テラーノベル
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けい
797
夜のオフィスは、静まり返っていた
他のメンバーやスタッフはとっくに帰宅し、残っているのは須貝だけだった
デスクの上のパソコンには、書きかけの企画書が開いたままになっている
けれど、須貝の目はもう何十分もそこを捉えていなかった
机の下、膝の上で握りしめたスマートフォンの画面
青白い光が、じっとりと冷や汗をにじませた須貝の顔を不気味に照らしている
頭が割れるように痛い
熱のせいで視界がぐにゃりと歪んでいる
なのに、画面をスクロールする親指だけが、生き物のようにせわしなく動き続けていた
『須貝、クイズ下手なのに声だけデカくて不快』
『最近のQuizKnock、須貝のノリについていけないわ。老害化してない?』
『まじで動画に出ないでほしい。いるだけで再生ボタン押すの躊躇う』
須貝(やめろ。もう見るな。画面を閉じろ)
頭の中で、理性が必死に叫んでいる
しかし、指は止まらない
叩かれている自分、否定されている自分を確認せずにはいられない
まるで、自傷行為のようにスクロールを繰り返す
いつもなら「いろんな意見がある」と笑い飛ばせるはずだった
自分はQuizKnockの「ナイスガイ」で、場を盛り上げるのが役割のはずだった
けれど、風邪で弱り切った心に、剥き出しの悪意は毒のようにじわじわと回っていく
須貝「う、ッ……」
突然、激しい吐き気が胃の底からせり上がってきた
頭痛と、画面を凝視し続けたことによる目眩、そして精神的なストレスが限界を迎えたのだ
須貝はスマートフォンを床に落とし、口元を押さえて立ち上がった
視界が激しく回転する中、壁に手を突き、ふらつく足取りで廊下のトイレへと駆け込んだ
個室に飛び込み、便器の前に崩れ落ちる
「ゲホッ、ぅ、ぐ……ッ、は、ぁ゛ッ……!」
胃の中のものが、容赦なく逆流してくる
まともな食事を摂っていなかったため、出てくるのは苦い胃液ばかりだった
喉を焼くような痛みに涙が溢れ、鼻の奥がツンとツラい
便器の縁を掴む両手が、ガタガタと 尋常じゃない血色の悪さで震えていた
「はぁ゛、ッ、げほッ……ぅ、あ゛……」
苦しい
息がうまくできない
熱い涙がボロボロと溢れて便器に落ちていく
体の苦しさよりも、胸の奥の、誰にも言えない痛みが限界だった
「なんでいるの?」「いらない」という画面の文字が、暗い視界の裏に張り付いて離れない
その時、静かなトイレのドアが、バタンと勢いよく開く音がした
「須貝さん!?」
「須貝さん、どこですか!?」
聞き覚えのある、少し高めの焦った声
東問と東言の声だった
忘れ物でも取りに戻ってきたのだろうか
須貝はハッとして、個室の中で息を潜めようとした
こんな惨めな姿、絶対に誰にも見られたくない
特に、自分を慕ってくれている後輩たちにだけは
しかし、荒い呼吸を完全に隠すことはできなかった
すぐに個室の扉の前で足音が止まる
問「須貝さん、開けてください! オフィスに鞄置いたまま、スマホだけ床に落ちてて……」
言「問、いいから開けるよ」
ガチャリ、と鍵が外から強引に開けられた
オフィスのトイレの構造を熟知している二人が、非常用のスリットをコインか何かで回したのだ
扉が開くと同時に、便器の前に丸まって激しく肩を上下させている須貝の姿が、二人の目に飛び込んできた
「「須貝さん……っ!?」」
問と言の顔が、一瞬で恐怖に強張った
言がすぐに須貝の横にしゃがみ込み、激しく震える背中に手を当てる
言「大丈夫ですか!? 吐き気? どこが痛いですか……!」
