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僕は、珍しくこの日に東京・渋谷へ繰り出した。 仕事なのだ。
忘れもしない3.11を伝えるのが、ひとつの仕事。
僕と、福島と岩手も一緒で。
あの日岐阜に助けてもらった恩を、きっと忘れはしない。彼は命の恩人でもある。
ネットを見ると、ときどき「震災で死んだやつ○○すぎだろw」とか馬鹿にする奴がいるが、そういうのを無くすのが僕らの目標だ。 暗い出来事は大体標的になるので、広島と長崎も尽力しているらしい。
なにかいいお供え物でも買おうかな、と店を探していると派手なオレンジ髪が見えた。
あの色の髪の持ち主は、間違いなく長野だろう。
しかし長野は、こちらを見るなり走ってどこかへ行ってしまった。
福島と岩手に荷物をすべて押し付け、長野を追いかける。
せめて、理由だけは聞きたかった。
しばらく追いかけると、疲れたのかベンチにフラフラと座り込んだ。体調でも悪いのだろうか。
近づくと、すすり泣く声が聞こえた。
どうしてしまったのかと抱きしめる。
「みやぎ、しゃ……うぐっ」
「長野……」
今日は3月12日。
思い出した。
それは、東北大震災の翌日。
中部は確かに岐阜を送り出した。
長野は村へ向かい、それぞれ目的地へ移動した。
瓦礫の下から僕と福島が助け出され、あとは岩手だけ。
そんな時だった。
岐阜のスマホは地震を知らせた。
紛れもない、気持ち悪くて頭の痛くなる緊急地震速報。不快な音が、福島が見つかって安堵していた空気を切り裂いた。
岐阜の手は震え、目は画面を見つめていた。
冷たい空気が頭を冷やし、現場は騒然とした。僕も頭が真っ白になった。
また、またあの大きさの地震が来るのか?と。
今震度7が来たら、助けに来てくれた他地方の皆まで危険にさらしてしまう。
しかし震源地は東北ではなかった。
バツマークが長野の北部を指していた。
震度は6。
東北大震災と比べれば、弱いかもしれない。
それでも怖かった。
今日の長野の行先は、北部にある村。
まさに震源地。
岐阜がスマホを落としそうになるが、愛知から電話がかかってきていた。
「岐阜、落ち着いて聞いて。」
「長野が電話に出られなくなってる。」
「倒壊に巻き込まれたのが確定した訳では無いけど、恐らくあそこは分断されてる。 」
「もし、もし……最悪、巻き込まれてたとしたら 」
「僕らの素人の知識じゃどうにも出来ない。」
「……東北を出て長野の安否を確認する」
「もしくは、残って救助活動を続ける 」
「岐阜には選ぶ権利がある。自分がどうしたいか考えて、連絡ちょうだい」
岐阜は10秒ほど考えていた。
そして、絞り出したような声で、
「ごめん、ごめんね……帰って、帰って 長野のこと助けに行っても、いいかな………」
僕は迷わず背中を押した。他地方の人に、苦しい思いをさせるのはなんだか嫌だった。
岩手は、自分たちで何とか助けてみよう。
たとえ東北だけじゃ無理でも、周りの人と協力すればきっと助けられるはずだから。
岐阜は何度も「ごめん」と謝りながら走り去っていった。
そんなことがあった。
15年前の……ちょうど今頃だろうか。
長い回想を終えた時、何となく涙が出た。
「ごめんなさい、ごめんなさい……これくらいで、泣いてしまって……」
この反応を見るに、長野は恐らく言えなかったのだ。
辛かったはずだ。悲しい思いをしているのに、気づいても貰えないだなんて。
東北の方が、確かに規模は大きい。
長野はきっと、
『東北の人がさらに大きな地震で苦しんでいるのに、弱音なんて吐いていられない』
そう思っていたのだろう。
別に泣いたって良かったのに。
辛い思いをしたんだから。
誰だって、他人の骨折より自分のささくれの方が痛いだろう。
…………
今日まで、長野の地震は知られることなく、震災の影に隠れてきた。
東日本大震災。
ここにあるのは東北沖での地震だけではない。
自分が言うのもなんだが、大きく被害を受けたのが東北だけなら「東北大震災」で良かっただろう。
でも、その時期に地震で被害を受けたのは東北だけでは無い。
だから「東日本」大震災。
テレビでは取り上げられない。
東北が主役になる。
でも、この1日くらい思い出してあげて欲しい。
長野での地震の存在を。
「これくらい、じゃないよ。」
「長野だって怖い思いをしたんでしょ?」
「僕は別に、長野が泣いたくらいで怒らないよ。」
「僕が骨折してるの見るより、その手のささくれの方が痛いでしょ?」
「……はい」
「そう、ですね……!」
「長野も小学校とか行くでしょ?してみなよ、その地震の話」
「僕らの仕事は伝えることなんだからさ、もうちょっと、地震の怖さとか……伝えていこ」
「私で、いいのなら……やってみます」
「……うん、そう言ってくれると思ってたよ」
「久しぶりに、そこの喫茶店でご飯食べよ!」