「湊はリンゴが好きだったよな?リンゴ買ってきたから、一緒に食べようぜ」
「い、いらない」
「え~?どうしたんだよ。腹減ってないのか?」
当たり前のように首を傾げる悠斗。
俺の好物を知っているのも、おかしい。
「…なぁ。ここって何処?」
「お前の部屋だよ」
「違う。ここは俺の部屋じゃない」
「あれ。湊はここ、気に入らなかった?洋室じゃなくて和室とかがいい?
俺、湊のためなら何だってするからさ」
「じゃあ、ここから出してよ」
俺は縋るように言った。
でも、悠斗は首を横に振った。
「だーめ。湊の頼みでも、それはできない」
「……何で」
「だって、湊は俺だけの弟だからさ。他の人間と話すのも、関わるのも許さない」
狂ってる。
悠斗は俺を本当の弟だと思っているらしいし、俺を本気でここに監禁するつもりだ。
今が何時かも分からないこの部屋で、俺は決心した。
(…絶対に、ここから逃げ出してやる)
逃げる手段はあの扉しかない。
鍵は外側からしか開かないし、その鍵も悠斗が持っている。
外に出ること以外ならば、悠斗は俺の頼みをほとんど聞いてくれる。
俺はふと、家で見たバラエティー番組を思い出した。
(確か、針金一本で鍵って開けられるんだっけ?)
部屋を見回しても、針金は見当たらない。
(…これで代用できるかもしれない)
俺はふと、電気コードをまとめてあるスチール製のソフトワイヤーを手に取った。
細くて、針金に似たような素材だし、頑張ったらいけるかもしれない。
俺はギュッとソフトワイヤーを握りしめた。
「今日さ、仕事の都合で昼と夜は帰ってこれなさそうなんだ」
「…!」
「ここに昼ご飯と晩ご飯の材料置いておくから、自分で作れる?」
「あ、ああ」
やっと来た。チャンス到来だ。
今まで、ずっと待っていた。
下らない兄弟ごっこに耐えて、俺はやっとこの日を迎えれた。
嬉しさで表情が緩まないようにしながら、俺は「行ってらっしゃい」と悠斗を見送った。
少しして、そっとソフトワイヤーを鍵穴に入れる。
しばらくカチャカチャやっていたら、「カチリ」と軽い音がした。
俺は駆け出した。
自由だ、自由だ、自由だ!
俺は久々に見た太陽に目を細め、大きく伸びをした。
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