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ガルーナ村にガルルン茸を送ってからの数日間、私は何となくの毎日を過ごしていた。
何となくお店のレイアウト構想を練って、何となくアイテムを並べてみて。
何となく錬金術師ギルドの依頼を受けて、何となく納品して。
そうこうしているうちに、アルヴィンさんがやって来る日が訪れた。
アルヴィンさんというのは、王国軍第二装備調達局の人で、先日爆弾の依頼をしていった人だ。
まずは客室に通して、お話から入る。
「本日はお時間を頂きましてありがとうございます。依頼した品は、いかがでしょうか」
「はい、全部できていますよ。
えぇっと、どういう形で納品すれば良いですか?」
「依頼品が置いてある場所まで馬車をまわしますので、そこまでご案内ください。
無作為にいくつか現地検品したあと、品物を全てお預かりいたします。
報酬のお支払いは後日、全ての検品が終わったあとで、ということでご容赦ください」
なるほど、さすがに数量が多い取引だけはある。
支払いは後日……。今までは納品したら即現金だったから、こういうのにも少しずつ慣れていかないとね。
「分かりました。
ご依頼頂いた品ですが、今は私のアイテムボックスに入っています。
私が馬車の方まで伺いましょうか?」
「おお、アイテムボックスをお持ちなのですね。
馬車は表の道で待機させているのですが、さすがにそこで爆弾のやり取りはできませんので……。
敷地内のどこか、場所をお借りできますか?」
「はい、問題ありません。
もしよろしければ、調達局の施設でお渡しすることもできますが……」
最近は何となくの日々が続いていて、少し刺激が足りなかったところだ。
王国軍の施設なんかを見学できたら面白いと思ったのだが――
「いえ。ありがたいお申し出ではありますが、そこまでして頂かなくて結構です」
……あっさり却下されてしまった。うーん、残念。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
表の馬車を敷地の中に案内して、工房の出入り口まで来てもらう。
馬車の御者と警護の人の他に、もう1人の青年がいるようだった。
「アイナ様、こちらが検品担当の者になります」
「初めまして、検品担当のスリッタでございます」
「こちらこそ初めまして、錬金術師のアイナです。今日はよろしくお願いしますね」
先手必勝、思いっきり微笑む!
これはお手柔らかにお願いしたいときの、常套手段でもある。
「それではアイナ様、こちらに依頼品をお願いします」
「はい。それでは初級爆弾から出しますね」
事前に初級爆弾を20個ずつ入れた箱を作っておいたので、アイテムボックスからそれを10箱出す。
「おお、綺麗に詰めて頂いたんですね。ありがとうございます」
「いえいえ、これくらいは」
実際のところ、受け渡しがグダグダしてしまうとこちらも疲れてしまう。
相手を|労《いた》わりつつ、自分も労わる。そんな寸法だ。
「アボット上長官、現地検品を始めます!」
「よろしく頼む」
アボット……というのは、アルヴィンさんの苗字だ。
そう言えばこの世界で苗字を呼ぶのって、今まであまり聞かなかった気がする。
基本的にはみんな、下の名前で呼び合うよね。元の世界では少し考えられないことだけど。
そんなことを思いながら見ていると、スリッタさんは最初の箱の適当な初級爆弾を手に取って、鑑定スキルを使った。
「……おぉ!」
「うん? どうかしたのか?」
「噂には聞いておりましたが、品質がS+級ですね……!」
スリッタさんの言葉に、アルヴィンさんも鑑定ウィンドウを覗き込んだ。
「ふむ、威力も高いな……。
威力だけを見れば、中級爆弾以上か……」
スリッタさんはその後も同じように、いくつかの初級爆弾を鑑定していく。
「……凄いですね、アボット上長官!
鑑定したもの全てがS+級ですよ!!」
「ふぅむ、これは凄い。S+級は稀にできることがあるが、安定供給には程遠いからな……」
ふふふ、凄いでしょう。報酬を上乗せしても良いんですよ!