須貝「ちが……ッ、な、でもッ、ない……ただ、の、風邪……ッ」
須貝は必死に顔を背け、袖で涙と口元を拭った
いつもの「ナイスガイ」の笑顔を作ろうとしたが、引き攣った笑みしか浮かばない
須貝「ほら、ッ!二人、とも、ッ帰れよ、……俺は、ちょっと休、めば……ッ」
問「何がなんでもないですか!!」
問が、見たこともないような激しい剣幕で声を荒らげた
いつも冷静な問の目が、怒りと大粒の涙で潤んでいる
問「スマホ、床に落ちてたやつ、画面が点いたままだったんですよ!? 酷い悪口ばっかり並んだ画面が!!」
須貝の身体が、ビクリと硬直した
問「さっきからずっと、あの画面見てたんでしょう!? 体調悪いのに、気持ち悪くなるまでずっと!!」
言が、須貝の肩を掴んで自分の方を向かせた
その手の力は、驚くほど強くて、そして温かかった
言「なんで隠すんですか……僕たちに、何で一言も言ってくれないんですか。そんなに頼りないですか? 僕たちは、ただの仕事の付き合いなんですか?」
双子からの、容赦のない、だけど切実な問い詰め
隠し通せると思っていた強がりのメッキが、音を立てて剥がれ落ちていく
須貝「……ッ、う、ぁ……」
須貝の視界が、一気に涙で遮られた
喉の奥から、押し殺していた感情が、嗚咽となって漏れ出す
須貝「……だ、て……ッ、言うわけッ、いかないだろ……ッ!!」
須貝はついに、子供のように声を上げて泣き崩れた
床に両手を突き、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、胸の奥のドロドロとした本音を吐き出した
須貝「俺はッ、先輩、なんだよッ、……! いっつも明るくて、平気な、顔してッ、!みんなを、引っ張らなきゃいけないんだよ…! なのに、…なのに、!なんでいるのって、いらないって、毎日毎日書かれてッ、……!動画に出るのが、カメラの前に立つのがッ、!本当は怖くてたまんねえんだよ…!!」
頭が痛い
胸が苦しくて張り裂けそうだった
須貝「エゴサなんて、やめたかった、!! 見たら気持ち悪くなるの、ッなんて、分かってる、分かってるんだよ……ッ! でも、やめられないんだよ……! 誰かに、『お前は必要だ』って言ってほしくてッ、!でも、探しても探してもッ、見つかるのは悪口ばっかで……ッ! もう、どうしたらいいか分かんねえんだよ……ッ!!」
壁に頭を押し付け、声を震わせて泣きじゃくる須貝
その背中を、言は何も言わずに強く、強く抱きしめた
問もまた、須貝の横にひざまずき、震える手を包み込むように握りしめた
問「……すみません。詰め寄るようなこと言って、ごめんなさい」
問の涙声が、須貝の耳に届く
問「苦しかったんですね。一人で、ずっと耐えてたんですね。気づけなくて、本当にごめんなさい……」
言「須貝さん」
言が、須貝の耳元で静かに、だけど確信に満ちた声で語りかけた
言「あの画面の向こうにいる奴らは、須貝さんの何を知ってるんですか。何も知らないです。須貝さんがどれだけ僕たちを支えてくれてるか、どれだけQuizKnockに必要か、1ミリも分かってない」
言は、抱きしめる力をさらに強めた
言「でも、僕たちは知ってます。須貝さんが楽しそうにクイズしてる姿を見て、ここに来たんです。須貝さんがいないQuizKnockなんて、僕たちは絶対に嫌です。だから……あんな知らない奴らの言葉じゃなくて、目の前にいる僕たちの言葉を信じてください」
問「そうですよ」
問が、須貝の手をぎゅっと握り直す
問「もう『ナイスガイ』のフリなんてしなくていいです。僕たちの前では、ただの弱った先輩でいてください。全部、僕たちが受け止めますから」
