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胸の中がザワつく。

妖術師達の前では冷静沈着さを貫き通していたが、私はまだ見えない敵を恐れている。 手の震えが止まらない。


妖術師が戦い、決別の一撃を以て『遡行』をせざるを得ない状況まで追い込んだ相手。『不明の魔術師』との接触を、私は自らの意思で選んだ。


「進み続ける限り、命は輝き、悪を照らし、輝きは自らを救済へと誘う。………これが本当に最後の戦いになるかもしれないな」


両手に装着しているガントレットを眺めながら、私は無意識にそう呟いた。


それは遠い昔の記憶から引っ張り出した言葉。

聖なる神に誓いを立てた教会、泣きながら神に縋る神父が脳裏に薄らとチラつく。

それと同時に、私の心は怒りの感情で埋め尽くされ、『憤怒Ira』のスロットが赤く染まる。


「今更、神に願った所で結末は変わらない。それは私が一番分かっているはずだ」


―――決戦の時は近い。

妖術師と『Saofa』の先、これらの運命を決める大戦。名付けて『京都奪還大戦』が行われる。

タイムリミットは妖術師達の『撤退』が起動する、私が戦闘不能になる。又は『不明の魔術師』を倒すのいずれかだ。


「………未だ“代償”は健在。頼むから『不明の魔術師』との戦いが終わるまでは耐えてくれよ」


鐘の音が聞こえる。

大戦の始まりを告げる鐘の音が、聞こえる。

閉ざされた未来へと続く門を開くのは私では無い。私の役割はその門への道を切り開く事。

例えこの命が散ろうとも、『不明の魔術師』を極限までこの場に居座らせ、先を急ぐ妖術師達の邪魔をさせない。


「時間、か。『七つの罪源』のスロットも既に埋まってる上、流れる魔力に問題も無い。心配なのは創造系統偽・魔術師の方だが―――、なんとかなるだろう」


時計の針が予定丁度の時刻を指している。

私は座っていた椅子から立ち上がり、一呼吸置いて真っ直ぐと歩き始める。足音がコツコツと鳴る廊下を通り抜け、襖が閉じられている部屋の前に来て立ち止まる。


「これより、『不明の魔術師』との戦いを始める。作戦参加者は私、永嶺 惣一郎と創造系統偽・魔術師の二名!! 」


私は全力で二枚の襖を開け、土足厳禁である畳の上を革靴のまま歩く。

その先、60m離れた地点で古く錆びれた椅子に座る人物が一人。 今回の作戦の殲滅対象者であり、妖術師を一撃で『遡行』へと誘った史上最強の魔術師。



「待ちくたびれていたよ、錬金術師。僕も魔術師とはいえガワは人間だ、退屈が過ぎると何もかもがどうでも良く思えてしまうのさ」



ニヤリと笑うその顔は、妖術師が言っていた特徴と完璧に重なる。………これが史上最強の魔術師である『不明の魔術師』か。


「―――外から見れば小さい寺の様な場所だったが、この部屋はその土地を超えるほどの広さになっている。これも魔術師の恩恵なのかい?」


「………ちょいと特殊な魔術師を用いただけさ。元よりこのような大部屋は存在しない、僕が作り上げた僕だけの部屋」


この魔術師、一体幾つの魔術を保有しているのか。

部屋の入口の空間を捻じ曲げ、自らが作り出した虚像の大部屋へと繋げる。空間支配にも似たこの魔術、資料で見た魔術師の中でも群を抜いて“異常・異質”だ。


