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いつも通り、朝のキャンパスはにぎやかだった。ギターケースを背負った学生、イヤホンで音を聴きながら歩く子、ホールの隅で即興セッションを始めているグループ――音楽系大学ならではの風景だ。
その中で、hyeheheはひとり、教室の後ろの席に腰を下ろしていた。手元にはノート、視線は斜め前――入口を見つめている。
「来たか。」
黄色い髪が、朝日にきらめいて見えた。あの小柄な背中を見ただけで、自然と口元がゆるむ。
――hoola。
彼女がこっちに気づく前に、ひとつ仕掛けておいた紙切れを、うまく命中させる。
「今日のランチ、学食のB定食にする?」
書いたのは、ありきたりな一言。でも、それを彼女がどんな顔で読むのか、それを見るのが楽しい。
「……っと、やっぱ気づいたな〜」
じっとこちらを見ているhoolaと目が合った。にっと笑い返すと、彼女はじっとり睨んでくる。だけど、どこか嬉しそうで――その感じが、たまらなく好きだった。
高校の頃より少し大人しくなった気がするhoola。でも、それが妙に新鮮で、ふとした時にドキッとする。
たとえば、黙ってノートを取ってるときとか。
眉をしかめて真剣に考えてるときとか。
「……変わったな、ちょっとだけ」
自分も変われてるのかは、わからない。ただ、彼女と一緒にいる時間が、前よりも少しだけ特別に感じる。
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講義が始まる。教授の声が教室に響き、学生たちはそれぞれノートやパソコンに向き合いはじめる。
だけど――
“ピヨピヨピヨ……”
小さな、けれど妙に耳に残る音が教室に響いた。教授の声が止まり、学生たちがざわつく。
「……ばれたか」
hyeheheは、口元を少し押さえて笑いを堪える。
机の下にそっと置いた、録音入りぬいぐるみ。音を鳴らすタイミングは完璧だった。
案の定、hoolaの視線が鋭く飛んでくる。でも、それを受け止めるのが、密かな楽しみだ。
怒ってるのか、呆れてるのか――多分、両方。でも、彼女はこのくらいじゃ本気で怒らない。
それに、片付けはpompomがしてくれるだろう。
――そう思っていたら、案の定、pompomが冷静に拾っているのが見えた。
「感謝してます、pompomさん」
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講義が終わり、午後はcherubble、humbugと合流してキャンパスのベンチでだらだらと。
「おまえさ、hoolaちゃんまた怒ってたぞ」
humbugが、わざとらしく言う。
「怒ってる顔も好きだからいいんだよ」
hyeheheは笑いながら答えた。
「……ほんと、お前らバカップルだな」
ぼそっと言ったhumbugに、cherubbleがくすくすと笑う。
「でも、なんだかんだでバランス取れてるよね、あのふたり」
hyeheheは、ベンチに寝転びながら空を見上げた。
春の空はまぶしくて、少し眠くなる。
(明日も、また何か仕掛けようかな)
でも――ふと思う。
もしも、何もしなくても彼女が笑ってくれるなら、それもいいかもしれない。
そんなふうに考えた自分に、少しだけ驚いた。
けれど、それを誰にも言うつもりはない。
秘密は、いつだって楽しいから。
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