録音を止めたあとも、大森の荒い呼吸は収まらなかった。
襟元がはだけ、鎖骨は汗のせいで艶かしい。
頬は赤く染まり、濡れた前髪が額に張り付いている。
吐息の合間に漏れる小さな声――
「……はぁ、っ……ん……」
その一つひとつが、若井の理性を削っていった。
大森は背もたれに沈み込み、目を細めている。
汗に濡れた喉が上下し、乾いた唇が小さく震えた。
その表情に、胸の奥が焼け付くように熱くなる。
「……元貴」
無意識に名前が零れていた。
大森はぼんやりと目を開け、若井を見つめ返す。
その視線が、また火を点ける。
「……若井、そんな顔して……」
かすれた声で囁かれただけで、全身が疼いた。
――もう駄目だ。
気づけば立ち上がっていた。
大森の椅子の前に立ち、ベルトを乱暴に外す。
目の前で戸惑う大森。
「えっ……お前、なに……」
言葉の続きを飲み込ませるように、若井は大森の顎を掴んだ。
「……ごめん、もう我慢できない」
そう呟いた次の瞬間、大森の唇が強引に開かれる。
衝動のまま、若井の熱がその口内に押し込まれた。
「……っ! ん、ぐ……っ」
大森の喉が驚きに大きく鳴る。
目を見開き、必死に若井を見上げてきた。
「……無理だった……お前の顔、吐息、全部見てたら……っ」
若井は低く呻き、腰を震わせる。
大森の唇が熱を受け止め、舌が無意識に触れる。
「ん……っ……、んんっ……」
苦しげな吐息の合間に、甘い声が混じる。
その声にまた煽られ、動きが早まっていく。
大森は抵抗しない。
驚きはあっても、拒絶はない。
むしろ濡れた瞳で見上げながら、喉を震わせて受け入れている。
「……元貴……そうやって見られると、余計に……っ」
堪えきれず、額に汗が滲む。
「は……ん、っ……若井……っ」
塞がれた口の奥から漏れる声は、苦しさと快感が入り混じっていた。
舌が触れるたびに震え、その振動が若井を追い詰める。
「あ……もう、駄目……っ!」
握った髪を強く引き寄せた。
大森の顔がさらに近づき、喉が大きく震える。
「っ……あぁああっ!!」
次の瞬間、熱が一気に溢れ出した。
白濁が大森の口内を満たし、喉を流れ落ちていく。
「……っ、んんっ……!」
大森は必死に飲み込み、口角からこぼれる雫を舌で掬った。
その光景に若井は全身を痺れさせ、さらに深く腰を押し込む。
やがて力が抜け、若井は荒い呼吸のまま髪を撫でた。
「……ごめん、急に……」
大森は口元を拭い、まだ潤んだ瞳のまま見上げてきた。
「……っ……ほんと、いきなりだな」
だが次の瞬間、口端に微笑みを浮かべる。
「……でも、嫌じゃなかったよ」
その笑みに、若井はまた喉を鳴らした。
罪悪感と背徳感と、どうしようもない愛しさが混ざり合い、胸を締めつける。
⸻
「……さっき録ったやつ、一緒に聴いて」
再生ボタンを押すと、部屋にさっきの荒い呼吸が流れた。
『ハァ……ハァ……っ……』
波形の揺れに合わせて、生々しい吐息が蘇る。
再生に合わせて、大森は随所に編集を施す。
最後の声が大きく跳ね上がる直前──彼は止めた。
「……ここまででいいな」
絶頂の瞬間は切り落とし、果てる手前の吐息だけを残す。
背徳の余韻を孕んだ音が、もっともゾクゾクする形でそこに刻まれていた。
大森はヘッドホンを外し、俺を見てにやりと笑った。
「……これ、ライブで使おう。……観客は知らないまま、この音で始まる」
若井は返す言葉を持たなかった。
胸の奥が灼けるように熱い。
観客もスタッフも気づかない。
あの吐息がどこで、どんな状況で録られたものかを知るのは──若井と大森だけ。
コメント
2件
次はどうなるんだろう?ライブで使おうって言ってるけどほんとに使うのかな?