ。
長い髪を翻し、狐目の青年がこちらを見る。
「…あれ、君…前会ったすか?」
覚えててくれてた。
私は思わず、そのまま抱きついていた。
「……」
あれ…なんて言おうとしたんだろう…
私が言葉を思い出していると、彼は私を
抱き返してくれた。
「…なんかあったんすか?」
今までどんな人からも聞いた事のない優しい声。
私はいつの間にか、自分がした「いい子」になる
方法をベラベラと話していた。
「…そっか」
彼は、なんとも言えない表情をしていた。
私は、そんな顔させたかったわけじゃない。
「…ごめんなさい」
自然と、その言葉が漏れた。
離れないとと思って、後ずらそうとした。
だけど、彼は私を離そうとしない。
…いやだ
変な気持ちになる
ずっと誰かに、こうされたかったみたいな。
誰かに、抱きしめられたかった。
誰かからの、愛情が欲しかった。
別に、この人は私を愛してるわけじゃない。
ただの知人。
そんな程度だ。
だけど。
愛されたい。
自分を愛してくれていた人を殺めてから、
このことに気づいた。
でも、もう遅すぎる。
もう、自分を愛してくれる人はこの世に居ない。
…じゃあ、私が生きてる意味ってなんだろう
「…俺、家族が居ないんすよね。」
突然、彼が口を開いた。
どうしようもないくらい、寂しそうな声で。
「…だからさ、誰かとこーゆーことするの
すげー久しぶりなんすよね」
そう呟き、私のことを強く抱きしめる。
「こーしてると…懐かしい気分になるんすよね」
お互いに、愛し、愛されたい。
そんな感じだ。
そして、耳元で何か呟かれた。
「俺は、あんたのこと好きっすよ」
刹那、強い風が吹く。
2人の姿は、神隠しのように消え去った。
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