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時は四月にさかのぼる。高校二年生に進級して最初の登校日のことである。ホームルームが始まるまでの時間を潰すために机に突っ伏していた僕は、自分の名前を呼ぶ声を聞いた。顔を上げると、教室の入り口あたりに女子生徒が立っていることに気づいた。「ねえ、ちょっと」彼女は僕に向かって手招きをした。クラスメイトたちの好奇の目に晒されながら廊下に出ると、「あんたさあ……」と言いかけて言葉を切り、僕の顔をじっと見つめてきた。よく見ると目の下にくまができていて、髪にも艶がなかった。全体的に疲れ果てているように見えた。「大丈夫?」思わず訊いた。すると彼女は目を丸くし、「えっ?」と言ったあと吹き出した。しばらく笑い続けた後、「うん、だいじょぶだよ」「そっか」僕は笑えなかった。「それより、どうだった?」「うーん……」首をひねって考え込んだ。「やっぱりわからないよ。どうしてこんなことになったのか……」正直に打ち明けると、彼女はまたくすっと笑って、「だろうねぇ」と言った。そしてこう付け加えた。「でも私にとってはラッキーかなぁ」そのときチャイムが鳴ったため会話を打ち切ってそれぞれの席に戻り、授業を受けた。一限目は英語の授業で、先生が教科書を読み始めたところで急に眠気に襲われた。そのまま眠りに落ちていったらしく、気づいたときには放課後になっていた。隣の席では彼女が寝息を立てていた。起こさないよう注意しながら荷物をまとめ、静かに立ち上がった。教室を出るときに後ろを振り返ると、彼女はまだ眠っていて、その姿を見届けてから階段を下っていった。下駄箱に着いたときふと思い立って携帯電話を取り出してみると、メールが一件届いていた。差出人は彼女であることがわかった。『今日はごめんなさい』という件名の下に、『私のこと嫌いになった?』と書かれていた。『気にしないでください』とだけ返信して靴を履き替えた。校門を出たあたりで空を見ると曇り始めていて、傘を持ってこなかったことを後悔したが、走って帰ることに決めて走り出した。走っているうちに雨粒が落ちてきて、すぐに本降りとなった。鞄を前に抱えながら走っていくと前方に人影が見えてきた。その人物は僕を見つけるなり声をかけてきたが、僕は無視することにした。しかし相手はそれを許さず僕の肩を掴んだ。仕方なく振り返るとそこには彼女と見知らぬ男が立っていた。男は僕の方を見てニヤリとした後、彼女の方に向き直って言った。「おい、俺の女に手ぇ出してんじゃねえぞ!」彼は怒っている様子だったが、僕は彼女に対して特別な感情など持っていなかったので全く怖くなかった。むしろ彼女が男と一緒にいるということの方がショックだった。彼女は男の手を払い除けた後、「うるさい! 黙れクズが」と言って去って行った。僕はどうすればいいかわからずその場に突っ立っていることしかできなかった。すると後ろから笑い声が聞こえたので振り向くと、さっきの男ではなく彼女が笑っていたのだ。「ふっ……あははははは!!」そしてひとしきり笑うとまた去っていった。結局あの人はなんだったんだろうか。よくわからないまま家に帰り、部屋に入った瞬間にベッドに飛び込んだ。そのまま眠ってしまい、目を覚ますと朝になっていた。今日は特に予定もないため一日ゆっくりできると思いながら階段を降りていくと、母さんが僕を呼び止めた。なんでも父さんの知り合いが来るらしいのだが、その人の連れとして僕の友達を連れてくるそうだ。正直嫌なのだがそのことは言えないため渋々了承することにした。その後朝食を食べ終えるとすぐにチャイムが鳴った。ドアを開けると見慣れぬ二人の男女がいた。二人は自己紹介をしたが全く覚えていなかった。そもそも僕には友人と呼べる人がいないのだから当然と言えば当然である。二人と話している間中ずっと気まずかったがなんとか会話を続けることができた。それから昼食を食べることになり三人で食卓を囲むことになった。食事中もほとんど喋らなかったため味なんてしなかった。食べ終わるとすぐ解散になったので助かったと思った。しかしまだ終わっていなかったようで帰る前に連絡先を交換するよう言われた。断ろうと思っていたのだが何故か交換してしまった。何故だろう。その後ようやく帰宅することができた。疲れてしまったので再び寝ることにした。起きたら夜になっており夕食の時間となっていた。リビングに入るとすでに全員揃っていたので急いで席についた。その時初めて気づいたのだが母さんの隣に座っている女性が昨日一緒に来た人だったのだ。僕は驚いてしまいつい変な態度を取ってしまった。その後は普通に接することができていたが内心では動揺していた。
翌日になるといつも通り学校へ登校した。教室へ入ると自分の机の上に花瓶が置かれていた。一瞬理解できず呆然としていたが思い出すと自然と納得できた。昨日のことがバレたのだと悟ったが特に焦りはなかった。
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