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頭が重い。

微かに吐き気もあったし、起き上がる気力すらなかった。

無理やり目を開けて、体を起こす。

見知らぬ部屋。

モデルルームのように片付けられていて、俺一人だと嫌に広く見えるほど大きな部屋だった。

(ここは……何処だ?)

まだぼんやりとしている脳内の記憶を探る。

(確か、あの後知らない男に気絶させられて……)


『君の、兄だよ』


あの言葉が繰り返される。

あいつが俺の兄?何を言ってるんだ。

きっと、人違いだろう。

俺は自分を納得させるように考えて、俺自身が寝ていたベットから体を起こした。

窓も、時計もない部屋だ。

所持品は何処かに持っていかれたみたいだし、服もラフなTシャツと短パンだけだ。

(誘拐、……かもな)

でも、身代金目的でも俺の家はそれほど裕福な家庭じゃないし、そもそもあいつが言ったことも気になる。

部屋を見回すと、俺が今いるのがリビングルーム、多分外に出るための扉、トイレ、浴室もある。

身代金目的の犯罪者がこんな部屋を用意できるか?

俺は試しに外に出る扉のドアノブを回してみた。

しかし、それは途中で止まってしまい、開かなかった。

一応ここから出すつもりは無さそうだ。

外に出る手がかりを探して部屋の中を歩き回っていると、扉の外から音がした。

「!」

俺をさらった犯人かもしれない。

息を潜めていると、扉がゆっくりと開いた。


「やぁ。気分はどう?湊」


あいつだ。

俺を、気絶させた奴。

初対面のくせに、馴れ馴れしく話しかけてくるそいつは、にこにこと笑顔を浮かべていた。

「お前…、誰?」

「やだなぁ。何言ってんだよ。俺はお前の兄ちゃんだぜ?」

「はァ?」

話が通じない。

勿論、こいつとは初対面だし、兄弟でもない。

俺の兄は、白城叶だけだ。

「いや…、俺はお前の弟じゃねぇし。俺の兄は白城叶だって」


「湊?」


ゾッとした。

触れてはいけないことに触れたかのような。

そいつは、口元の笑みは消していなかったが、目は笑っていなかった。

「湊。叶って誰だ?お前の兄ちゃんは、俺だろ?お前は黒瀬湊で、俺は黒瀬悠斗。実の兄弟だ」

「……」

逆らってはいけない。

洗脳するかのようにそいつは、悠斗は、俺の瞳を覗き込んだ。

「そう、だ、な」

俺は精一杯、目をそらしながら答えた。

すると、人が変わったかのように悠斗はまた笑顔になった。


「だよなぁ。湊は生まれたときから、俺の弟だもんなぁ」


その言葉は、俺の耳に嫌に響いて消えなかった。

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