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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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コメント
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なるみ、怖い!!!!!!
うわあああ…!😭 やっと鳴海の悪事の全容が明らかになったね…! 沙奈さんを脅して、奈央子さん轢かせて、赤ん坊の芽生ちゃんまで奪うなんて、マジで人間のクズすぎる…。あの「威勢のいい」って京介さんの冷静な一言に全部詰まってる気がしたよ。 でも千崎の臓器売却案に京介さんが「芽生のそばにいられなくなる」って断ったのが胸熱すぎた😭💕 極道だけど、ちゃんと芽生ちゃんとの未来考えてるんだね…! ラストの「写真から焼け」はちょっとスカッとした…笑 続きが気になる〜!!
街へ等しく夜のとばりが降り始めた頃、京介は埠頭に並んだ倉庫のひとつへたどり着いた。
京介が、見張りの若い衆が開けてくれた重い鉄扉を抜けて薄暗い倉庫内へ入るなり、「カシラ」という聞き慣れた声が投げかけられる。
京介を呼んだ男――千崎雄二が流れるように京介へ一礼して、それに倣うようにその場へいた男たちも一斉に頭を下げた。
京介は配下のものたちに目配せすると、千崎の足元で、焼け付いたアスファルト上へいきなり投げ出されたミミズのように忙しなくもがいている細波鳴海の前へ立った。
両手両足を拘束されて地べたへ転ばされた鳴海を乱暴に引き起こすと、噛ませていた猿轡を外す。余計なものを見る必要はないため目隠しはしたままだ。
「あんたたち、どうせヤクザ者でしょう!? こんな真似をして一体どういうつもり!? あんたたちの事務所や忌々しい小娘の家へ火を付けたのは私だって白状したんだから、さっさと警察に突き出すなりなんなりすればいいじゃないの!」
手足の自由を奪われた上、何も見えないことが不安感を煽るのか、まるでそれを払拭したいみたいに唯一自由を取り戻した口をフル回転させて金切り声を上げる鳴海に、京介は吐息を落とした。
(威勢のいいこった)
聞きたいことがあったから口枷を外したものの、こんなに喧しく喚き散らされたのでは不快で仕方ない。
恐らく対角線上――かなり離れた場所に息子の鳴矢がいることには気付いていないんだろう。
こんな女だって、腐っても母親だ。もし可愛い息子が自分と同じように両手両足を拘束された上、ボコボコに殴られた状態だと知ったら今みたいに強気ではいられないだろう。
先ほどの鳴海同様猿轡を噛ませて口を封じられた鳴矢は、相当痛めつけられていることもあって、弱々しいくぐもった呻き声を上げることしか出来ない。
自分が喚くことで手一杯な鳴海には、鳴矢が発する小さな声なんて聞こえやしないんだろう。
***
現在芽生は、泊まりという形で田畑栄蔵に預けてある。
栄蔵の負い目だろう息子たちのことを持ち出した甲斐あって、最大の難所と思われた栄蔵に芽生との婚姻を承諾させることに成功した京介だったが、栄蔵は可愛い孫娘が嫁ぐとなって、いつまでも入院している時間が惜しくなったらしい。
嫁入り前の芽生に対してしてやりたいことがアレコレ浮かんでくるし、会社の今後のこともある。中村奈央子へも芽生とともに会いに行きたいから、うかうかと仮病を使っているわけにはいかないと、ガバリと布団を蹴り上げてベッドから抜け出した。
急に意欲的に動き始めた栄蔵を見て、芽生はとても心配したのだけれど、京介は逆にチャンスだと捉えた。
(芽生とのことを認めさせた今、田畑栄蔵のトコほど芽生を預けるのに適切で安全な場所はねぇ)