「………じゃあ次は僕からの質問だ。たかが錬金術師である君は、どうやってこの場所を特定した?」


「―――『コレ』が私をここまで導いた。それに従っただけで、君の居場所を特定出来たのは私自身の力では無い」


私は自分の胸ポケットから一粒の欠片を取り出す。それは薄白色の宝石であり、古くから魔術師に対して反応する道具。


「………妖力を物質化した際に生まれた結晶、と言う訳か。最近の術師は次から次へと面白い事に挑戦する。熱心な事だね」


「―――妖力をひとつの宝石に変化させた手段を聞かないのかい?」


私の問い掛けに、不明の魔術師は少し迷う素振りを見せながら、ニヤリと笑って答える。


「………あぁ、聞かないさ。君は錬金術以外にも『具現化』の力を持つ事を既に知っているからね」


―――やはりこの魔術師、視えている。

私の素性も、能力も全て把握している。


そうだ、私は妖術師八重垣 肇と出会う前から錬金術だけでなく『具現化』を可能とする力を所持していた。

無から有を作り出す。それは錬金術にとって不可能な事であり、古くからの教えに反する事だ。


だが、私は手にしてしまった。等価交換を無しに、存在しないモノを創り出せる力を。


「………何でも創れる訳では無いのだろう?どんな力にでも大きな代償というものは発生する。どんなことであれ、例外なく」


「―――そうだ。無から有を創り出すが故、受ける“代償”も大きい。その“代償”、私の場合は『神経』の喪失だ」


「………脳神経は12対、脊髄神経は31対。そのうち既に失っているのは脳神経が4対に脊髄神経が10対、か」


人間という生き物は、中枢神経が機能しなくなれば生きて行けない。 自由に身体が動かせず、勿論の事だが歩く事は不可能。

そんな神経を、私は既に29対も失っている。


「………その状況下に置かれても尚、僕の目の前で立ち続けているのは………その武器のおかげ、かい?」


不明の魔術師の言った通り、動くとこすらままならない私が今ここに居る事が可能な理由。

それは私の『七つの罪源』が人間の中枢神経と同じ役割を果たしているからだ。

『七つの罪源』から送られる魔力が細く小さく背中に向かって伸び、“魔力で編まれた神経”を構成している。


「―――無茶をしてでも、果たすべき約束がある。例えどのような結末を迎えようと、必ず遂行する」


そう言いながら 、私は畳の上を歩く脚を止めない。 これ以上の長話は無用。

ぶつけるは己の込めた一撃。

私と不明の魔術師との距離はどんどん近付いて行く。

その間に私は右腕を上げて、水平の位置を保ちながらガントレットの加速装置を起動させ、各装甲の開閉動作を行う。


「―――七つの罪は私を許さず、私の罪は七つを受け入れる。傲慢を除く罪源は既に揃い、私の腕に力を宿す」


言葉を告げると同時に、両腕のガントレットに埋め込まれている『罪源』のスロットがそれぞれの色で分かりやすく表示される。


「―――強欲avaritiaは純白、嫉妬invidiaは菫、憤怒iraは真紅、色欲luxuriaは撫子、暴食gulaは漆黒、怠惰pigritiaは深緑。この全てを使い果たしてでも、貴方をここで食い止める」


