TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ガルーナ村にガルルン茸を送ってからの数日間、私は何となくの毎日を過ごしていた。


何となくお店のレイアウト構想を練って、何となくアイテムを並べてみて。

何となく錬金術師ギルドの依頼を受けて、何となく納品して。


そうこうしているうちに、アルヴィンさんがやって来る日が訪れた。

アルヴィンさんというのは、王国軍第二装備調達局の人で、先日爆弾の依頼をしていった人だ。


まずは客室に通して、お話から入る。



「本日はお時間を頂きましてありがとうございます。依頼した品は、いかがでしょうか」


「はい、全部できていますよ。

えぇっと、どういう形で納品すれば良いですか?」


「依頼品が置いてある場所まで馬車をまわしますので、そこまでご案内ください。

無作為にいくつか現地検品したあと、品物を全てお預かりいたします。

報酬のお支払いは後日、全ての検品が終わったあとで、ということでご容赦ください」


なるほど、さすがに数量が多い取引だけはある。

支払いは後日……。今までは納品したら即現金だったから、こういうのにも少しずつ慣れていかないとね。


「分かりました。

ご依頼頂いた品ですが、今は私のアイテムボックスに入っています。

私が馬車の方まで伺いましょうか?」


「おお、アイテムボックスをお持ちなのですね。

馬車は表の道で待機させているのですが、さすがにそこで爆弾のやり取りはできませんので……。

敷地内のどこか、場所をお借りできますか?」


「はい、問題ありません。

もしよろしければ、調達局の施設でお渡しすることもできますが……」


最近は何となくの日々が続いていて、少し刺激が足りなかったところだ。

王国軍の施設なんかを見学できたら面白いと思ったのだが――


「いえ。ありがたいお申し出ではありますが、そこまでして頂かなくて結構です」


……あっさり却下されてしまった。うーん、残念。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




表の馬車を敷地の中に案内して、工房の出入り口まで来てもらう。

馬車の御者と警護の人の他に、もう1人の青年がいるようだった。


「アイナ様、こちらが検品担当の者になります」


「初めまして、検品担当のスリッタでございます」


「こちらこそ初めまして、錬金術師のアイナです。今日はよろしくお願いしますね」


先手必勝、思いっきり微笑む!

これはお手柔らかにお願いしたいときの、常套手段でもある。


「それではアイナ様、こちらに依頼品をお願いします」


「はい。それでは初級爆弾から出しますね」


事前に初級爆弾を20個ずつ入れた箱を作っておいたので、アイテムボックスからそれを10箱出す。


「おお、綺麗に詰めて頂いたんですね。ありがとうございます」


「いえいえ、これくらいは」


実際のところ、受け渡しがグダグダしてしまうとこちらも疲れてしまう。

相手を|労《いた》わりつつ、自分も労わる。そんな寸法だ。


「アボット上長官、現地検品を始めます!」


「よろしく頼む」


アボット……というのは、アルヴィンさんの苗字だ。

そう言えばこの世界で苗字を呼ぶのって、今まであまり聞かなかった気がする。

基本的にはみんな、下の名前で呼び合うよね。元の世界では少し考えられないことだけど。


そんなことを思いながら見ていると、スリッタさんは最初の箱の適当な初級爆弾を手に取って、鑑定スキルを使った。


「……おぉ!」


「うん? どうかしたのか?」


「噂には聞いておりましたが、品質がS+級ですね……!」


スリッタさんの言葉に、アルヴィンさんも鑑定ウィンドウを覗き込んだ。


「ふむ、威力も高いな……。

威力だけを見れば、中級爆弾以上か……」


スリッタさんはその後も同じように、いくつかの初級爆弾を鑑定していく。


「……凄いですね、アボット上長官!

鑑定したもの全てがS+級ですよ!!」


「ふぅむ、これは凄い。S+級は稀にできることがあるが、安定供給には程遠いからな……」


ふふふ、凄いでしょう。報酬を上乗せしても良いんですよ!

