この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません
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阿部side
大好きだった恋人との永遠の別れ。それがこんなにも痛くて哀しいだなんて。想像していなかったし、実感なんてしたくなかった
『…阿部ちゃん、』
「…?めめ、」
『佐久間くん、行っちゃったね』
「…うん、」
火葬場から上る煙を見つめる。その色は全然ピンクじゃなくて、ほんとに彼が空に向かっているのか怪しいなぁ。って思った。というか佐久間ならもっとこう、ド派手に全速力で駆け抜けていくだろうし、とか。まあでもそんな足速くないからこんなもんか、なんて
『…あのね、阿部ちゃん』
「ん?」
『佐久間くんから、伝言なんだけど…』
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久々に鍵を開けて入った佐久間の家。玄関には俺とのツーショットが飾られていて、持ち主を失っていた二人分のスリッパが寄り添っていた
「…ただいま」
おかえり、って聞こえてきた気がした。…いや、おかえりって声が、聞きたかった。俺の家じゃないのにただいまって言うのを許してくれて、おかえりって絶対出迎えてくれて。その日常が非日常に変わってしまったことが苦しかった
「…使わないなら俺が勝手に使っちゃうよ?」
誰にも届かないのに、断りを入れる。桜色ベースに葉っぱの刺繍が入ったスリッパは、まだ真新しくて俺の足には少し合わなかった。履き潰してやろうかなんて思いながらそのまま歩き出して彼の部屋へ向かう
「嫁たちの中にいる俺って…笑」
大量のアニメキャラの中に1箇所なぜか俺のコーナーがあった。色とりどりの嫁たちの中に、1箇所だけすっごい緑。わかりやすくていいけども、統一感ないなぁ
「…ん、?これ、」
俺のアクスタの土台は何やら箱になっているようだった。めめが言っていたのはこれのことだったのか
『”佐久間くんから伝言なんだけど。嫁たちの中に俺の真の嫁がいるから見つけて、って。なんかよくわかんないけど、阿部ちゃんならわかるって詳しくは教えてくれなかったんだよね”』
どゆこと?って最初は思ってたけど、最推しとかじゃなくて真の嫁は俺のことだったらしい。結婚してないけど悪い気はしなかった、むしろ嬉しかった。欲を言えば、それが現実になるまで…現実になってからもずっと一緒に居たかったな
箱を開けると手紙が入っていた。その隣には手のひらサイズの小さな箱。箱も気になるけど “阿部ちゃんへ” って手紙の方が気になるからそっちを手にとって開く。そこには少し筆圧の薄くなった彼の文字が並んでいた
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阿部ちゃんへ
この手紙を読んでるってことは俺はもうこの世にいないんだな…くぅ、無念
蓮からちゃんと教えて貰えてたみたいでよかった!
えーっとまずは、何年になるのかなあ。
どんぶり勘定になるけど16年ちょっと?の間、一緒にいてくれてありがと!!
恋人としては4年だよね、阿部ちゃんは俺にとって宝物で、何よりも守りたい最高の彼女です
とにかく優しくて頭良くて顔も良くてあざとくてめちゃくちゃ強い。良い意味でね?
そんな阿部ちゃんが大好き。
過去形には絶対しない!
これからもずっと大好きだし愛してるから。
そういや I LOVE YOU って絶対過去形にならないらしいよ
俺すごく心残りなことがあって、それがその一緒に入ってる箱なんだけどさ。
ほんとは口で伝えたかった。
もうちょいで付き合って5年記念日じゃん?
そのときまで生きてたら、取りに来てこの手紙は破り捨てて直接伝えるつもりだった
でも叶わなかったみたいで悔しい
その箱の中身を見たくてうずうずしてる頃だと思うし、そろそろ終わるね
手紙書かなさすぎて終わり方わかんねーんだけど、大事なことを繰り返すってのは知ってるから最後にもう一回だけ俺の気持ちを伝えとく。
生涯で一番好きになった人だった
ほんとに大好き、今までもこの先もずっと
泣くなよ?一人で泣くんじゃねえぞ!!
ま、俺が側にいるから一人ではねえか笑
じゃあまた会える日までちょっとだけお別れ!
またね!!!
来世は旦那になっているであろう佐久間大介より
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少しシワの寄った手紙が涙に濡れてしまいそうになったから、慌てて机の上に置く。泣くな、って言われたしこんなとこでメソメソしてても仕方ないよな。服の袖でテキトーに涙を拭って、意を決して例の小箱を手に取る
「…よし。開けるよ佐久間」
軽い感触と共に現れたそれを見ると同時に、視界が歪んだ。泣かせに来といて泣くなとか鬼畜過ぎるコイツ。ケースの中で光ったのは、ペアの指輪だった
「…イニシャル、入ってるし。日付まで、」
ほんとにこの日プロポーズしてくれるつもりだったんだな。いやプロポーズじゃないかもしれないのか。と考えていたらクッションの下になんか入っている。引っ張り出すとちっさな布が出てきた
“俺と結婚してください”
「…もーさぁ…」
こればかりは絶対に彼の声で、彼の口から聞きたかった。なんで文字なの、なんで対面で伝えてくれなかったの?なんで俺だけ置いていったの
「返事も、出来ないじゃん」
全身を使っても受け止めきれない程の故人からの愛の対処法なんて知らない。こんな感情、どうして良いかわからない。彼はどれだけ俺に跡を残せば気が済むんだろう。愛されていることが何よりも嬉しくて、辛くて、痛い
「…逢いたいよ、」
踞ってやっと吐き出した俺の本音は誰にも届かないまま宙に浮かんで消えた
コメント
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涙止まらん
泣いたまじで号泣😭😭😭😭😭🩷💚