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「──殿、下……っ」

 離れていくジークフリート殿下の手を、咄嗟に私から、掴み直していた。
 伏し目がちにほほ笑んだ殿下の表情が、ほんの刹那、なぜかひどく憂いを帯びて見えたせいだ。
 しかしその気色は、私が触れた瞬間、幻みたいに消えてなくなった。

「どうした?」

 ……気のせい、だったのだろうか。

「……あれだけでは、物足りなかったか?」

 静かに揶揄われ、顔が熱を持つ。
 はぐらかすつもりですぐに手を離そうとして、けれど、思い直した。
 ……物足りなかったのは、事実だからだ。

「わ……、私から、まだ……抱きしめ返せていません……」

 言いながらとてつもない恥ずかしさが込み上げて、語尾が消え入りそうになった。

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