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第6話
風邪で倒れてた黒瀬が学校に戻ってきたのは、あれから数日後だった。
「にしても、心配したんだからね? 熱ヤバかったじゃん!」
「わざわざ来なくてよかったのに。」
「何それ〜! あんだけ看病してあげたのに冷たい!」
そのとき、黒瀬のスマホが鳴った。
通知をちらっと見て、彼は小さくため息をつく。
「悪い、今日ちょっと用事ある。」
「え、また? 今度は何の用事?」
「別に。……普通の用事。」
それだけ言って、彼はさっさと席を立った。
――あの“普通の用事”、どうにも気になる。
週末。
友達に誘われて行ったライブ会場。
熱気と音とライトに包まれた中で、
私は信じられない光景を見た。
「……黒瀬?」
ステージの脇で、黒瀬がヘッドセットをつけていた。
黒いスタッフTシャツ、腕まくり、真剣な横顔。
照明のチェックをして、無線で何か指示を出している。
「ねぇ夏江、あのスタッフの人イケメンじゃない?」
「う、うん……知ってる人、かも……」
知ってる、どころじゃない。
まさか“用事”って、これだったの?
ライブが終わって外に出ると、夜風が心地よかった。
会場の裏手を歩いていたら、
スタッフ出口から黒瀬が出てきた。
「黒瀬!」
「……なんだ、お前。」
「“用事”ってこれだったんだね! ライブスタッフなんて、すご!」
「すごくねぇよ。バイトだし。」
「いやいや、めっちゃ似合ってたし! なんか大人っぽかった!」
「……褒めてんのかバカにしてんのか分かんねぇな。」
「褒めてるの!」
「そ。なら、ありがと。」
照れたように視線を逸らす黒瀬。
その顔が、照明の残り光に少し赤く見えた。
「……まだ本調子じゃないんだから、無理しちゃダメだよ?」
「お前こそ、人のバイト尾行してんじゃねぇ。」
「べ、別に尾行じゃないしっ! 偶然だもん!」
「はいはい。」
いつもみたいなやり取り。
でも、なんでだろう。
今日のその“はいはい”が、
少しだけ優しく聞こえた。