まずは手始めとばかり、「芽生をあんたん家へ連れて行ってやってくんねぇか? 家に行きゃあ父親の写真とかもあんだろ」と唆した。こういえば芽生も乗り気になるのは分かっていたし、なにより田畑家のセキュリティが、京介所有のマンション張りに高いことは調査済みなのだ。加えて、田畑栄蔵を守るボディガードらの存在もあるとなっては使わない手はないだろう。
(芽生を頼んだぞ、じいさん)
芽生に、今から自分がすることを見せたくなかった京介は、田畑栄蔵に可愛い芽生を託してきたのだ。
***
京介は胸元を探って煙草を取り出すと火をつけた。
「細波鳴海さんよ。威勢がいいのも結構だが、そろそろ黙っちゃくんねぇか?」
弱い犬ほどよく吠える。咥え煙草のまま、キャンキャンと金切り声を上げ続ける鳴海のあご下をすくい上げるようにして上向かせると、京介は気持ち低めた声音で呼びかけた。
途端ヒッと悲鳴を上げて鳴海がのけぞったのだが、京介は鳴海を逃がすつもりなんてさらさらない。
無造作に鳴海の服の胸元を掴んで逃げを封じると、
「アンタ、俺たちがどういう稼業の人間か分かってるみてぇだから話、早ぇと思うんだがな、ちぃーとばかり聞きてぇことがあんだわ。痛い目に遭うのはイヤだろうし、素直に答えてくれるよな?」
あえて鳴海の耳元に吐息が掛かるほど顔を近付けると、煙が彼女の顔に掛かるように吐き出しながらそう吹き込んだ。
鳴海は京介から吹きかけられた呼出煙にゲホゲホと咽ながらも、今までマシンガンみたいに騒ぎ続けていたのが嘘みたいに押し黙る。火がついた煙草の先を肌に押し当てられたわけでもないのに、火傷を恐れるみたいにビクビクしながら京介の言葉に頷いた。目隠しをしていて見えないが、もしかしたら恐怖で泣いているかも知れない。
だがそんなこと、京介は知ったことではない。相手が泣こうが失禁しようが、やるべきことを遂行するのみだ。
「芽生の母親の中村沙奈、覚えてるよな?」
京介が沙奈の名を出した途端、鳴海がビクッと肩を跳ねさせた。それは京介にとって、『知っている』と白状したも同然だった。
「彼女が入院した母親の奈央子にも連絡を入れず、赤ん坊を病院でもねぇトコで秘密裏に産んだのはお前の差し金か?」
鳴海が看護師なことは調べが付いている。だが、助産師の資格までは持っていなかったはずだ。
質問に答えようとしない鳴海から一歩離れると、京介は彼女の首筋へかかる髪の毛を無造作に払い退けて、髪の生え際に近い場所へ煙草の火を押し当てた。
突然のことに「ぎゃぁ!」と悲鳴を上げてのけぞる鳴海の腹を蹴って黙らせると、
「聞かれたことには三秒以内に答えろ。でないと次は顔にやんぞ?」
低めた声音で脅しをかける。
実際は見えるところに傷を負わせる気なんてさらさらない。
捕まえた際、佐山文至によってボコボコにされていた鳴矢は仕方がないとして、鳴海の方は表面的には綺麗なまま警察へ引き渡すつもりだ。
どうせすぐにバレるだろうが、その辺は警察の上層部にいる顔馴染みが何とかしてくれるだろう。だが、まぁ面倒事は極力避けるに限るのだ。
「で、どうなんだ?」
京介の問いかけに鳴海は観念したように「私が脅したのよ!」と吐き捨てた。
「脅した?」
「産んだ子供、父親の栄一郎も死んでしまったんじゃ育てられないでしょう? 私が育ててやるから産んだら寄越せって言ったの! なのに生意気にもイヤだとか言うから……言うこと聞かないならアンタの母親がどうなっても知らないわよ? って言ってやったの!」
「は?」
京介は目の前の女が、芽生の出生に際して何らかの関与はしているだろうと思っていた。だが予想していた以上の告白が飛び出してきそうで、思わず鳴海の胸元を掴む手に力を込めてしまう。
「それでもあの女が渋るから! 本気だって知らしめるしかなかったのよ!」
***
鳴海が奈央子を害するために脅した相手は安西誠という男で、鳴海から脅迫された当時、大学受験を控えた娘を持つシングルファーザーだった。
中小企業の運送会社に所属し、下請けで深夜運転などを引き受ける立場だった安西は、立場的にはかなり弱い男だ。
鳴海は看護師という仕事柄、たまたま安西がてんかん持ちであることを知った。
