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kaede🍁
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阿部に連れられ、目黒は大きな門の前までやって来た。
その横には、小さな受付のような場所がある。
「ここ?」
「うん。死後の行き先を管理してる番人さんのところ。」
「……死神になるのに面接あるんだ。」
「あるよ。一応仕事だから。」
阿部が慣れた様子で扉を開けた。
「こんにちは。」
「ああ、阿部さん。お疲れ様です」
奥にいた番人は阿部を見ると笑顔になった。
しかし、その後ろにいる目黒を見て首を傾げる。
「そちらは?」
「……俺の恋人です。」
「なるほど」
番人は目黒の前に一冊の分厚い本を出した。
そこには、目黒の生まれてから死ぬまでの経歴がびっしりと書かれていた。
「目黒さん……なるほど。自ら命を絶たれたんですね」
「……はい。」
阿部が少し悲しそうに俯く。
番人はページを読みながら続けた。
「自死の場合、転生まで通常より長い時間を要します。ただ、転生できないわけではありません」
「だから、今からでも転生を選ぶことはできますよ」
「俺は死神になります。」
即答だった。
「めめ……。」
「決めたから。」
番人は二人を交互に見て、小さく笑った。
「では、まず死神の仕事について説明しましょう。」
「死神の基本的な仕事は、寿命を迎えた人の命を刈り取り、その魂をこちら側へ導くことです」
「悪いことをした人は?」
「生前の行いによっては地獄へ送ります。ただし、それは一部です。死神の仕事は基本的に、亡くなった方を天国へ誘うことだと思ってください」
目黒は真剣に聞いていた。
「ただ。」
「寿命を迎えたからといって、全員が素直に死を受け入れられるわけではありません」
家族と離れたくない人。
まだやりたいことが残っている人。
自分が死んだことさえ認められない人。
「そういう魂を説得するのも、死神の大切な仕事です」
「説得できなかったら?」
「この世に残ります。」
目黒が黙る。
「彷徨う魂……いわゆる幽霊ですね。」
番人は寂しそうに笑った。
「何年も家族のそばを離れられない人もいます。自分が死んだことを理解できないまま彷徨っている人を見るのは……何度経験しても悲しいものです」
目黒は隣の阿部を見る。
阿部は何も言わなかった。
きっと。
何度も見てきたのだろう。
「ですから。」
番人は目黒を見る。
「死神になりたいと自分から希望する方なんて、滅多にいません。」
「……。」
「正直、驚いています。」
「それでもなりたいです。」
やはり。
目黒は迷わなかった。
番人は困ったように息を吐いた。
「まあ……阿部さんの頼みでは、なかなか断れませんけどね。」
「え?」
目黒が阿部を見る。
阿部は気まずそうに目を逸らした。
「阿部さん、こちらではかなり有名ですよ。」
「……あべちゃんが?」
「ちょっと、番人さん。」
阿部が止めようとする。
しかし遅かった。
「阿部さんが来る前の死神業界は、それはもう大変でした。」
人手不足。
新人教育はほとんどない。
担当する魂の数は多すぎる。
休みもまともに取れない。
「完全にパンク寸前でした。」
番人が阿部を指す。
「それをこの人が全部変えました。」
「……。」
目黒がゆっくり阿部を見る。
「あべちゃん?」
「……ちょっと改善しただけだよ。」
「ちょっとではありません。」
番人が即座に否定する。
担当区域を整理。
シフト制を導入。
新人研修を整備。
死神ごとの得意分野を考慮した担当制。
さらに、説得が難しい魂を一人で抱え込まないための応援制度まで作った。
「結果、残業は大幅に減少。死神たちの負担が激減しました。」
目黒は隣を見る。
「……あべちゃん、何してんの?」
「だって、みんな大変そうだったから。」
「死後の世界で仕事改善してるの?」
「気になっちゃって……。」
阿部は少し恥ずかしそうに俯いた。
番人は楽しそうに笑う。
「今では新人研修を阿部さんが担当しています。」
番人は目黒へ一枚の書類を差し出した。
「阿部さんの助手になるのであれば、阿部さん次第で採用にします。」
「本当ですか?」
「はい。」
そして阿部を見る。
「どうします、阿部さん?」
「……。」
阿部は目黒を見る。
目黒もじっと見つめ返す。
「あべちゃん。」
「何?」
「採用してください。」
「……。」
「何でもします。」
「その言い方やめて。」
「ずっと一緒に働きます。」
「それも重いなぁ……。」
そう言いながら。
阿部は少し嬉しそうだった。
「……採用。」
目黒の顔が明るくなる。
「本当?」
「うん。」
「やった。」
「ただし。」
阿部が人差し指を立てる。
「俺の助手だからって特別扱いしないからね。」
「はい。」
「研修も全部受けてもらう。」
「はい。」
「命を扱う仕事だから、真面目に。」
「はい、先輩。」
「……なんか腹立つ。」
番人が笑った。
___________
「では決まりですね。」
番人は新しい書類を取り出した。
「目黒さんは、まず阿部さんが担当している新人研修に参加してください。」
「はい。」
「研修を受けながら、阿部さんの助手として実務も覚えていただきます。」
目黒は隣の阿部を見る。
「あべちゃんが先生?」
「そうなるね。」
目黒が笑う。
「あべちゃんと一緒にいられるなら頑張る。」
阿部は少し困ったように笑った。
生きていた頃。
二人は同じ家へ帰ることが幸せだった。
そして今度は。
同じ職場へ向かうことになる。
死神と。
その助手。
番人は二人の書類を整理しながら、ふと呟いた。
「しかし……阿部さんの助手ですか。」
「何ですか?」
「忙しいですよ。」
目黒は迷わず答えた。
「大丈夫です。」
「めめ。」
「何?」
「俺、残業禁止にした本人だから残業しないよ。」
「……。」
「ちゃんと定時で一緒に帰ろ。」
目黒は一瞬黙って。
嬉しそうに笑った。
「うん。」
生前には途中で終わってしまった。
二人で家へ帰る毎日。
それを今度は。
死後の世界で、もう一度始めることになった。
コメント
1件
みらさん、今回も素敵なエピソードをありがとうございます🌷 阿部ちゃん、まさか死後の世界で働き方改革してたんですね(笑)。「気になっちゃって…」って照れるところ、生前と変わらない優しさが滲んでいて、すごく好きなシーンでした。 面接で即答した目黒くんの「俺は死神になります」——迷いのなさに、阿部ちゃんへの想いの強さが詰まってるなって感じました。そして「残業禁止にした本人だから残業しないよ」って言う阿部ちゃんに「ちゃんと定時で一緒に帰ろ」って返せる関係性が、もう尊すぎて…。 「二人で家へ帰る毎日」を、もう一度始める——この一文に、全てが詰まってる気がします。続きが楽しみです🤍