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「……ん」

朝、目が覚めた瞬間、頭がぼーっとする。

熱っぽくて、身体が重くて、のどの奥がひりつく。


キッチンの方から、ガチャガチャという食器の音が聞こえる。


「悠? 起きた?」


「……んー」


 


伊織がドアを開けて、すぐベッドにやってきた。


「顔、真っ赤。熱あるだろ、これ。……なんか食える?」


「食べたくない。頭いたいし、気持ち悪い」


「……水持ってくるわ。あと冷えピタ」


「うん……」


 


いつの間にか、

こうやって優しくされるのが当たり前になっていた。

伊織が自分の生活の中に、しれっと溶け込んでるのに気づく。


(……あれ。俺たちって、セフレじゃなかったっけ)


 


リビングから戻ってきた伊織が、水と薬と冷えピタを持ってきてくれる。

髪を撫でる手も、額にそっと貼る手も、あたたかい。


「今日はちゃんと寝ろよ。ゲームも禁止な」


「うん。……ありがと」


「……素直じゃん」


「体調悪いときくらい、素直になるでしょ」


 


そう言って、悠はまた目を閉じた。

ふわふわと、頭の奥が甘くなるような感覚がする。


 


──夜。


薄暗い部屋、微熱は少しだけ下がってきた。

ベッドの反対側にいる伊織の背中が見える。


呼びかけるのも面倒で、

悠はゆっくりと、伊織の背中に腕を回した。


 


「……ん? どうした」


「……べつに」


「熱ぶり返した?」


「……ちがう。なんか、さみしくなった」


 


伊織が寝返りを打って、悠を見下ろす。


「……したいの?」


「…わかんない。でも……伊織に触られたいかも」


「……そっか」


 


伊織の手が、優しく悠の髪を撫でる。


「無理すんなよ。ゆっくりでいいから」


「うん……」


 


服の上から、やわらかく撫でる手。

熱の残る身体が、伊織のぬくもりでさらに火照っていく。


「ん……ふ、あ……っ」


「気持ちいい?」


「……うん。……やさしいの、好き」


 


やがて伊織が、ゆっくりと身体を重ねる。

普段みたいな激しさはない。

抱きしめるように、じっくり奥を貫いてくる。


 


「っ、ん……伊織、だいす……じゃなくて、気持ち、いい……」


「……かわいい」


「かわいくない……っ、でも……こういうの、伊織がいい」


 


腰をゆっくり打ちつけられながら、

悠は自分が今、なにを求めてるのかもよく分からないまま、

ただそのやさしさに浸っていた。


 


(伊織に甘えたい。触られたい。いっぱい感じたい)


(でも──これって、なんだっけ。俺、なに考えてんだろ)


(セフレなのに……俺、壊れてきてる……)


 


身体は甘い快感で揺れながら、

胸の奥がきゅっと、苦しく締めつけられていた。

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