てんかん発作で意識を失って、歩道橋の階段から落ちて大怪我を負ってしまい、鳴海の勤め先の病院へ救急搬送されてきたらしい。骨折をして入院することになった安西をたまたま看護する機会に見舞われた鳴海は、安西と他愛のない雑談をする中で、彼が大型トラックの運転手をしていると知って、(てんかん持ちなのに大丈夫なの?)と疑念を抱いた。
気になって調べてみると、五年以内に発作を起こした者や、再発のリスクがある者は大型免許(および第2種免許)を取得・更新することが出来ないらしい。
だが、別に診断書などを提出するわけではないため、更新などの際、「過去5年以内にてんかんの発作を起こしたことがあるか」や、「過去に意識を失ったり、突然倒れたりしたことがあるか」という質問票に、本人が「いいえ」と虚偽申告してしまえば、問題なく免許の更新が出来てしまうようだった。
恐らく安西もそのクチだったのだろう。
その時には別に安西の不正について言及するつもりなんてなかった鳴海だったのだが、今回沙奈と話していてふとそんな彼のことを思い出したのだ。
安西とはほんの束の間入院患者と看護師として接したことがあるだけ。
足もつきにくいはず――。
「あなたの病気、雇い先にバレたら仕事を失いますよね?」
安西を見つけ出してそう脅して……黙っている代わりに奈央子を轢いて欲しいとお願いしたら、面白いぐらい安西が動揺した。それを見て、鳴海は(これは使えるな)と思ったのだ。
可愛い息子鳴矢のため、邪魔な田畑の跡取り息子・栄一郎を亡き者にした今となっては、唯一鳴矢の障害となり得る存在は、沙奈が身ごもっているという栄一郎の子だけ。
最初は腹の中へいる間に沙奈ごと葬り去ってしまおうかとも思っていたのだが、栄一郎との会話の中で沙奈の腹の子が女の子だと知って気持ちが変わった。
もしもの時、鳴矢のさかえグループでの跡取りとしての地位を強固なものとするため、田畑の血を引く赤ん坊を鳴矢の伴侶として掌握しておくのはとても名案に思えたのだ。
そこからは沙奈を脅すための材料集めに奔走して、奈央子の生活パターンを調べ上げた。奈央子がスーパーのパートタイマーの仕事をしているのを知った鳴海は、奈央子が遅番シフトの際は、帰りが夜になることを突き止めた。
田畑家から、母子ふたりがつつましやかに暮らしていくには十分すぎるほどの手切れ金を受け取っていたはずなのに、ホント貧乏くさい女ね! と思ったのも鮮明に覚えている。もしも自分が奈央子の立場なら、仕事なんてさっさと辞めるのに、と。
締めのシフト勤務の場合、奈央子は二十一時半に店を出て、家路を急ぐあまりだろうか。ちょいちょい車通りの少ない横断歩道を、赤信号でも渡ってしまう。
「ほら。夜道で信号無視の相手を誤って轢いてしまっても、事故で処理されるし情状酌量だってされるはずよ?」
そう唆したら、思い通りに安西が動いてくれたのだと鳴海が自白した。
奈央子が事故に遭ったという知らせを受けたあとの沙奈を篭絡するのはとても簡単だった。
「ほら、貴女が私の言うことを聞かないからお母さんが酷い目に遭っちゃったじゃない。でもよかったわね、一命は取り留めたって。けど……そうねぇ。意識は戻ってないみたいだし、そのまま呆気なく、なんてことになる場合もないとは言えないと思うの。――ね? 悪いことは言わないから、今度こそ私の言うことを聞きなさいな。私が看護師なのは知っているでしょう? 入院中のあなたのお母さんに近付いて、不運を装って何かしちゃうことなんて造作もないことなのよ?」
鳴海の言葉に、沙奈は一切の抵抗を辞めたのだという。
***
それが、沙奈が何の証拠も残さずに、秘密裏に芽生を生んだ真相らしかった。
生んだばかりの我が子を鳴海に奪われ、相談できる母親も意識がない。沙奈が栄一郎の元を目指したのも、何となく頷ける気がした京介だ。
おそらく車の免許を持たない沙奈が、タクシーにも乗らずに山奥まで行けたのも、鳴海が何らかの関与をしていたんだろう。
