テラーノベル
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その瞳には、今まで見たこともないような強いショックの色が浮かんでいる。
敦は、僕が敦の大切にしているショコラティエとしての宝物であるトロフィーに傷をつけたときですら怒らなかった。
不機嫌な顔一つ見せず、自分の宝物よりも僕の身体の心配を真っ先にしてくれた人だ。
そんな底なしに温厚な敦が、今、こんなにも不機嫌に気を損ねている。
それは間違いなく、僕の身勝手で最低な発言のせいだった。
───その夜から、僕と敦は互いに背中を向けて寝るようになった。
こういうとき、寝室が一つでベットが一緒なことが凄く気まずくなる。
いつもなら、敦が後ろから背中に優しく手を回して抱き寄せ
温めてくれていたおかげか、今日はヤケに自分の背中が寒く感じた。
それでも、申し訳ないという激しい罪悪感と気まずさから
とてもじゃないが、彼の方へ振り向くことなんてできなくて。
大好きな恋人がすぐ隣の数センチの距離にいるのに
指一本触れることすらできないというその信じ難い悲しい現実に
僕は溢れる涙を枕にじわじわと垂らしながら、声を殺して静かに泣くことしかできなかった。
◆◇◆◇
その翌朝──
意外と、表面上の生活は普段通りに過ぎていった。
朝になれば、敦が何食わぬ顔でキッチンに立ちいつも通り2人分の朝食を作ってくれる。
それを一緒にリビングのテーブルで食べて、仕事に行く敦を玄関で見送る。
傍から見れば、どこにでもある仲睦まじいカップルの日常だ。
ただ、変わったことが何一つ無いのかと問われれば、決してそうではない。
明確に僕たちの間に流れる空気は壊れていた。
「今日は何が食べたい?」と淡々と聞いてくる敦の声は
前と比べると少し感情が抜け落ちて無機質になった気がした。
それに、必要最低限だけの会話しか交わさなくなり、そのときも彼の目が僕とあまり合わなくなった気すらする。
きっと、気のせいなんかじゃない。
妄想なんかじゃない。
僕が余計なことを言って、敦の心を深く傷つけてしまったのは間違いないのだから。
そして、敦が僕に激しく怒っていることも、幾ら鈍感な僕でも容易に察せれた。
何より、仲直りをしたいと言い出せるような空気ではなかった。
もちろん、しゅんの根本にある優しさが完全に消えた訳じゃない。
なのに、どこかよそよそしく冷ややかに感じて
僕に対する興味を失われてしまったような感覚だった。
敦がこんなにも感情を閉ざして怒っているところなんて、今まで生きてきて一度も見たたことがない。
3年前のすれ違いのときとは、だいぶ違っていた。
あの頃は喧嘩をしたことはあったが
逃げるように敦のことを避け続けていた僕を
敦が諦めずに追いかけてくれて、仲直りをしようと必死に謝ってくれた。
そんな熱い敦が、こんなにも怒りを体現しているのだから
もはや、僕に対する興味すら完全に失ってしまったんじゃないかと恐ろしくてたまらなくなる。
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莉乃ちゃん
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