……何ていうことは、さすがに言えない。言えないから、心の中でこっそりと。


「初級爆弾の現地検品、問題ありません!」


「了解した。

それではアイナ様、引き続き中級爆弾をお願いできますでしょうか」


「はい、それではこちらに」


初級爆弾と同様、中級爆弾を20個ずつ入れた箱を5箱出す。


「引き続き現地検品を行います! 鑑定っ!」


宙にウィンドウが出ると、アルヴィンさんは積極的に覗いていった。


「……おお、これもS+級! 威力は高級爆弾と同じじゃないか!!」


「ははぁ、本当ですね……。これは凄い……」


ふふふ、凄いでしょう。報酬を上乗せしても良いんですよ!

やっぱり口に出しては言えないけど、心の中で思うのは自由だよね?


「……アイナ様。

高級爆弾や他の爆弾も、どうしても引き受けて頂けないものでしょうか」


「えっと、それは申し訳ないのですが……」


「軍としてもサポートするので、何とか、こう……」


「私の専門は薬なので、ポーションなら喜んでお受けできるのですが」


そう言いながら、アイテムボックスから高級ポーションを出して渡す。

アルヴィンさんはしばらくそれを眺めたあと、スリッタさんに鑑定を促した。


「……はい、これもS+級ですね……」


「……何てこった」


アルヴィンさんとスリッタさんは、呆然とこちらを見ている。

うん、この感覚は懐かしいや。


「ま、まぁ私もS-ランクの錬金術師ですので……」


「いやいや……。

Sランクの錬金術師が作ったポーションを見たことはありますが、それでもA級前後でしたよ?」


あ、そうなんだ?

錬金術師のランクって、品質よりも、作ることのできるアイテムが評価されるっぽいのかな?

私の場合は品質で評価された気もするんだけど……とすると、どちらかが秀でていれば良い感じ?


「錬金術師ギルドでも、品質だけは定評がありますので……、はい」


「それにしても、これは……。

いや失礼。とても凄いものを見せて頂きました」


そう言いながら、アルヴィンさんは高級ポーションを私に返してきた。


「あ、そのポーションはお持ち帰りになって、関連部署の方にアピールしておいて頂けると!」


「ははは、営業でしたか。

それでは、こちらはお預かりさせて頂きます」


「いえいえ、そのまま差し上げますので。よろしくどうぞです」


「えぇ? 高級ポーションもそれなりに値が張るものですし、しかもこれはS+級……。

本当によろしいのですか?」


「どうぞどうぞ。

その代わり、爆弾よりもポーションのお仕事をお願いしますね」


「うむむ……。ポーションは私の管轄外ですからね……。

できればこう、爆弾関連を――」


尚も言うアルヴィンさんには、ひたすら笑顔を向けて、出来るだけスルーしておくことにした。



「――中級爆弾の現地検品、問題ありません!」


「む、そうか。了解した。

アイナ様。検品が終わりましたので馬車に積み込み次第、失礼させて頂きます」


「はい、お疲れ様でした。

ちなみに、報酬はアルヴィンさんがお持ち下さるのですか?」


「いえ、別の者が来る予定です。

恐らく、翌日か明後日になると思います」


「それでしたら、受け取りはメイド長のクラリスまでお願いしても良いですか?

私も不在の場合がありますので」


「承知しました、クラリスさんですね。

担当の者にはそのように伝えておきます」



初級爆弾と中級爆弾の箱を馬車に積み終わると、アルヴィンさんたちは挨拶をしてから帰っていった。

これでひとまず、王国軍への納品はおしまい……っと。


次は、出来れば薬関係の依頼を受けたいかな。


爆弾はまた依頼が来たとしても、引き続き中級爆弾まで、ということで進めさせて頂こう。

威力は普通のものより高いし、報酬も上乗せさせてもらう……っていうのも、アリだよね?

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

25

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