テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
痣を見つけたあの日から景は銀司の首元をよく見るようになった。
(やっぱり痣がある。)
なかなか痣について聞くタイミングが訪れず、景の心はモヤモヤする日々が続いていた。
そんなある日
「雨……止まない」
バイト終わり。日は落ちてすっかり夜になった頃、今日の天気が大雨になる事を忘れていた景は傘を忘れ、店の前で立ち尽くしていた。
(近くにコンビニがあったはず、そこまで走るしかない)
そう思い足を踏み出そうとしたその時だった。
(…?)
(あれは)
雨で少し見えずらいが、少し離れた先に人影が見えた。傘もささずに、ゆっくりと道を歩いている。
「……銀司?」
見覚えのあるオレンジの髪。いつも帰り道で見ていた制服。その影はどう見ても銀司だった。
「………………」
銀司はこちらに気付く様子が無かった。それどころかいつものヘラヘラとした雰囲気が嘘のように下を向いていた。
「銀司!!!」
「……けい?」
景が大きな声で銀司を呼んだ時、ようやく銀司は景の方へ顔をゆっくりと動かした。
「何してるの、こんな大雨の中傘もささずに」
景は鞄を傘代わりにしながら銀司の方へ駆け寄っていく
「…………なんでだろ」
「オレ、気が付いたらここまで走って、きてて」
活発どころか今にも消え入りそうな声で銀司は返事をする
「……理由は後で聞く。」
「とにかく濡れない所まで行くよ。まだ走れる?」
「……走れないかも」
「………分かった。これ持ってて」
そう言うと景は銀司に持っていた鞄を押し付け、銀司をおんぶし始める
「え、ちょ……なにして」
「コンビニまでだから。大人しくしてて」
銀司は困惑して降りようと体を動かすが疲労のせいで上手く体を動かせない。景は持ち上げてすぐにコンビニへと走り出す。
「もういいだろ……降りても」
「うん、いきなりおんぶしてごめん。」
「いや…良いけど……」
コンビニの目の前、ようやく雨宿りができるスペースまで走ってきた景達
「……重くなかった?」
と銀司が静かに聞く
「全然。ボク結構鍛えてるから」
服の水を絞りながら景は淡々と答える。
「へぇ…」
「…………」
お互い話す事もなく少し気まずい雰囲気が漂ってしまう。先に口を動かしたのは景だった。
「……中入るよ。傘買おう」
「…あぁ」
そうして2人はコンビニの中へ入っていく。
「はい。ありがとうございます。」
会計を終わらせた景は片手に傘、もう片方には温かいスープをもった景は入口付近でじっと待機している銀司の方へ歩いていく。
「銀司。」
「…会計終わったのか」
「うん、ついでにこれ君に買ってきた。」
そう言って差し出したのは温かいスープだった
「悪いってそんなの。お前が飲んどけ」
「ダメ。ボクよりずっと雨当たってるでしょ」
「少しでも体を温めないと」
「分かったよ……ありがと」
銀司は観念したかのように渋々とスープを受け取る
少し休憩したとはいえ銀司の体は寒さで僅かに震えていた。顔色も良くない上に唇も紫色になっている。
「……ねぇ、確か君の家ここからだと遠かったよね」
「……そうだな」
銀司はスープを少しずつ飲みながらゆっくり返事をする
「ボクの家近いから、今日は泊まっていかない?」
「は?」
銀司は何言ってるんだこいつとでも言うような顔をしてこちらを見ている。
自分でもよく分からない事を言っていると理解している。だが、
「こんな状態で一人帰すのは流石に心配だから」
「だからって……景は実家住みだろ?親御さんとか…びっくりするかもじゃん……」
銀司は俯きながらボソボソと呟く
「母さんと父さんは今旅行中」
「えっ」
嘘偽りなく、本当に両親は旅行中だ。正月、街中で買い物をしていた時、偶然通りかかった福引のガラガラでペア旅行券を引き当てたらしい。
「だから心配しなくていい」
そう言いながら景は銀司の方を見て少し微笑む
「えぇ……」
銀司は嫌そうな顔をして後ずさるが
「早く行くよ。ボクも風邪ひいちゃう」
景は銀司をサラッと持ち上げ連れていこうとする。
今度はお姫様抱っこで
「ちょ、ちょっとまてスープ溢れる!てかこの持ち方恥ず過ぎやだ……」
少し元気になったのか銀司は恥ずかしそうに顔を赤くしながら降りようとする
「どうせ歩けないでしょ、ごちゃごちゃ言わないで。すぐそこだから暴れない。あと傘持っといて」
景は淡々と言葉を連ねる。
「……っ」
(その通り過ぎて何も言い返せない……!)