鳴海に弱みを握られていた安西にしても、正常な判断が出来なくなっていたとしか思えない。人身事故なんて起こせば、それだけで契約を切られかねないと思い至れない程度には切羽詰まっていたということだ。
開き直ったように過去の悪事をまるで武勇伝ででもあるかのように興奮気味にまくし立てる鳴海を見下ろして、京介は思わず息を呑んでいた。
(この女、俺たちよりよっぽど悪どいじゃねぇか)
京介がそう思ったのと同時、
「カシラ、この女警察に引き渡すのやめて、臓器売買の闇ブローカーに流すってのもありだと思うんですが」
黙って京介の後ろに控えていた千崎がポツンとつぶやいた。千崎も相当腹に据えかねたということだろう。
そもそも失念し掛けていたが、千崎は懇意にしている百合香を傷つけられている。アレだって下手をすれば百合香は焼け死んでいたかも知れないのだ。
京介は極道だ。もちろんそういう闇の伝手が全くないわけではないし、千崎の言を実行出来ないこともない。
だが――。
(んなことしたら、芽生のそばにいられなくなっちまうわ)
バレなければいいというものではない。
鳴海に脅されたというトラックドライバーの安西にしてもそうだが、後ろ暗いことは極力しないほうが身のためだ。
(って極道なんかやってる俺が思うのも妙な話だがな)
「怖ぇこと言うなや千崎。まぁ気持ちは分かるがな」
京介はとりあえず側近を宥めると、「けど……まぁ、この女の大切にしてるモン、燃やすぐらいはしても罰、当たんねぇんじゃね?」とニヤリとする。
目には目を、なんなら倍返しでもいい。
そう言外に含ませた京介は、
「関係ねぇ人間に迷惑が掛からねぇよう処理しろや」
千崎の情婦である百合香が火傷を負わされたというのもある。
建物ごと火をつけて近隣住民を巻き込むような真似はするなと釘を刺しつつ、家の中身をどこか他人様に迷惑が掛からない場所へ持ち出して燃やすのは構わないと、鳴海への報復については千崎へ一任した。
京介の言葉を聞くなり鳴海が「何をするつもりなの!?」と騒いだが、京介に「誰が勝手に喋っていいって言った?」とすごまれて黙り込む。それでもか細い声で、「息子のために残しておきたいものばかりなの」と泣きついてきたが、そんな泣き言を聞いてやる義理はない。
鳴海は、ひとしきり「せめて鳴矢のアルバムだけは!」と母親らしいことを言っていたけれど、京介としては芽生から両親やそこから受けられるはずだった愛情、その他諸々を奪っておいて虫が良すぎるだろ? としか思えなかった。むしろ鳴海の泣き言を聞いて、「写真から真っ先に焼け」と千崎に指示を出してしまったくらいだ。
京介が千崎へそう命じた時の、鳴海の絶望に打ちひしがれた姿を見て、ほんの少しだけ溜飲が下がった気がした京介である。
赤ん坊を沙奈から奪っておいて、結局自分で育てるのは面倒だったから……とへその緒もとれていない新生児の芽生を自分の目が届く範囲――自分たちが住む自治体にある孤児院(陽だまり)へ置き去りにしたと言うのも、自分にも鳴矢のいる人間の所業とは思えない。
今、この場で鳴海が洗いざらいぶちまけた告白はバッチリ録音もしてあるし、警察に引き渡す際には三件(芽生の自宅、『ランジェリーショップYURIKA』、相良組事務所)の放火についてだけではなく、過去に起こした事件(芽生の両親殺害と、安西に奈央子を襲わせた脅迫による殺人教唆など)についても再度調べ直すよう働きかけて追及させるつもりだ。
現行の法律では殺人事件に時効はないし、脅迫による殺人未遂教唆の時効も二十五年あるはずだから、十分罪に問えるはずだ。芽生の誘拐(未成年者掠取)については十年を過ぎていて時効を迎えているが、他の事件との関連がある。お咎めなしというのは考えられないはずだ。
さすがに色々やらかし過ぎていて、死刑か……軽くても無期懲役は免れられないだろう。
(自業自得だな)
留置所や刑務所では、いっそのことこの場で自分たちに殺されていた方がマシだったと思えるような目に遭えばいい。
他力本願にもそう希ってしまう程度には、京介は鳴海に対して憤りを覚えていた。