_伏見視点_
最近、とやさんからの連絡が一切ない。最近忙しいのは知っているし、詳しくは分からないけどマネージャーさんとの多少のいざこざがあった事も知っている。
ただつい最近まで来ていた連絡がある日を境に消えてしまった。
多分原因はマネージャーさんとのいざこざ…なんだろう。
心配になり、俺は時間を何とか作ってとやさんの家に行く事にした。
____ピーンポーン…
そうチャイムを鳴らすが、急いで来るとやさんの足音が聞こえないどころか、異様に物静かだった。
とやさんの家族すらも今はいないのだろうか?
「 …そういえば… 」
合鍵を貰っていた事を思い出す。鍵を使い、とやさんには悪いが鍵を開けてそのままお邪魔した。
「 お邪魔しま〜すっ、…とーやさんいますか…、? 」
まだ昼間なのに異様にしんとしているとやさんの家の中。心做しか空気がどんよりと重い。家に上がってみると、踏んだところから軋む音。
薄暗い階段をゆっくりと1歩ずつのぼり、上の廊下にひょっこり顔を出していく。
やがてはとやさんの部屋の前に着いてしまった。
「 … 」
ドアノブに手をかける。
その瞬間脳が本能的に開けるなと呼びかけているのか、ドアノブを回す手が止まる。
悪い予感がする。とやさんになにかがあったらどうしようか…。いやとやさんなら大丈夫なはず、だって俺の相方だから。だって”剣持刀也”なんだから。
どうか…無事であって欲しい。
ドアノブを回す勇気がやっと出てくる。意を決してドアノブを捻り、ドアを前へ押した。
…第一に目に入ったのが机の上のテーブルランプに照らされているカッターや薬、そして乾いた血で汚れた机。
次は血なまぐささが鼻に入ってくる。
最後にベッドの上で力なく項垂れているとやさんの姿。
「 っ刀也さんッ!?!?刀也さんってばッ!!! 」
辛うじて残っている温もり。今にも消えてしまいそうな火欠片のように、そして死人のような、痩せこけて細くなった手足。
がしがしと強く揺らして、ずっと声をかけてたのが功を成したのか、薄らとくまの酷い目がゆっくり開く。
『 …ぁあ、ガっ…く、 … 』
今にも消え入りそうな声。掠れていて、痛々しい。
『 きて…たんですね…w っけほっ、けほ、… 来なくて良かったん…ですけど… 』
「 刀也さん… 」
無理して笑わないで刀也さん…この16歳という若くて、そして永遠の体にどんだけ我慢してきたのかを考えると想像を絶する。
『 ガ、くん、… 』
「 …!なんすか、とやさん…!!オレにできる事ならなんでも…ッ! 」
ふと声をかけられた。お願い事だろうか。
『 …会えて…良かったよ… 』
いたたまれない気持ちになった。もっと早く気付いてあげていれれば…と思うと…。刀也さんの相方として、相棒として。早く気付いていればこんな事にはならなかったはず…。
自分はこんな事をするのはそんな好きではないが、刀也さんをこんなに追い詰めた人達を1回痛い目に合わせなきゃならない。
オレはひとつ刀也さんに質問を投げかけた。
「 刀也さん、今でもあの人達は仲間と認識しますか? 」
『 …なに、その質問… 』
刀也さんは顔を逸らして、少し考えてからひとつの回答を返してくれた。
『 …まぁ、うん。…少なくともろふまおの皆は…。 』
『 …説得力は無いと思うけど…ぼくはまだ心のどこかで社長とか甲斐田くん、ふわっちもそうだけど、…..あんな事をする人じゃないって、僕はまだ信じてるよ。 』
「 ……そうですか。」
刀也さんに微笑みを向け、優しく頬を撫でた。
オレが一番痛い目を合わせなきゃいけないのは…….
“〖 ふふっ… 〗”
新人マネージャー。明確になった。そして、一旦加賀美さん達にも痛い目を見てもらわなければならない。
勘違いしてるからといって刀也さんを追い詰めたのも事実。
「 …刀也さん、任せてくださいね 」
『 …は?おい、何をしでかす気…?? 』
_翌日/剣持視点_
『 ___だからといって着いてくる必要無かったじゃないすか!?w 』
「 いーや、ストッパー役がいなきゃガっくんは絶対暴走するから!?ッケホッ゛ッ….ゲホッ…. 」
『 ほら、体調も万全じゃないんだし、家でゆっくり休んで刀也さん?!!オレはオレで大丈夫なんで!! 』
体調が万全じゃないのも事実だし、立ってるのもやっとだ。大きな声を無理にでも出せば喉がやられる。それに、ああいう人達ではないと信頼してるとはいえ、…社長達に会うのにトラウマを感じている。
ただ、ああやって質問をしてきたガっくんのやる事は大体想像ができる。
何年ガっくんの相方をやってきてると思ってんだ!!こちとらもう6年目だぞ!!何も言わなくたってガっくんのやる事なんて大体予想が着くんだよォ!!
