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「……い、いいんですか? 私なんかと」
返事をするまでに少し間があった。咲はノートを閉じながら、心臓の鼓動がうるさいほど耳に響いていた。
悠真はわざと軽い調子で笑った。
「妹ちゃんって、考えすぎ。……俺が行きたいんだよ」
(……“俺が”行きたいって)
その言葉だけが、胸の奥に温かく残る。
「じゃあ……少しだけ、はい」
咲は小さく頷いた。
「決まりな。コート、ちゃんと着てこいよ。外、結構冷えるから」
そう言って、悠真は自分のマフラーを手に取った。
窓の外には、冬の薄い夕陽。
まだ行き先も分からないけれど、咲は確かに“特別な時間”が始まる予感を抱いていた。