二人の、真っ直ぐで温かい言葉が、須貝の耳から、冷え切った心の奥底へと染み渡っていく
ネットの冷たい悪意に侵されていた頭の中が、二人の体温で上書きされていくようだった
須貝「もぉ、ごぉッ……う、ッぁ、ああぁ゛…….ッ」
須貝は二人の肩に顔を埋め、さらに声を上げて泣いた
それは、傷ついた心の痛みの涙であり、同時に、ようやく救われた安心の涙だった
それからしばらくして、須貝の嗚咽が小さくなり、ただの荒い吐息に変わるまで、二人はずっと須貝を抱きしめ、支え続けた
言「……少し、落ち着きましたか?」
言が優しく声をかけ、ポケットから取り出したティッシュで須貝の顔を拭う
須貝「……おう……みっともないところ見せて、ごめん」
問「みっともなくないです」
問がすかさず否定し、小さなボトルを差し出した
問「ほら、うがいしてください。それから、オフィスのソファに移動しましょう。ポカリとゼリー、今から買ってきますから」
須貝は指示されるがままにうがいをし、二人に左右から肩を支えられながら、ゆっくりとトイレを出た
スマホのない両手は軽くて、でも少し心細かったけれど、隣にいる双子の温もりが、それを十分に埋めてくれていた
オフィスのソファに横たわると、言がすぐに自分の上着を須貝の体にかけてくれた
言「スマホは僕が預かります。一回アプリも消しますからね。元気になって、僕たちが『もう見てもいいよ』って言うまで没収です」
須貝「……あぁ、頼むわ。もう、見たくない……」
須貝は力なく微笑み、ゆっくりと目を閉じた。額に貼られた冷えピタの冷たさと、優しく見守ってくれる二人の気配を感じながら、須貝はずっと遠ざかっていた、穏やかな眠りへと落ちていった
コメント
6件
えっへー🫵🫵🫵 えっぐい好きすぎる、やばい(やばい) ヤヴァイ兵長出てくるってマジで() マジでありがとうございます、これしか言えない んで?次は?何?うんうん、きっとそうだよねうんうん、そうでしょ?そうだよね、待ってるね😆

うへっ、うへへへへっへへへ(((殴 お兄ちゃん組を弱らせるのって楽しいですねグヘヘ(((殴 ビースト組が大好き×お兄ちゃんの体調不良大好き=須貝サマ体調不良で双子が看病が好き ここテストでるよ(?) いやマジで本当に須貝サマって余計に隠しそうだもん体調不良 自分に「俺は最年長だから、ナイスガイだから、!大丈夫、大丈夫...」みたいに言い聞かせててほしい(いや別にアンチがいいとは思わないけど乱れてる推しって尊いから...) そしていつかそれで抑え込むことができないくらいまでストレスが溜まって...泣きじゃくって...末っ子達にお世話されててくれ... というかマジでこんな優良物件(おい)をクイズノックに入れてくれてありがとう田村サマ さてまぁお兄ちゃん組にはもちろん田村サマも入ってるので...もう次回の内容分かっちゃったね☆ 下におまけでも置いとこうかな(?) 後日、須貝サマのスマホを管理する『須貝SNS監視委員会』が双子の間で結成され、須貝サマが少しでも画面を凝視していると、左右から凄まじいプレッシャーの視線が飛んでくるようになったとか、ならなかったとか
うわあ……第2話でここまで来るか、って感じだわ。普段あんなに明るい須貝さんが、風邪で弱ってるところに悪意あるエゴサを自傷みたいにスクロールし続ける描写、めちゃくちゃ胸に刺さった。「ナイスガイ」の仮面を剥がして泣き叫ぶシーンと、それを受け止める問と言の温かさが対照的で、読んでるこっちまで救われた気持ちになった。スマホ没収して「もう見てもいいよって言うまで」って言のセリフ、最高すぎるわ。二人の存在が須貝さんにとってどれだけ大きいか、静かに伝わってくる名シーンだった🔥