魔術師との真っ向勝負。

今までの私なら、ほんの少しでも攻撃を行う素振りを見せれば一瞬で消し炭になっていたことだろう。

だが、今は違う。


今の私には『七つの罪源』がある。

見ず知らずの人間からて手渡されたモノを、私自身で中の構造を新しく錬成。 私だけのガントレットに変化させた。


「………止めるとはまた、大きく出たね。僕は知っているよ、君は錬金術師であるが故に、魔術師を殺す事は不可能。幾ら奮闘した所で君に勝ち目は無いのさ」


偽・魔術師とは違い、魔術師は全身に厚い魔力の層を纏わせ、 他の術師の攻撃を一切受け付けない保護膜の様になっている。

唯一、その魔力の層を破壊出来るのは妖術師のみ。


「―――不可能だと、そう言ったな魔術師。ならば試して見るとしよう、私の『ななつの罪源ざいげん』でどこまで耐えられるのかを」


歩いていた脚を止め、私はその場で立ち止まった。

腕に装着しているガントレットを体の正面に移動させ、最終動作確認へと入る。



「―――『七つの罪源コード・シン』起動」



加速装置起動及び開閉操作確認の際に帯びた熱を逃がすべく、ガントレットのあらゆる隙間から排熱を行う。

再び『罪源』のスロットが光を放ち、私のガントレットは正式に最終動作確認へと移行する。


「―――七つの罪は私を許さず。傲慢の席は未だ空席、ならば私の罪で席を埋める。私は何を願う、何を望む。傲慢の席に座る資格を、今ここに証明する」


光を失っていた『傲慢』のスロットが、微かに光を灯し始める。 七つの罪で最も重い罪である『傲慢』。


私はそれを持ち合わせておらず、大百足との戦いでは、既に収納されていた『傲慢』を使い、なんとか戦ってきた。

だがそれ以降、私は私の罪でスロットを埋める事は出来なかった。


「―――私の願望はただ一つ、“皆で笑い合える、明日を欲する”事だ」


「………成程、それは確かに『傲慢』だな」


不明の魔術師は錆びた椅子から立ち上がり、ゆっくり真っ直ぐと私の方向に一歩を踏み出す。

もう後戻りは出来ない。いや、元より後戻りなんて考えちゃいない。


今の私に出来るのは、突き進むだけだ。



「―――最終動作確認完了、全スロット充填完了。『傲慢pigritia』は向日葵、私の穢れなき一撃だ!!」


「………是非とも見せてくれ、日本最強の錬金術師!!その勇姿を、これから始まるパーティーの盛り上げを!!」



日本最強の錬金術師と史上最強の魔術師。その二人の激闘が現時刻を以て始まりを告げる。


その一手となるのが、私のガントレット。

排熱口となっていた部分から凄まじい勢いで水が吹き出し、殴る方向と逆にジェット噴射を行い真っ直ぐと拳が加速する。

排熱の際に内部に溜まっていた水分を一点に集め、一気に噴射することで拳の威力を倍増させるのだ。


罪を背負い、重い一撃へと繋ぐ『七つの罪源』が躍動する。


「………その程度の力に魔術は振り向かず!!」


しかし、その拳は虚空をなぞり、不明の魔術師に当たる事は無かった。


ほぼ初見殺しとなる最速の初撃。それをいとも容易く不明の魔術師は回避し、完全に見切って魅せた。

ただ軽く、本当に軽く体を左に捻っただけで、私の攻撃は無意味と化した。


「………勝敗を決めるのは速度では無い。より洗礼された一撃、その一瞥によって勝者と敗者が振り分けられる!!」


私に許された攻撃ターンはたった一度の殴りのみだった。

不明の魔術師は自身の手のひらに込めた魔力を極限まで圧縮し、平手打ちの要領で私のガントレットを叩いた。


咄嗟に突き出した腕を戻し、ガントレットで ガードの体制に入る。


「―――っ!!」


叩くだけの行為、そのはずなのに。これまで経験した攻撃の中で、トップクラスに重い。

ガードしている腕……ガントレットの内部を越え、私の耳元まで衝撃波が貫通し、私はほんの一瞬だけ意識を失った。


すぐに目が覚めたものの、次の瞬間には不明の魔術師が次なる攻撃を構えている。


「――悪食を尽くせ『暴食gula』!!」


「………『大天魔境七ノ矢』!!」


私の足元から頭部に目掛けて、虚無から生まれた無数の炎の矢が降り注ぐ。

と同時に、腕に装着しているガントレットが漆黒の光を灯し、『暴食』のスロットが開放される。


炎の矢が私に命中するよりも早く、ガントレットから放出された漆黒の光が矢を包み込み、完全に無へと変えて消滅させた。


周囲が一瞬で静まったかと思った時、排気音と共に『七つの罪源』に装填されていた『暴食』のカートリッジが飛び出す。


