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「ごめんなさい。」
そうとしか言いようがなかった。
いや、そうとしか言わせて貰えなかったのかも知れない。
中学二年生のカナミは、今日、母親にリストカットをしている事がバレた。
二年前から、毎日のように行っている、この「自傷行為」は、カナミが生きる上で大切なものだ。
初めは、軽く家にあったカッターで少し跡がつく程度に。
それが今や、カミソリで血がドバドバ止まらなくなるまでに切っている。
でも、カナミは決して死にたいわけではなかった。
これからも、生きていくために行っているのだ。
その傷跡を今日、初めて自分以外の人に見られ 「気持ち悪い」と殴られた。
元々よく、ヒステリックを起こす母親だったが、カナミの事を殴ったのはその日が初めてだった。
カナミが何が起こっているのか、理解できない間に、母親は爪を立てて殴り、泣き叫ぶ。
゙こんな子になる予定じゃなかった ゛
カナミが、薄れゆく視界の中で唯一聞き取れたのは、その言葉だけだった。
目が覚めると、酒と煙草の匂いが充満した、リビングだった。
身体中が痛む、胸の上は皮膚が軽くえぐられ肉が見えていた。
だか、カナミはそんな事はもうどうでもよかった。
元々頭より先に体が動くタイプだったが、その時は一段と頭が働かなかったせいか、カナミが正気を取り戻すときには、そこは既に椅子の上だった。
両手には、痛たまじく輪っかに結ばれた、丈夫そうなロープがしっかりと握られていた。
ハッと目を見開き、状況を理解するのに時間がかかった。
だか、決して廊ロープは離さず、フラフラする足に力を入れて椅子の上にたった。
自分が今しようとしていることを理解したカナミは震えが止まらず、涙も溢れていた。
フッと力が抜け、盛大に椅子から転げ落ちた。
頭をを打ってしまったようで、少しジンジンと痛む。
くすんだカナミの目に映っのは、左右に揺れるロープと横に倒れた椅子だった。
カナミはもう、動く気力がなく、そのまま埃だらけの床に寝そべった。
何時までそうしていただろうか。
カーテンの隙間から見える空は淡いオレンジと紫色に染まっていた。
ピンポーン
カナミの住んでいるアパートの小さいチャイムがなる。
すぐに起き上がり出ようと思ったが、体が言うことを聞かず、力が入らない。
もう、どうでも良くなり、そのまま目をつぶる。
しばらくすると、 カチャッ という控えめなドアを開ける音が聞こえてきた。
トタトタ、と小さい足音が聞こえたかと思うと、すぐ横に人の気配を感じカナミは重い瞼を開けた。
「かなみちゃん、今日の宿題!」
しゃがんで、カナミのことをのぞき込むようにしていたのは、カナミの親友のユアだった。
何が面白いのか、穏やかな笑みを浮かべ、何が面白いのか、ぱっちりとした目を細めてニッコリと笑っていた。
「おはよ」
カナミも声を振り絞る。
「やだなぁ、もう夕方でっせ!」
ユアがふざけたように、頬をふくらませる。
「カナミちゃん、おにぎり作ってきたの!一緒に食べよ!」
「うん!」
誰しも心を許せる相手は必ずいる。
だか、相手も同じだとは限らないものだ。
彼女から送られてくる笑顔は、本当か、嘘か、はたまた同情から来るものか、好意から来るものか。
分からない方がいいことは、時にはあるものだ。
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