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今更、そんなことを急に不安がって敦に泣きつくこともできなくて
自分の吐き出した言葉の重さを痛いほど痛感した。
しかし、全てはもう手遅れだった。
「ひろ。箸進んでないけど、美味しくない?」
向かいに座る敦が不意に箸を止めて、僕の顔を見て聞いてきた。
言葉自体は柔らかくて僕を心配するような声なのに、ただ確認をするような機械的な響きだった。
「お、美味しいよ…!…」
僕の口から出た言葉は、引き攣った笑みと返答だった。
それだけしか言えなくて、本当は「ごめんなさい」とか「傷つけてごめん」とか
何かを話したいのに、言葉が喉に引っかかったように出てこなくて。
今までこういうとき、なにを話していたのか、突然分からなくなってしまった。
「そっか。ならよかった」
敦はそれだけを小さく言うと
深く追及することもなく、再び自分の箸を動かし始めてしまった。
会話はそれ以上続かなかった。
続け方が、もう分からなかったんだ。
そのせいか、二人でいるはずの部屋がいつもより静かに感じた。
それは、食事のとき以外でも同様だった。
「ひろ、一緒に風呂入んなくていいの?」
夜、脱衣所で敦にそう淡々と誘われても
僕は気まずさに耐えかねて首を横に振るだけだった。
「大丈夫…一人で、入りたいから。しゅんも、ゆっくり入ってきてね」
気が付けば、敦との適切な距離感にすっかり迷走してしまい
できるだけ自分から距離を置くようになってしまっていた。
自分から歩み寄って、敦に冷たく拒まれることが心底怖かったんだ。
頭ではちゃんと分かっている。
こんなのはただの現実逃避だ。
僕が勝手に逃げているだけだ。
もはや今の僕は、敦が何を考えているのかが怖くて分からなくて、分かろうとすることからも逃げていた。
だから、毎朝の「行ってきます」のキスや、夜に抱き合って眠ることは疎か
敦は僕と直接目を合わせることも少なくなり、家の中での口数も減った。
同じ家で一緒に暮らしているのに
以前までの甘く愛し合っていた恋人の雰囲気はどこにもなかった。
どこで間違えたんだろう。
もしタイムマシーンがあるなら、あの酷い発言をする直前の時間に戻りたい。
そんな叶うはずもない不毛なことばかりを頭の中で考えながら、息を潜めて過ごしていた。
◆◇◆◇
数日後───
「今日さ、帰り遅くなるし俺はご飯いらないから」
出勤前の慌ただしい朝
敦が僕に背中を向けたまま、白いシャツのボタンを淡々と止めながらそう言った。
「え…っと、その…外で食べてくるってこと…?」
思わず声が上ずる。
「まあ…そんなところかな。なるべく早く帰るから、何かあったらLINEして」
敦の少し言葉を濁したような言い方に引っかかったが、今の僕にそれ以上追求する勇気なんてなかった。
でも、なぜかその言葉が冷たく胸に突き刺さった。
ただの業務連絡のように〝ご飯いらない〟と言われただけなのに
まるで「もうひろはいらない」と言われたような錯覚に陥る。
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莉乃ちゃん
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