正直、銀司の足はもう立つだけで精一杯だった。走ってくる途中で何度か転け、膝も踵もジリジリと痛む。
そうして銀司は大人しく傘とスープを持ち、景の家へと運ばれて行った。
「ここがボクの家。」
「…………はぁ」
(景の家って…………こんな…こんな凄い家だったのか……?)
景に連れてこられたのはよくテレビでも紹介されるような立派な和風建築の家だった。
(門とか、明らかに凄そうな物がいっぱいある……どうなってんだ……)
銀司は戸惑いながらも景に抱かれ庭園のような場所を進んでいく。
「玄関の鍵開けるから1回降ろすよ。」
「あ、あぁ分かった」
そう言って景は銀司を少し支えながら鍵穴に鍵をさし、ドアをガラガラと言わせながら開ける。
「カゴ持ってくるから靴下とか上着脱いでて」
「そ、そんなしなくてもカバン入れとくし……」
「洗濯するから。」
「へ…」
確かに泊まる。という話にはなっていたが洗濯までされるだとかそんな事は一切考えておらず、銀司は少し慌ててしまう。
「せ、洗濯って服全部?」
「全部」
「それつまり風呂とかも入るって事?」
「入らせる。」
景は静かに銀司へ圧をかけてくる。
「入り……入ります……」
「よろしい」
銀司はその圧に勝てず了承してしまう。
「ボディソープはこれ、この泡立てるやつも使っていいから」
「……分かった」
銀司は景にお風呂場へと連れてこられ、軽く説明を受けていた。
「一応廊下で待っておくから何かあったらすぐ呼んで」
「大丈夫だって…」
「じゃあ出たら言って」
そう言って景は廊下へ出ていく
景の心配性に少し反抗しつつも銀司は服を全て脱ぎ、浴室へ入る。
「シャワー…はここだな」
ザーッと温かいお湯が銀司の体を包んでいく。
(…………あったかい。ちゃんとお風呂入ったの久々かも。最近忙しくてすぐ出てたし……)
心地の良い温もりに銀司は安心して気が抜けてしまう。それと同時に疲労と眠気が襲ってきていた。
「…………やべ……寝ちまいそ」
ガタッ
「……銀司?」
少し大きな音に気付いた景はすぐに浴室へ向かう。
「銀司。大丈夫?返事して」
「……………………」
待てど返事は返ってこない。
「……開けるよ」
景は急いで浴室のドアを開ける
「銀司!」
「…………ぁ…けい……ごめ…」
銀司は浴室の中で壁にもたれかかるようにして倒れていた。
「何があったの」
「……ふろ…あったかくて……眠くなった……」
「すぐ…でるから……まって」
銀司はゆっくりだが立ち上がろうとする
「……ボクが洗うからそこ座って」
景は銀司を抱き上げて椅子へ座らせる
「…流石にここまで…やらせたくない……」
銀司は猫背になりながら抵抗しようとするが、景は
「もう大人しく洗われてて。1人だと寝ちゃうでしょ」
とシャンプーを手に出して銀司の頭を泡立てる
「うぁ……まてって……ば」
そう言いながら銀司は容赦なく洗われていく。
「体、背中はボクが洗うから前は自分でやってね」
「……あぁ」
そうして景は銀司の背中を洗おうとする。
その時だった。
「……っ」
(これ……全部傷……?)
