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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「ずっと貴方を大切にする」

そんなの嘘だ。

「私は君の味方だよ」

どうせすぐ裏切るくせに。

「いつでもそばにいるからね」

簡単にそんなこと言わないでよ……。

「もう…嫌だ……」

今日で何度目だろう手首を傷つけるのは。

人が俺を裏切るたび、嘘をつくたびに俺は自分で自分に傷を刻み込む。

痛い…痛いよ……

でも仕方ないんだ。

こうでもしないと俺は正気でいられなくなるのだから。

全部、自分が背負って行かなければならないのだから。

力を込め過ぎたせいだろうか傷はどんどん深くなっていき、やがて溜まっていた血が流れ出した。

「あぁ……またやっちゃったよ……ほんとダメだなぁ、俺……」

消毒液を垂らしたウェットティッシュで血をふき取り、手首に大きい絆創膏を貼って止血する。血は止まっても痛みは止まらない。

でもこれが、俺の心の痛みなんだと思う。

手首には無数の痛々しい傷痕が残っていた。

リストカットの傷痕はそう簡単には消えない。

こんな姿、誰にも見せたくないし見られたくない。

ましてや、メンバーなんかに見られたら……

「はぁ……また、心配かけちゃうよな……」

猫に引っ掻かれた、と誤魔化す手も考えたが俺の家に猫はいないし、そもそもこんなに傷ができてたら不自然だろう。

仕方なく俺は明日のリハに備えて過去のツアーグッズだったリストバンドを絆創膏を貼った手首の上につけた。

絆創膏はリストバンドで隠され、袖の長い服を切ればその他の傷痕は隠される。

あとはうっかりでバレなければいい話。リハは私服だから明日は袖の長い服を着て行こう。

そう思って俺は眠りについた。


「……ん……?…な、に……」

気のせいだろうか、体が重く感じ、起き上がろうとしても誰かに体重を掛けられているかのようにびくともしない。

金縛りかと思ったが手は動かせるし話そうと思えば普通に話せる。

ただ体だけが重くて動かないのだ。

「誰か……いる……?」

俺は恐る恐る手を伸ばしてみた。

「……ん……」

そこには何故か、俺の左手を握りながら眠っている薫君の姿があった。

「っ!?……え、なに……これ……」

俺は慌てて手を離そうとしたがガッチリと握られていて離そうにも離れない。

仕方なく俺は薫君を起こすことにした。

「お、起きて!薫君!起きてよ!」

「……ん……おはよー」

寝起きのふにゃふにゃした声で答える薫君に少しドキッとしてしまう。

「おはよーじゃなくて、なんでここにいんの?しかも何で覆いかぶさって寝てんの?」

状況の整理ができずに問いただす俺に薫君は眠そうにあくびをしながら答えた。

「さっき堕威と飲んでてな、そんで家まで帰るのめんどいから店から近い敏弥の家に来たっちゅうわけ」

「だ、だからって同じベッドで寝なくても……」

「あ~?別にええやんか。それともなんや?お前まさか俺に襲われるとでも思っとん?」

「そ、そういう訳じゃなくて!」

「ああもううるせぇ……まぁちょっと落ち着けや」

そう言うと薫君は俺の体を起こした。

俺はとりあえず薫君から離れようとベッドから降り、床に座った。

折角の貴重な睡眠時間が削られていく…。

「だ、堕威君とは帰らなかったの?」

「アイツは先に帰らせた。酔い潰れとったからな」

「そ、そうだったんだ……」

暫くの間、沈黙が続く。だがすぐにその沈黙を薫君が破った。

「で?お前はなんで手首にリストバンドなんてつけとるん?それ大分前のツアーグッズやろ」

「え?……あ……」

指摘され、慌てて手首を隠そうとするも、薫君に掴まれて隠すことは叶わなかった。

「おい、これはなんなん?」

明らかに怒ってる様子で問い詰めてくる薫君に俺は何も言えずにいた。

だって言えるわけない。リストカットをしてるだなんて……

「答えろや」

「……っ……」

俺は下を向いて黙り込んでしまった。

すると、突然俺の体が暖かいものに包まれた。

そして耳元で囁かれる。

「なぁ……なんで黙ってん?なんかあったんやろ?」

薫君は俺を優しく抱きしめながらそう言った。

その声があまりにも優しくて思わず泣きそうになったが、グッと堪える。

「べ、別に……ただちょっと怪我しただけだよ……」