「―――っ」


同時に、頭に激痛が走る。


「………妖力と同じ要領で錬金術による『罪源』の物質化を行った後、カートリッジに埋め込んで装填していたと。成程、実に、実に興味深い!!」


どうやら、不明の魔術師は気付いていないようだ。 私が消費した罪源カートリッジを直ぐに生成している事を。

まさに自殺行為だが、まだ私の体には12対の神経が残っている。



不明の魔術師の為なら、何だってやってやる。例えその行為で、多少の記憶が消え去っているとしても。



「―――勉強熱心なところ悪いが、生憎私に許された時間はそう長くない。最初から全力で行かせて貰う」


私が走り出した瞬間、 拳面に集中していた装甲が移動し、まるで猛獣が保有する鋭い爪へと変貌する。


「……『超念動サイコキネシス』!!」


私の動きに合わせて、不明の魔術師は一歩下がり、背後に置かれていた巨大な仏像の様なモノに手を伸ばす。

その瞬間、仏像の様なモノは物理法則を完全に無視して、地面から離れて10mほど空中に浮き始めた。


「―――『憤怒Ira』!!」


今のところ、不明の魔術師が扱う魔術は分からない。炎の魔術で矢を作り出したかと思えば、物体を念力で動かしたのだ。

どう考えても、二つの魔術に共通点が無い。

だとすれば、不明の魔術師の保有する魔術は一個だけでは無い可能性がある。


なんて考えている内に、仏像の様なモノが私の頭上すぐに近付いていた。

それを一瞬だけ目で追い、距離を測る。……… 落下地点である私と接触するまでざっと十秒。


「―――十秒もあれば容易い!!」


ガントレットから突き出した鋭い鉤爪をギラつかせながら、魔力を込めた両脚で地面を強く蹴り、狙いを定める。

爪が仏像の様なモノに食い込んだタイミングで、右腕を素早く横に一閃。


真っ二つに切り離された仏像の様なモノは物理法則に従って放物線軌道を描き、その隙間を私はするりと抜ける事に成功した。


「―――っ気にするな、次だ」


私が『罪源』を使う度に、何か大事なモノを失っている感覚が止まらない。


「………装甲で補強された爪、獣の真似事で仏像を切り裂くか!!」


不明の魔術師は地面に着地した私に近付き、腰から引き抜いた短剣で攻撃を仕掛ける。

二度、三度と振るわれる短剣。

頭と体を何度も捻り、その攻撃をするりと避けつつ、私は隙を見て反撃を試みる。


しかし、私と同じようにして不明の魔術師は反撃を受け入れず、人の可動域を超えた動きで短剣を突き付ける。


「………あぁ、楽しい。楽しいな錬金術師!!僕は今までこれ程の高揚は感じられなかった !!」


「―――っそれはどうも!!」


真正面から迫る拳、それを相殺する様に不明の魔術師の短剣が力強くぶつかり合う。

ギリギリと金属同士が擦り合わせる音が響く中、両者互いに睨み合う時間が続いていた。


「―――不明の魔術師。君は一体何者なんだ」


「………僕は魔術師さ。空間支配系統魔術師達と全く同じ、ただの魔術師」


「―――そうじゃない、私が聞いているのは君の素性だ。どれだけの人に、偽・魔術師に聞き込みを行ったが、誰一人として君の正体を知る者はいなかった 」


「………それはそれは、なら尚更教えるのは無理な話さ!!」


短剣を少し動かしてガントレットの軌道をズラし、バランスを崩した私の脇腹に向かって強烈な蹴りがお見舞いされる。


私が怯んだ隙に、不明の魔術師は間髪入れず地面に手を付け、半径5mを超える範囲の魔法陣を展開する。

私を巻き込む距離の魔法陣。彼が発動させようとしているのは攻撃型魔術、それも並の術師では耐えきれない程の。


「………『月の女神アルテミス』」


させない。 魔術が発動するよりも早く、 その魔法陣を完全に無効化させる。

ガントレットからカートリッジが飛び出したのと同時に『七つの罪源』を床へと叩き付けた。


拳部分が魔法陣に触れ、凄まじい轟音と共にガントレットの『怠惰』のスロット枠が光を放つ。


「―――全てを狂わす誘惑の『怠惰pigritia』。絶対魔法拒絶術式アンチマジック・ガントレット


青色に光っていた魔法陣が一瞬にして赤色へと変化し、ガントレットの触れている箇所から不明の魔術師へ向けて、大きな亀裂が入り始める。

魔法陣はまるで硝子の様に、亀裂が全体に伝わり、数秒もしない内に全てが割れた。


「………魔術を無効化する術式。本来ならもう少し先で完全開発されるはずだったが……まさか本当に実現していたとは!!」


