ミナは小学生の時から、手首に赤い線を引いている。
その日は中学生になってからちょうど2ヶ月の夜だった。
夕食の後の二時間、この時がミナのリスカの時間だ。
いつも通り、お気に入りのカミソリを手にし、手首に軽く当てる。
スっと右にスライドさせると、切った部分が少し赤くなり、血は全く出ない。
「もっと切ったいいんやろーけどなぁー……」
ミナの家は、特別家庭環境が悪い訳では無いし、それどころか母も父も優しい。
兄はスポーツが苦手だか勉強は常に学年一位だ。
だからといって兄と比べられる事も全くなく、少し親が過保護なほどだ。
友達関係も悪くなく、自分でも自覚しているほど、友達も多い。
「ま、私がダメなんかなぁー………」
ミナは自分の性格をよくわかっていた。
嫉妬深く、常にマイナス思考、豆腐よりメンタルが柔らかく、人の目を気にする。
それだけではなく、思い込みが激しく、自意識過剰なのに驚く程に強がりで、負けず嫌い、それに被害妄想がすごいのだ。
そんなことを考えながら、ミナは無心で手首にカミソリを軽く当てる。
やっぱり少し赤くなってはすぐ治る。それにイライラしていつもより少し強めにカミソリを当ててみた。
ピリッ
手首に痛みが走る。
はっとしたミナは、恐る恐る手首を除いてみる。
するとそこには、赤い線とジワジワ浮き出る血があったのだ。
びっくりしたと同時に、少し嬉しくなった。
何故かは分からないか、達成感に見舞われた。楽しくなった。
少しすると痛みもなくなり、ミナの手首には一本の赤い線と、これまでのかすり傷が残っていた。
体が勝手に動く。ミナはさっきよりも少し強く、しっかりとカミソリを押し当てて、スっと右手を動かす。
ピリッ
またあの痛みが走ったが、今度はそれほど痛くない。
ミナの手首には二本目の線が入った。
今度は先程より、血が沢山出る。
また、嬉しくなった。
ダメだと頭が分かっていても、体はいうことを聞いてくれない。
三回目…四回目…五回目……
数えば数える程、赤い線は増えていく。
七回目にさしかかろうとした時、ミナは自分の手首が血まみれだということに、気がついた。
だからといってミナは手当をする訳でもなく手首から流れ出る赤い血をただじっと見つめた。
なんだかよく分からない、そんな気持ちだ。
中学一年生にして、リストカットの闇にはまってしまった彼女は、一体なんのために自分の手首を傷つけているのだろうか。
その気持ちは「生きたい」思いからか、はたまた「死にたい」思いからか。
彼女たちに「大丈夫?」という資格は本当に大人たちにあるのだろうか。
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