頭を流している時は急いでいたのと泡で見えなかったが、銀司の背中には引っ掻かれたような、殴られたようなそんな傷達が大量に残っていた。
(動物にやられたとかで説明できるようなものじゃない。)
(意図してやったみたいだ)
首を見ると先日見た絞めたような痣も見えてしまった。
景は眉間に皺を寄せ、意を決して聞く。
「……この傷、どうしたの」
浴室の中は静まり、シャワーの音だけが続く。
「へ……きず?」
銀司の反応は少し遅れていたが、質問の内容を理解したその瞬間、
「……っ見んな!!!」
といきなり声を荒らげて逃げようとする。
「座って。」
「……ぅ゛ぐ……!」
景は冷静に銀司の腕を捕まえ椅子に座らせる。
「オレ、おまえに、お前にこんな汚いの見せたくなかったのに……」
銀司は俯きながら声を震わせる。
「……汚くはないし、ボクはこういうの気にしない。」
「うそだ……汚いに決まってるだろこんなの」
「ボクが嘘つきだって言いたいの?」
景はわざと意地の悪い言い方をする。
「……っちが…そんなことない……」
「ならもう余計なこと言わない。」
「…………」
銀司は諦めたように力を抜いて大人しく背中を洗われ始めた。
「…痛くない?大丈夫?」
「……大丈夫。もう結構前のだからそんな気にすんな」
「そう」
それでも景は優しく銀司の背中を洗っていく。そんな景を見て銀司は問う。
「なんでそんなに…親身になってくれんの」
「オレ、お前に大したことできてないだろ」
控えめに、少し怖気付いたような声で話してくる銀司に
「君には感謝してるから。」
と景は答える。
「感謝?」
銀司は不思議そうに顔を少しこちらに向ける
「そう。銀司、いつもバイトでボクの事手伝ってくれたり色々話してくれたでしょ」
「あれ、すごく嬉しかった。」
銀司には見えないように、景は穏やかに微笑む。
「……へぇ」
銀司も景の顔が見えないのに声の柔らかさでついにやけてしまう。
景は続ける。
「ボク、昔から変な人ばっか寄ってくるから苦労してた」
「…例えば?」
景は銀司の体の泡を流しながら言う
「やたらベタベタしてくる人とかストーカーとか部活の先輩のくせに喧嘩ふっかけてくる人とか……」
「なんだよそれ」
銀司は口元を手で抑えながら「モテ自慢かよ」と笑っていた
そんな銀司を見ながら景は
「銀司はあの人達みたいに踏み込んでこないし、邪魔してこないから好き」
と笑う。
ほんの少しの間、泡が流されていく音だけが浴室に響く
景の言葉に対して銀司は
「……そりゃどーも」
という言葉と共に何か言いたげな表情で目を逸らす。
数分後。銀司は景に頭を拭かれていた。
「もうこれくらい自分で…!できるっての!」
そう言いながらわしゃわしゃと好き勝手にされている。
「はいはい。じゃあドライヤーは自分でやって」
と電源を付けたドライヤーを銀司に手渡す。
「うわお前こっち向けたまま渡すな!うぅあ!!」
銀司はドライヤーの風に翻弄されながらも何とか自分で髪を乾かしていく。
「ちゃんと乾かせた?」
「完璧。景のも乾かしてやるよ」
「じゃあお願い」
銀司は自慢げに景の髪を櫛でとかしながらドライヤーを当てていく。
少し激しいドライヤーの音が響く中、景は大人しく目を閉じてじっとしている。銀司はその横顔に不覚にもドキッとしてしまった。
(……ほんとに綺麗な顔してんな)
そう思いながらドライヤーの電源をOFFにする
「こんくらいだろ」
「ありがと」
銀司は景の髪を見ながら言う
「お前髪綺麗だな、サラサラでふわふわしてる。」
「それにいつも髪結んでるから下ろしてるのも新鮮でいい」
「そう?」
「そうそう」
銀司はへらへらとしながら脱衣所から出ようとする。
「……ぉ……わっ……」
「!銀司」
すっかり気が抜けていた銀司の体は思い出したかのように疲労と眠気が襲ってくる。
「ごめ……ふらついた……」
「大丈夫、一旦ボクの部屋まで行こう。」
銀司が眠たげな眼をじとっとさせて景を見つめる。
「……まただっこ?」
「仕方ないでしょ我慢して」
「やだ……はずい…ぅわっ」
嫌がる銀司を無視して景はお姫様抱っこで銀司を自室まで連れていく。
最初は嫌だ嫌だと言っていた声は廊下を進むにつれ、大人しくなっていく。
「……銀司?」
名前を呼ぶ声に返ってきたのは
「すぅ……すぅ……」
という寝息だけだった
「…………」
(明日が休みでよかった)
音を立てないようにゆっくりと自室のドアを開ける
「ボクは…敷布団で良いか」
そう言いながら銀司をゆっくり自分のベッドへ降ろしていく。
「…おやすみ、銀司。良い夢を」
「…………お……すみ……けい……」
「……」
(ほんと良い寝顔。)
布団をかけられ、気持ちよさそうに寝る銀司の寝顔に景は愛おしさに近い何かを感じ取っていた。