予想外の出来事に驚いたのか、不明の魔術師は手を止めて私の方に強く視線を向けていた。

今の不明の魔術師は隙だらけだ。 速攻で距離を詰めて『七つの罪源』で一撃を喰らわせれば致命傷にはなるだろう。


「―――これで終わりだ。 貴方の野望が潰える、究極の一撃をその身で受けるが良い」


仏像の様なモノを切断する時にも使った小技を用いて、超高速で不明の魔術師へと近付き、 脚の全部位に満遍なく魔力を流し、つま先で地面を抉る感覚で前に一歩踏み出す。

脚の筋繊維が何本か切れる音がしたが、それを無視して不明の魔術師へと近付く事に集中する。


「―――最凶を示せ、『嫉妬invidia』!!」


『七つの罪源』が不明の魔術師を捉え、動かない胴体に対して超高火力な一撃を叩き込む。

何倍ものエネルギーが一気に伝わった為か、不明の魔術師の背中を突き抜ける様に、衝撃波が床の畳に傷跡を残した。


五秒くらい不明の魔術師が動く事は無く、私はゆっくりと拳を胸から離して距離を取る。


「―――はぁ、はぁ」


脳の血管が切れそうだ。こんな短時間の戦闘とはいえ、ほんの少しだけの選択ミスが命取りになる戦い。

それに罪源カートリッジを補填しながらの戦いは相当身体に来る。


私は既にほとんどの神経を失い、脳への信号がどこかで途絶えている。故に、いまの私は記憶が曖昧だ。


「―――妖術師の事を覚えているだけ、まだマシか」


ほぼ本能と無意識、ガントレットによる補助でなんとか戦い続けていた。

そんな私の目の前で棒立ちのまま、喋らず動かずの不明の魔術師。死んだ、とは行かないと思うが、相当のダメージを負ったのは間違いないだろう。


―――だからと言って、油断することは決して許されない。

不明の魔術師は、妖術師を『遡行』へと誘った最終兵器である魔術『コズミック・ウェブ・バースト』が残っている。

ちゃんと正確に、不明の魔術師が戦闘不能になった事を確認しなければ、京都全域だけでなく世界全てが吹き飛ぶことになってしまう。


私は不明の魔術師へと近付き、呼吸の確認と心臓の鼓動を手で確かめる。

口と鼻から空気の流れは感じられない為、呼吸は無し。指先で心臓付近に触れても、鼓動も感じられない。


「―――本当に終わったのか? 」


確かに私は、不明の魔術師を止めてみせると宣言したが、こんなに早く不明の魔術師が戦闘不能になるとは思っていなかった。

呆気ない、あまりにも呆気なさすぎて、怖い。


今のうちに不明の魔術師を拘束してどうにか協力者に引渡せば………いや、もし目覚めた時に魔術を使われたら彼らは対処しきれない。

となればやはり、私の『七つの罪源』が常に不明の魔術師を狙える状況下でないと不明の魔術師の拘束は難しい。


「―――創造系統偽・魔術師。そっちの様子はどうだい?偽・妖術師と接敵したかどうかを知りたい」


胸元に入れていた小型の無線機と小さなメモを取り出し、私とは別行動を行っている創造系統偽・魔術師に連絡を送る。

メモには私が忘れてしまうであろう内容、そのほか仲間の名前と立場が記載されている。


//「……………。」


応答がない。

偽・妖術師との戦闘中で無線が使えないのか、それとも私の居る位置。この部屋の中が特殊な空間で出来ているせいなのか。


「仕方ない。このまま不明の魔術師を連れ出して通信が届く場所に移動しなくては―――、」




刹那、


神は悪を罰し、 神は善を肯定する。 悪しき者に慈悲は無く、善なる者にしか祝福を零さない。

この場合、どちらが善悪なのかは分からない。

ただ、確実に言える事がひとつ。



「………目覚めよ『裁断神聖機関最後の天使』」



私が最後まで言葉を発する前に、神はを否定した。


私は首がねじ曲がるのでは無いかと思うくらいに勢い良く振り返り、つい先程まで動かなくなっていた人物へと目線を向ける。

その先で最悪な笑みを浮かべる不明の魔術師、一瞬にして部屋全体を覆い尽くす大きさの魔法陣。動けまいと思っていた魔術師の反撃。

二度目の、魔法陣による魔術の発動。


突然の出来事で脳の処理速度が低下し、反応が遅れてしまったが、急いで『七つの罪源』を地面へと向ける。


「―――絶対魔法拒絶アンチマジック………!!」


もう一度、魔術を完全に無効化する拳を魔法陣へと叩き付ける準備をしている私。

それを視た魔術師は口を開き、全てを知っていたかのように笑い、『怠惰』が魔術を打ち砕くよりも早く、魔術を発動させる。


この場で最も無力な私を、嘲笑うかのように。



