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「……はぁ……はぁ……」
誰もいないオフィスの夜。時計はもう23時を回っていた。
若井の目の下には、クマ。PCの画面は終わらない資料の山。
カタカタ、と止まらないタイピング。
ふと、溜息が漏れた瞬間――バタンと扉が開いた。
「……お前、まだやってんの?」
「あっ……先輩……」
大森が現れた。
スーツの上着も着ず、ネクタイもゆるゆるのまま、手には缶コーヒー。
「……帰ったと思ってました」
「見にきたんだよ。“ちゃんと”働いてんのかってな」
若井は眉を寄せる。
心配じゃない。それはわかってる。
確認でもない。彼にとってこれは、ただの“遊び”だ。
「ねぇ、若井。お前さ――使えんのに、効率わっるいんだよな」
「……は?」
「だからさ。余計なこと考えんな。黙って、俺の指示だけ聞いてろ」
「……無理です」
ついに、若井は立ち上がった。
声は震えていた。
でも、瞳は逸らさなかった。
「……もう限界です。僕は、先輩の奴隷じゃない」
沈黙が落ちた。
と、その時――
カン、と缶コーヒーがデスクに置かれた。
「は?誰が限界って言っていいっつった?」
「……っ」
「俺の許可なしに、音を上げんな。いいか?お前の限界は――俺が決めんの」
大森の声が低くて、冷たくて、でもどこか愉しげだった。
「そんなに俺に反抗してぇならさ、明日から“もっと”仕事回してやるよ」
「……っ、ふざけないでください!」
「ふざけてねぇよ?……お前が、嫌いな俺に従ってんのが、面白くてたまんねぇんだわ」
若井は歯を食いしばった。
悔しいのに、逆らえない。
この男は、自分の弱さを見抜いている。
「俺の下にいる限り、お前の“自由”なんて、ねぇよ。覚えとけ」
――ドアが再び閉まった。
若井はその場に、崩れ落ちるように座り込んだ。
「……ほんっと、嫌い……」
それでもまた、キーボードに手を伸ばす自分が――
何よりも悔しかった。