余計な心配を掛けたくなかった俺は自分が一番嫌いだった「嘘」をついてしまった。

だが、そんな嘘は薫君には通じなかったようだ。

「嘘つくなや。ちょっとの怪我でこんなおっきな絆創膏貼らんやろ。なぁ、何があったん?」

「だ、だから何も……ない……」

何故だろう、涙が止まらない。言葉を発する度に喉が震えて声が掠れていく。

「嘘つくなって言ってるやろが……」

薫君の声がしだいに怒りを含んだものへと変わった。

それと同時に俺を包んでいた温もりは離れていく。

ああ、嫌われたかな……なんて思いながらも俺は自分の袖口で涙を拭うことしかできなかった。

そんな俺に薫君は問いかけた。

「なぁ、何でそんなに隠そうとするん?俺じゃ頼りないんか?」

その問いかけに俺は首を横に振った。そして必死に声を絞り出して答える。

「そんなことない!薫君はいつも俺の味方でいてくれるし大切なメンバーだしそれに……それに……」

俺は薫君の目をまっすぐ見つめながら言った。

「薫君がいないと……俺、生きてけないよ」

その言葉を聞いて一瞬目を見開いた後、薫君はフッと笑った。

そして俺の頭を優しく撫でながら言った。

「ならもっと頼れや」

その言葉を聞いた途端、涙腺が崩壊して俺の目からは涙が零れ始めた。

「う……うぅ~……」

そんな俺を見てか、今度は強く抱きしめられる。

その力強さに安心してまた涙が出た。

今までの不安や悲しみ、辛さがすべて涙で洗い流されていくように感じた。


暫くしてようやく気持ちが落ち着き、涙も止まるころ、薫君は俺を解放して言った。

「もう大丈夫なんか?」

「うん……ごめんね、服汚しちゃった……」

俺は涙で濡れてしまった薫君のTシャツを見ながら申し訳なさそうに言う。

そんな俺を見て薫君は笑いながら言った。

「別にええよ、洗えば済むことやし」

そして俺の頭をポンッと叩きながら言った。

「ほら、はよ寝んと、明日起きれんくなるで」

「うん……」

俺は小さく返事をしてベッドの中に入った。

するとすぐに眠気は襲ってきて……気付けばもう朝。

隣ではいつの間に入ったのか薫君の姿が。

昨日は薫君のお陰で大分気持ちが楽になった。

何時も憂鬱だった太陽の光も今日はなんだか輝いて見える。

「ん~……なんや、起きとったんか……」

隣で薫君の眠そうな声が聞こえる。

何時も1人だったから分からなかったけど、朝起きたときに誰かが隣にいるのってこんなに安心するものなんだ。

「ふふっ……おはよ、薫君。いい天気だね」

「何やえらく元気やな」

「うん、薫君のおかげでね。ありがと」

俺がそう言うと薫君は少し照れくさそうに笑った。

そして俺の頭を撫でながら言う。

「そか……よかったな」

そんなやり取りをしながら俺たちはリビングへ向かった。

「あ、そうだ!俺、今日のリハで新しいベース使おうかなって思ってるんだよね」

「ええやん、俺も新しいギター買わんとなぁ~」

他愛もない話をしながら朝食を作る。

今日の朝食は卵とハムのサンドイッチにしてみた。薫君にも好評で、嬉しい限り。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさん」

2人で手を合わせながら挨拶をし、出かける支度を始める。

今日はいい日になりそうな気がするな。

そんなことを思いながら俺はリハに向かう準備をした。

すると、背後から薫君に呼び止められた。

「あ、敏弥」

「ん?」

振り向くとギュッと抱きしめられる。

「ど、どうしたの……?」

突然の事で固まっていると薫君は俺の耳元で囁いた。

「もう……二度と、自分を責めるんやないで」

その言葉を聞いた瞬間、俺はやっと理解した。

「……薫君……ありがとう」

足りなかったものが分かった気がした。薫君だ。

この温もりや優しさ、全てが俺に足りてなかったんだ。

傷をつけるなんてしなくても薫君が傍にいてくれるだけで俺は十分だったんだ。

「どういたしまして」

薫君はそう言って俺から離れた。

「ほら、はよ準備せんと遅れるで」

「う、うん!」

そうして2人は家を出る。

痛みで辛さを忘れられたのは一時的。

でも薫君が与えてくれる優しさで辛さは永遠に忘れられる。

俺に足りなかった最後の欠片は薫君でした。


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