叫べない代わりに心の中でそう叫ぶ。
でも実際、自分の為に行動を起こしてくれる事は嬉しい。普段の僕なら”復讐しに行くよ”とかなんとか言われたり、すると感じたら止めるが、今回の場合は話が違う。ちゃんと罪を償ってもらいたいのだ。
今回の事は一歩間違えたら殺人事件にもなっていたデカい出来事だ。ごめんなさいじゃ済まされない。
まさか自分があんなにまで情緒不安定、精神的病を患うことになるなんて思わなかった。人間は脆い。痛いとこを突かれるだけで簡単に壊れてしまうから。
「 …とーにーかーく、僕も連れてってください。 」
『 えぇ〜、まぁ、…刀也さんがそこまで言うなら…。ただ無理はしないでくださいよぉ〜? 』
当たり前だろ、と言う代わりに薄らと口角を上げて腕を組んだ。
_enkr本社/ろふまお控え室前_
やっと来た。来てしまった。途端に心拍数が上がる。扉を開けようとして手が止まる。
せっかくガっくんにお願いして、自分が開けると言ったのに。
僕を…いや、僕らを狂わせた元凶が扉の向こうにいる。ドアを開ける手が震える。上手く力が入んない。
「 ッはぁ….はッ…..は…. 」
冷や汗が止まらない。ドアノブを真っ直ぐに見て、唾を飲み込む。
『 …刀也さん… 』
「 っふ、…大丈夫、大丈夫…..ッ、! 」
ぎゅむっと目を瞑り、ドアを思いっきり開けた。扉に体重を掛けていたせいでその勢いで部屋の中に入ってしまう。
前が見れない。見たくない。
感じる痛いメンバーからの視線。
『 …お久しぶりですね。剣持刀也さん。…貴方が居ないお陰で収録が手付かずでしたよ…。 』
沈黙を突き破るかの様に、第一声に社長がそういう。その声は重くて、イライラしているのがすぐに分かる。
『 な〜、俺らさ。一応仕事なんよ、来てもらわなきゃ困るんすよね、もちさん。 』
『 僕ら、生憎忙しい身なので…収録が遅れるととーっても困ってしまうんですよ!…僕らより年下だからって、そこのところ理解してもらわないと困ります。 』
間髪入れる間もなく、メンバーから続けてそう言われてしまう。今やこんな風に、誰にも反論できなくなった僕が情けなく思ってしまう。
「 ごめんなさ…..___ 」
『 ちょっと。 』
謝りかけた途中、さっきまで明るい声だったはずの、伏見ガクの声が後ろから聞こえた。
『 さすがの加賀美さん達のお言葉でもここまで言うのはオレでも許せないッスね…。 』
珍しく怒っている。怒っていた。あの優しい伏見ガクが。あの明るい声が。
流石にメンバー達も、いつもと雰囲気が違うガっくんに驚いたようで動揺をしていた。
『 ぁえ、…ガっくん、?なしたん…. 』
明らかに動揺していて声がうわずっていた。
『 ….ふわっち、申し訳ないけど… 』
『 “ ” 』
ふわっちに向けてガッくんが人差し指を向け、次の瞬間には、ふわっちの目から涙が溢れ出ていた。膝から崩れ落ち、次第には謝り始めた。
『 ふわさッ、!? 』
『 ぁ、あ、…ごめん、ごめんごめんごめん…っッ、 』
ガっくんは僕の方を見て微笑んでから、再度ふわっちの顔を覗き込み、小さいけど周りに聞こえるような声で
『 …とやさんを傷付けた罰は重いですよ。 』
と。その一言で、ふわっちが声を上げて泣き始めた。まるで赤ちゃんのような…泣き声。絶対に泣けない男と言われ、絶対に僕らの前では涙を見せないあのふわっちが。
『 さて、加賀美さん、晴くん。…逃げないでくださいね? 』
____そこからは早かった。
「 …うゎ、…. 」
ガっくんは恐らく幻影を見せているのだろう。3人は様々な反応を見せている。
絶叫する甲斐田、赤ちゃん返りしているふわっち、静かに絶望している社長。
カオス….そんな一言で纏めれる状況。
『 …刀也さん、大丈夫ですよ!3人はあと数分したら眠るので。 』
「 いや何が大丈夫なんだよ….思ったよりエグい事してくれますね。本当に… 」
まぁとやさんにしたことに比べたら…。と真剣な顔でそう言う。
『 さて、…オレがここに来たのは加賀美さん達だけを制裁しに来たワケじゃないんスよねぇ 』
ろふまおの楽屋に居たのはろふまおメンバーだけで、例のマネージャーの姿が見当たらない。
『 …起きたら3人に聞いてみますか。 』
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