……何ていうことは、さすがに言えない。言えないから、心の中でこっそりと。
「初級爆弾の現地検品、問題ありません!」
「了解した。
それではアイナ様、引き続き中級爆弾をお願いできますでしょうか」
「はい、それではこちらに」
初級爆弾と同様、中級爆弾を20個ずつ入れた箱を5箱出す。
「引き続き現地検品を行います! 鑑定っ!」
宙にウィンドウが出ると、アルヴィンさんは積極的に覗いていった。
「……おお、これもS+級! 威力は高級爆弾と同じじゃないか!!」
「ははぁ、本当ですね……。これは凄い……」
ふふふ、凄いでしょう。報酬を上乗せしても良いんですよ!
やっぱり口に出しては言えないけど、心の中で思うのは自由だよね?
「……アイナ様。
高級爆弾や他の爆弾も、どうしても引き受けて頂けないものでしょうか」
「えっと、それは申し訳ないのですが……」
「軍としてもサポートするので、何とか、こう……」
「私の専門は薬なので、ポーションなら喜んでお受けできるのですが」
そう言いながら、アイテムボックスから高級ポーションを出して渡す。
アルヴィンさんはしばらくそれを眺めたあと、スリッタさんに鑑定を促した。
「……はい、これもS+級ですね……」
「……何てこった」
アルヴィンさんとスリッタさんは、呆然とこちらを見ている。
うん、この感覚は懐かしいや。
「ま、まぁ私もS-ランクの錬金術師ですので……」
「いやいや……。
Sランクの錬金術師が作ったポーションを見たことはありますが、それでもA級前後でしたよ?」
あ、そうなんだ?
錬金術師のランクって、品質よりも、作ることのできるアイテムが評価されるっぽいのかな?
私の場合は品質で評価された気もするんだけど……とすると、どちらかが秀でていれば良い感じ?
「錬金術師ギルドでも、品質だけは定評がありますので……、はい」
「それにしても、これは……。
いや失礼。とても凄いものを見せて頂きました」
そう言いながら、アルヴィンさんは高級ポーションを私に返してきた。
「あ、そのポーションはお持ち帰りになって、関連部署の方にアピールしておいて頂けると!」
「ははは、営業でしたか。
それでは、こちらはお預かりさせて頂きます」
「いえいえ、そのまま差し上げますので。よろしくどうぞです」
「えぇ? 高級ポーションもそれなりに値が張るものですし、しかもこれはS+級……。
本当によろしいのですか?」
「どうぞどうぞ。
その代わり、爆弾よりもポーションのお仕事をお願いしますね」
「うむむ……。ポーションは私の管轄外ですからね……。
できればこう、爆弾関連を――」
尚も言うアルヴィンさんには、ひたすら笑顔を向けて、出来るだけスルーしておくことにした。
「――中級爆弾の現地検品、問題ありません!」
「む、そうか。了解した。
アイナ様。検品が終わりましたので馬車に積み込み次第、失礼させて頂きます」
「はい、お疲れ様でした。
ちなみに、報酬はアルヴィンさんがお持ち下さるのですか?」
「いえ、別の者が来る予定です。
恐らく、翌日か明後日になると思います」
「それでしたら、受け取りはメイド長のクラリスまでお願いしても良いですか?
私も不在の場合がありますので」
「承知しました、クラリスさんですね。
担当の者にはそのように伝えておきます」
初級爆弾と中級爆弾の箱を馬車に積み終わると、アルヴィンさんたちは挨拶をしてから帰っていった。
これでひとまず、王国軍への納品はおしまい……っと。
次は、出来れば薬関係の依頼を受けたいかな。
爆弾はまた依頼が来たとしても、引き続き中級爆弾まで、ということで進めさせて頂こう。
威力は普通のものより高いし、報酬も上乗せさせてもらう……っていうのも、アリだよね?