淑妃の宮、丁香宮
「失礼します。」
「よう、玉緑。元気にしていたか。」
女子にしては低く愉快な声が聞こえた。
「はい、元気にしていました。」
「ははっ。それは良かった。」
(後宮の象徴という程相変わらず凛々しい。)
丁香宮の主───雪灰妃。三十路手前まで来たと言うのに二十手前のような凛々しい見た目で後宮の象徴と近年は言われている。そして皇帝の姉貴分だったらしい。
「楽しみにしていたぞ。ところで今晩、いい酒を皇帝から貰ったから飲むか。」
ひそひそと言う雪灰妃は少年のようだ。
「すみませんがお断りさせていただきます。生憎、仕事が溜まっておりまして。」
「そうか。なんかあったら皇帝に私が言い付けてやるからな。なんでも言えよ。」残念そうに口を尖らせた。
「お気遣いありがとうございます。」
「友として当然だろう。」にっと笑う雪灰妃は頼りがいのある妃と改めて実感した。
「あとそろそろどこかの妃の宮に行かなくてならないだろう。」
「はい、次は賢妃のところへ。」
「気をつけて行けよ。玉緑は可愛いんだから。」
「勿体無いお言葉です。」と玉緑は苦笑いする。
(お世辞でも淑妃が言うと嬉しいな。)
・・・
賢妃の宮、群青宮
「失礼します。」
「玉緑殿、ご機嫌よう。」
「ご機嫌よう。宝石藍様。」
群青宮の主───宝石藍妃は賢妃と言う名前にぴったりの賢い妃だ。それも貴妃と違った賢さだ。宝石藍妃は西側と北側の国の言葉を喋れるのだ。だから、群青宮には本が多く並べてある。
「宝石藍様、これは知人が西側の国の本を取り寄せた物です。宝石藍様は外国の本が好きだと伺ったので取り寄せました。」
玉緑が話している間、宝石藍妃は目をキラキラさせていた。
「ありがとうね。大切にさせていただくわ。」
(よし!喜んで貰えた!)
「勿体無いお言葉です。」
「このままだと可哀想ね。せっかく持って来てくださったし。」
宝石藍妃はう~んと考えこむ。
「あっ、玉緑殿、私の簪を差し上げるわ。藍持って来て。」
(藍とは侍女頭か。宝石藍妃の従姉妹と聞いたが美しいな。中級妃にはなれるというのに、、勿体無い。)
「藍、ありがとう。玉緑殿これをあげるわ。捨てたり、売ったりしないで髪に付けてね。」
「ふふ。そのような事はしません。」
(流石に売ったりとかは考えて無いけどたんすに入れて置こうとは思ったとは言えないな。でも綺麗な簪だな。)
玉緑の手のひらにある簪は青色の青玉が美しい簪だ。
「このような物しかあげれないけど大切にね。」
(このような物、、ではないだろう。)
「はい。では失礼しました。」
「ええ、また今度。」
宝石藍妃は玉緑が部屋から出るまで手を振った。
「、、、気づいないわよね、、、。」
宝石藍妃はぽつりと呟いた。