「………だから最初に言っただろう。君に勝ち目は無い、と」



不明の魔術師が口にした魔術名『裁断神聖機関最後の天使 』が何かは分からない。

ただ最終裁断神聖機関『コズミック・ウェブ・バースト』に近しいモノだと言うことは分かる。


ダメだ、私の速さでは間に合わない。

私の拳が魔法陣に触れることすら許されず、青く光り輝いて不明の魔術師の魔術が完全に発動する。


「………さようなら、錬金術師。もし来世があるとしたら、未来を視る力を神に願うといい」











┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈










「氷使い、少し話したい事があるんだ」


記憶。


「不明の魔術師の件かい?それは悪かったって何度も………」


それは、数時間前の私が見た記憶。


「いや、そうじゃない。この先について、君に話したい事があるんだ」


妖術師と晃弘、創造系統偽・魔術師が建物から出た後、部屋に残された私と氷使いの会話だ。

コップの中に注がれたカフェオレを飲みつつ、氷使いが怪訝な目でこちらを見つめている。


「………どうやら、妖術師に打ち明けてない秘密がある様だね。その腕に付いてるガントレットに関係する、何かが」


「それも含めて、全てを伝えよう」


私はゆっくりと頭を上げ、天井を見る。

一体何から話すべきか。順番を考えているが故に、私の口から言葉が出ない。

………いや、そうじゃない話すことなど既に決まっている。ただただ、私がこのことを口にするのを恐れているのだ。


「………氷使い、私の命はもう消えかけている。不明の魔術師との戦いで、残された時間を全うするだろう」


「君の能力である『具現化』の代償、か。まさか中枢神経を消滅させて無から物体を得るとは」


「………『千里眼』」


作戦会議の時に聞いた、氷使いの保有する『千里眼』の能力。その中にある『鑑定』で私の持つ力を見抜いたという訳だ。


「一応、いまはガントレットが中枢神経の役割を補っている。コレが完全に機能停止した時、私は本当に終わりを迎える」


「………それで“話したい事”は何なんだい?それも含めて、と君は言ったんだ。本題は能力の事じゃないだろう?」


「―――私が死んだ後、どう足掻いてもSaofaは解体される。妖術師ひとりだけでは、Saofaを維持できない」


魔術師を殲滅する為に作り上げた組織『Saofa』は既に大犯罪組織として全国で指名手配されている。

例え戦いが終わり、魔術師を倒すことが出来たとしても、一度失った信頼をまた得るのは難しい。


テロリストのレッテルが貼られた妖術師。それについて行く者は限られ、組織を維持するのは困難だ。


「―――だから、私の組織が解体された後。“魔術師を殲滅する組織”ではなく、“悪しき魔術師を裁く組織”を立ち上げて欲しい」


魔術師を殲滅する組織である今、戦いが終わってもSaofaに加入している『氷系統魔術師』と『創造系統偽・魔術師』の居場所は無い。


「………それは私たちの為、だね。妖術師の味方である魔術師であれば、街を守る“良い魔術師”として認識される」


「そうする事で氷使いと創造系統偽・魔術師が、他の魔術師と戦っても問題ない。誰も君たちを迫害することは出来ない」


何せ、いまの妖術師にこの二人は必須だ。

戦力面でも精神面でも、氷使いと創造系統偽・魔術師の二人は妖術師の中で最も大きな存在となっている。


「………それで、その組織のリーダーは誰がやるって言うんだい?それを私にお願いしたって事は、妖術師じゃないんだろう?」


「そうだ。次の組織を率いるのは妖術師では無く、『氷系統魔術師』である君に頼みたい」


魔術師としてはまだ実力不足だが、彼女にはそれを補う程の知識と能力がある。

適材適所を見つけ、誰をどこに配置すれば良いかなどを理解し、魔術師を追い詰める。

昔から魔術師討伐を計画していた彼女なら出来る芸当だ。


「魔術師である私がリーダーになれば、それこそ一般市民からそうバッシングを食らうのでは?」


「少しはあるかもしれないが、今は魔術師を支持しているモノが多い。一度『善』と成った魔術師を、簡単に『悪』と断定するには時間がかかる」


例えば2ヶ月、いや3ヶ月で魔術師が『悪』になるとしよう。

その期間中に妖術師はまた、偽・魔術師を殺して街を救う。そこに氷使いと創造系統偽・魔術師も同伴すれば、二人は妖術師に仕える善良な魔術師として、名を広める事が出来る。


