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パルタ人の男キオブは建設会社の社長であり、娘のプロタも総務課として働いていた。キオブはプロタと交際するティランのことを息子のように可愛がっていた。
平和な日々は破られた。
ティランが爆破テロ事件の容疑者として逮捕され、キオブの職場が関係していたからだ。
だがキオブはティランの無実を信じていた。
それでも現実問題として会社には張り紙、不審郵便物が投函され、イタズラ電話も鳴り止まない。
今もまた、受話器を取ると、聞き取れない罵声がプロタの鼓膜をぶちぬいた。
「もう嫌っ!」
プロタは泣いた。どうしてこんな目に遭わされないといけないのだろう。
* *
桜祐警部と千代田春警部は都内のカラオケ店で待ち合わせし、部屋に入室した。にぎやかしにモニターの音量を大きめにする。
これは公安警察の陰謀を明らかにするためのミニ捜査会議なのだ。
切り出したのは桜祐だった。
「警備企画課にて、課長補佐の資料を運良く見る機会がありましたよ。警察庁長官が言っていたのは、やはり公安による横浜ランドマークタワーの爆破工作のようです」
「犯行声明の送信工作もあった?」
「ありました。正午です」
「それなら、私が持ってきた資料とも一致するね」
「やはり警備企画課の直属部隊が工作したんだ。ティランさんは無実なんだ!」
「でも、どうするのこれ、私達が告発してもきっと報復されるよ」
「……無理かもしれないけど、父さんを頼ろう」
「祐君のお父さん、元警視監で公安の味方するよ? 頼れるかな?」
桜祐は腕を組み、のけぞった。
しばらく考え込んでいるようだ。
「グローバル人材活用法案ってあるじゃないですか、野村幹事長のゴリ押しだけど警察庁はそれを再審議という形で骨抜きにしようとしている。それに対して今回の事件でしょ?」
「うん? それとティランさんの関係は?」
「つまり、ティランさんを釈放させる代わりに、真犯人不明という形にして、警察庁を責めないでおき、野村幹事長の立場をよくします。自身が推薦した移民の無実が証明された訳ですしね。ついでに、グローバル人材活用法案を警察庁主導で再審議するよう畠山総理大臣から要請させます」
「ちょっと複雑だけど、わかった。祐君に任せるよ」
ふたりはデンモクに曲を入れ、歌い始めた。歌わないと店員に怪しまれるからだ。
* *
プロタはキオブの建設会社のビルの屋上にいた。
「これで楽になれる……」
その瞬間、彼女の身は宙に浮く──
社長室のキオブは、何か液体が破裂するような大きな物音を聞いた。
階下に降り、敷地に出ると、プロタが死んでいた。