君らはいじめの定義ってなんだと思う?
学校の先生が言うには、相手が嫌だと思ったらいじめになるんだって。
…じゃあ、何されても嫌だって言わなかったら、どうなるんだろうね?
まあ、そんなことするやつなんていないと思うけど。
「…っはよざいま〜す」
あまり上手く回らない滑舌で、誰にも聞かれない挨拶をする。
こんな生活を続けて、もう高校を卒業しかけていることに俺は自分で心底驚いている。
そして友達の数にも。
まあ、そこは察してくれ。
「あ、陰キャじゃん!ごめんごめん、影薄くって気付かなかったわ!」
「まあぶつかられたことも気付いてないだろw」
「確かにw じゃあ謝る意味ねーなw」
学校って何のためにあるんだろうね。
特に義務教育制度に疑問を持ってる訳じゃないし、家にいても暇だから来てるけど正直めんどくさい。
俺は平穏な日常が過ごせればそれで良いんだけどな。
「らっだぁっ!」
「わ゛あ゛っ!!?」
突然背後から飛びかかられて、思わずホラゲ並みの叫びが飛び出した。
「うるさっ…w 耳キーンなったわ、どっから声出てんねん…」
そう言って顔をしかめながらもニパッと笑いかけてくる犯人。
「ごめんってゾム…いつものことだから許してくれよw てかそっちが驚かしてきたのが悪いだろ!」
「それはせやなw」
緑のパーカーを着た、フードで顔のよく見えないそいつは俺の幼馴染であり数少ない友達だ。
「今日そっち1限目何?」
「…数学Ⅰ」
「お疲れw 俺化学ー」
「あー今すぐクラス替えさせてくれへんかなぁ〜」
「顔が笑ってないって。てか俺その後現国だけどいいの?」
「いやぁ〜数学最高やなぁ〜!」
「手のひらドリルすぎだろw まあ俺も化学は先生優しいから好きだけど内容はめんどい」
「いやホンマになw」
適当な会話をしながら靴を履き替えて、教室まで歩いていく。
「ゾム先輩〜!」
「おはようございま〜す!」
「今日もイケメン〜♡」
俺とゾムは別クラスだから、いつも会話は教室の前まで。
「…お前こういうのめんどくさくないの?」
「めんどいけどこいつらが寄ってくんねん…てからっでぃもそのマスク取って前髪上げればええのに」
「俺は平穏な日常が送れたら良いのー」
「俺もそんな日常が送れたらええねんけどなぁw」
それだけ。
「じゃ、また後で」
「ん、じゃあな〜」
いつも通り。
からっと小さな音を立てて、少し古びた引き戸を開ける。
来客用のスリッパを床に擦りながら、すっと自分の席に座る。
誰のものともわからない、無数の机の中身を掻き出してゴミ箱に捨てた。
「あれ、掃除してるんだ陰キャくんw」
「偉〜w」
「毎朝お疲れ様ーw」
これも、
いつも通り。
「…早く放課後にならんかな」
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