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「海!四季君!」
地下に潜り、守達と合流すると守に泣きながら抱き締められた。
「ねえ、さん」
「マモ先!?」
動揺している海と四季の肩に顔を埋めて「よかった」と呟いている。
守に簡単に何があったのかを聞くと、四季が皇后崎に「すげーじゃん!」と声をかけた。
それには何故か桃華が得意気にしており、仁王立ちをして言った。
「うん。じんくん、かっこよかった!」
ほわほわとした彼らの空気とは裏腹に、練馬支部の隊員達はコソコソと陰口を叩いていた。
その空気に喝を入れるように守が手を叩いた。
その顔はいつも通りにこにこと笑っているが、どこか苛立ちを含んでいる。
「とりあえず、馨さんから話があるから聞いてね」
「部屋を準備したから、そこで休んでね」
「明日早朝に出る。今は体を休めろ」
それぞれ部屋を割り当てられ、消灯する。 少し経つと、誰かが部屋から出てきた。 その後を追ってかもう一人が外に出てくる。
「皇后崎君、どうしたの?」
皇后崎は答えない。
守は皇后崎の肩を軽く叩き、「俺も一緒に行っていい?」と尋ねた。
「俺もさ、あの子がどうなったか…知りたいんだ」
少し頼り無さげに「たはは…」と笑う守に皇后崎は何も言わず歩きだした。
守も少し笑みを浮かべて歩きだす。
夜風は少し冷たく頬を撫で、守は「寒ぅ…」と肩を竦めた。
「ねぇ、シュン」
「…何だ」
「俺、何も出来なくてごめんね。あの時」
信号が変わるのを待つ間、「先生なのにね」と守がポツリと言った。
皇后崎が守の方を見ると、何処か遠いところを見ているような目で信号を見ている。
皇后崎は改めて守のその時の行動を思い起こした。
『…脈はあるね。生きてる』
事故の後、立ち去る間際に生死の確認をしていたこと。
『これ、お姉さんに渡してくれる?お守り』
どこで買っていたのか、お守りを手渡していたこと。
皇后崎には咄嗟には出来なかったことだった。
(多分、こういうところが慕われる理由なんだ)
言ってやる事は無いけれど、静かに隣の副担任から視線を前へ移す。
そうこうしている間に病院に着いたが、もう病院は暗く、面会時間も過ぎている。受付の女性にも「会うことは出来ない」と言われていた。
「どうにか、お願い出来ませんか?」
「ルールだからねぇ…」
「そう、ですか」
どれだけ頼み込んでも無理だと言われるので、守は「行こう」と皇后崎の肩を叩いた。
その様子を見てか、女性は「本当は言っちゃダメだけど…」と声を潜めて二人に言った。
女性が言うには、女の子は検査入院で頭を少し打っただけで命に別状は無いという。
「お姉さんって凄いわよねぇ」
その言葉に、自分の姉が思い出された。
「…はい。姉は、偉大です」
守はただほっとした様子で皇后崎を見ていた。
少し経ち、病院から立ち去ろうとする。 信号を待っていると後ろから声をかけられ、後ろを向くと柄の悪い男達がいた。
付いてきて欲しいらしいが、行く理由はない。
拒むと腕を掴まれる。振りほどこうとしても出来ない。どうすべきか考えていると守が間に立った。
「俺の『弟』に何か?」
そう男の手を掴んで言う姿はどこか姉に似ていた。
守は皇后崎を背中に庇うと手を握って歩きだす。
だが、行く手を阻まれ、スマートフォンの画面を見せられた。
「これ…」
先程お見舞いに行こうとした少女にナイフが突きつけられている。
皇后崎は握られた手を握り返し、守に「付いていきたい」と言った。
守は躊躇っていたが、根気よく説得すると「はぁ」とため息を吐いてから前を見据えて言った。
「…行こうか。シュン」
車に乗せられ、辿り着いたのはキャバクラだった。
店の奥に連れていかれ、ドアの向こうに入れられ、背中合わせに拘束される。
武器を隠させないためか上半身を脱がされて。
コツコツと靴音が聞こえたので音の鳴る方を見ると、白っぽい髪を結び、額の右にタトゥーが小さく入っている男_桃岩深夜が姿を表していた。
「…これはこれは、どういうつもりだ?桃太郎」
「テメェ達の身元は割れてんぞ?神示守、皇后崎迅」
挑発するように言う守に桃岩は唾を吐き、ニヤニヤと嫌な嗤いを浮かべて言った。
「一ノ瀬四季と無陀野は何処にいる?」
それに守は皇后崎に小声で「俺が答えるから」と囁いてから勝ち気に笑って口を開いた。
「そうだとしても、アンタに言う理由は無いよね?」
挑発には挑発で返せ。そんな守の様子に苛立ったのか桃岩は不機嫌そうに拳を作って守の頬を殴ってから標的を皇后崎に移そうとした。
守は噛みつくように「標的は俺だけでいいだろッ!」と怒声を浴びせたが、桃岩は鼻で笑ってから言った。
「あぁ、お望みならそうしてやるよ」
カツラを取ったせいで結ばれず垂れた守の長い黒髪を掴み、上に引っ張る。
守は痛みに一瞬顔を歪めたものの、すぐに平静を装って桃岩を睨み付ける。
桃岩は構わず言葉を続けた。
「桃を裏切り鬼に付いた馬鹿な桃太郎…、桃樫波を父に持つ鬼、神示守さんよぉ」
悪意を十二分に含んだ声音で上機嫌そうに言う桃岩に守はぶちりと血管を切れさせて「うるせえッ!」と叫んだ。
「親父の事を!テメェに言われる筋合いは無ぇんだよッ!」
皇后崎は目を丸くし、ただ呆然と後ろにいる守を見ている。
守は叫んだ後に肩で息をしながらふと皇后崎の様子を見て顔を青ざめさせ、「…ごめんね、隠してて」と呟いた。
その様子に更に機嫌を良くしたのか桃岩は思い出したようにナイフを突きつけられた少女が写ったスマートフォンの画面を守達に見せ、「コイツの運命はお前達次第だぜ?」と言いながら出ていった。
少しの間重い沈黙が流れたが、皇后崎がゆっくりと口を開いた。
「…おい、さっきのって」
「言えない」
皇后崎の言葉を遮って力無く俯いていた守は顔を上げ、先程の雰囲気から一転、いつも通り明るく不完全燃焼気味な皇后崎を見て言った。
「とりあえず、あの女の子は大丈夫だよ。『お守り』渡してたからね」
何でも、あのお守りは守の血液を染み込ませた布が入っており、護衛対象が傷つけられそうになると守ってくれるらしい。
「だから、今は兄貴達が助けてくれるのを待とうよ」
そう言う守はいつもの様にただ明るく、どれ程のものを隠してどれ程のものを背負っているのか、皇后崎には分からなかった。