この二人が妖術師に仕え、不明の魔術師と対立しているとなれば、二人以外の魔術師は『悪』となるだろう。

3ヶ月もあれば、ネットが普及している今の時代、とんでもない速度で魔術師に対しての考えが変わる。


「………あぁ、確かに。君の言う通りの未来になるかもしれないな」


氷使いはそう言ってカフェオレを飲みながらこちらを見ている。 だがその目はどこか、別の場所を見ている目をしていた。

見たのだろうか、この先の未来を。


「取り敢えず、妖術師には全てが終わった後、私の代わりに謝っていて欲しい。隠し事をしていてすまない、と」


私はそっと胸ポケットから『具現化』で結晶へと変化させた妖力の塊をテーブルに置き、氷使いの方を見る。


「………私に使えと言っているのかい?」


「あぁ、君は妖術師にとって特別な存在であり、この先で彼を導くに値する魔術師だ。だから君が死なないように創ったモノだ」


コレは偽・魔術師の攻撃に対しては5回ほど、魔術師の攻撃に対してはたった1回だけ反応し、防御術を展開する。


「本当は私が持つべきなのだろう。けど、不明の魔術師にコレは通用しない。魔術が強力すぎて防御術を貫通する」


「………だから私に使え、と。ふむ」


氷使いなら直ぐに「分かった」と言いそうだったが、何故か即決すること無く黙り続けている。

妖力を物質化させたのはどこかマズかったのか、それとも魔術師にとってこの結晶は近付くだけでも命に関わるモノなのか。


「ほほぅ、そうか。そうかそうか……」


「…………?」


突然、氷使いは結晶をつまみ上げてジッと見つめ始めた。

受け取る事に悩んでいたのかと思ったら急にコレだ。どれだけ話を聞いていても、氷使いの行動が予測出来ない。


「―――結論から言えば、私はコレを受け取らない。受け取るべきでは無い」


予想外の返答に、流石の私も驚きを隠せなかった。「何故」と聞きたくなったが、私はソレをグッと堪える。


もしかして、未来を視たのか。これを受け取れば未来がどこかで変わってしまうと。

………いや、視ていたにしては目がしっかりと結晶を捉えている。恐らくこれは未来を視たからの発言では無い。


「これは氷使い………いや『魔女』としての言葉だ。結晶は私ではなく、君が持つべきだ。惣一郎」

「あと、妖術師への謝罪だが。それはしっかりと引き受けた、必ず果たすと約束しよう」


氷使いが見ているのは、私の目だ。

記憶の中の私では無い、 今を生きる私の目だ


記憶から醒める。


視界がぼやけて氷使いの顔が認識出来なくなる。

次第に暗転して行き、私の視界は完全に閉ざされてしまった。










┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈










「………さようなら、錬金術師。もし来世があるとしたら、未来を視る力を神に願うといい」


私の全身が蒼い光に包まれる。

不明の魔術師が放った魔術を『怠惰』で無効化する事は叶わなかった。 たった数秒だ、ほんの少しの遅れで、私は命を落とす。


悔いはない、と言えば嘘になる。あと一時間、いや二時間だけでも足止めすることが出来ていればと思う。


「―――それも『傲慢』なのだろうね」


視界が青白い光で染まり、不明の魔術師の姿も、自分自身の身体さえも見えなくなった。

勿論だが、ここからの反撃は不可能。完全に詰みだ。


………先延ばしにしていた結末が、今になって来ただけの話。私は遂に、死に場所を見つけたのだ。

大百足の時とは違う、心の底から私は死を受け入れる。


「後は託した、創造系統偽・魔術師フォージャー


最期の言葉を告げて、私の身体は完全に崩壊する。血が、肉が、骨が、その全てが灰になり消えて行く。

思考も希望も願いも、神が私を否定した様に、次々へと消滅して行く。

―――最期の最後まで原型を保ち続け、胸ポケットに入っていた一粒の結晶を除いて。




















―――間に合わなかった。


それは、僕が現場に到着した時、一番最初に思い浮かんだ単語だ。

やはり一人で戦わせるべきではなかった。ほんの少しでも戦いの補助に徹していれば。もし、僕が正しく力を使いこなせていたなら。

なんて後悔が今になって押し寄せてくる。


もう遅い。後悔した時にはもう終わっている。


つい数十秒前、突如として爆発した地点から強力な妖力を感じた。それは明らかに妖術師のモノであり、保有者は確実にあの人だった。


僕は全速力で移動を開始した。

その方向は本来、僕も居るはずだった場所であり、一番何かあって欲しくなかった場所だった。


現場に到着した僕は、所有している『創造』で崩壊した建物の残骸を木っ端微塵に破壊し、その惨状を目にした。


受け入れ難い現実、直視したくない人影。全てが、無理やり僕の脳にインプットされる。

震える足で一歩づつ踏み出し、心の乱れを生み出す特異点へと辿り着いた。



そこには、ただ。永嶺 惣一郎の亡骸があった。

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