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「皇后崎と姉さんを探さないんですか?」
海は無陀野と馨に尋ねる。
桃華は前鬼と後鬼と共に今にも走り出しそうだが、手術岾に押さえられていた。
「おねえちゃんとじんくん、さがさないとでしょ?!」
「危ないってば…!」
「いくったらいくの…ッ!」
自分よりも遥かに年上の無陀野達を睨み付け、何とかして拘束を抜けようともがいている。
「確かに、時間経過的に動くべきですね…。戦闘部隊に応援要請しましょう」
「戦闘部隊は動かねぇぞ」
馨が考え込みながら話すと、後ろから声がした。
「久しぶりだなぁ…海、桃華」
声の主は小柄で瞳が大きく、唇に笑みを浮かべている男だった。
桃華も海も驚いて動きを止め、呆けながら言う。
「真澄兄さん」
「ますみにい」
その男_淀川真澄は海と桃華を見て少し目を細めたが、すぐに仕事の顔になって言った。
「書き置きして行ったんだろ?自己責任だ」
「姉さんが死んでしまうかもしれないんだぞ?」
「守も弱くは無ぇ。俺と無陀野で鍛えたからな」
「だが…」
「テメェも分かんだろ。海」
「…」
はくはくと口を開けては閉じを繰り返す海は言い返すことが出来ない。
真澄はそんな海を無視するかのように言葉を続けた。
「勝手な行動する奴は勝手に死ね」
それに四季が反抗したが、真澄は「お前も周りに迷惑かけそうなタイプだな」と一蹴する。
桃華もそれに言い返していたが、真澄は華麗にスルーして無陀野に話しかけた。
「久しぶりだなぁ、無陀野。ただでさえお前が守達以外のガキの子守りするって言うから驚いたのに、あれからまた増えてねぇか?」
「人は変わるな」と付け加えていたが、無陀野はそれに戦闘部隊が動かない理由を訊ねることで返していた。
真澄は少し不服そうにしていたが、 ぴっと指を立て、現状で分かっていることを説明しだした。
「①守と生徒は拉致られた
②一般人の関与
③練馬の桃の仕業じゃねぇ」
「では、姉さん達は一般人に?」
質問する海に「あぁ」と相槌を打って真澄は説明を続ける。
「あいつら拉致ったのは『関東ナッツ連合』っつー半グレ共だ。拐うまでの手口は素人だが、姿の隠し方はおそらく桃が関与してる」
桃華が「戦闘部隊の人、何で動けないの?」と高く手を挙げて真澄達に質問すると、真澄が「馬鹿か?」と答えた。
四季も分からない様子で、「説明してくれよ」と頭を掻きむしっている。
馬鹿と言われた怒りでわなわなと震えながら「ばっ…!」と呟く桃華を嘲笑うように「けっ」と舌打ちをする真澄を宥め、馨は幼い桃華でも分かるように説明を始めた。
「練馬以外の桃が拐ったから、もし助けに行っちゃうと…ここが練馬の桃に攻撃されたらどうなるかな」
優しく問う馨に桃華は「やばい!」と元気よく答え、馨はそれに「正解」と返した。
「助けに行くと当然ここは手薄になっちゃうからね。桃華ちゃんの言う通りやばい。大勢の鬼が死ぬことになってしまうからね」
理解はしても納得は出来ないらしく、桃華は腕を組んで唸っている。
そこに遊摺部は「他の地区の戦闘部隊はどうか」と質問したが、敢えなく却下。「本来守っていた場所はどうなる」と真澄に言い返されていた。
助けを呼べない状況の中、桃華は唇を噛み締めている。
「だが、ここには無陀野がいる。東京都の戦闘部隊でもエリートだった無陀野無人君が」
真澄は「今でも思い出す時があるぜ?」と動かない表情のまま言葉を続けた。
「桃華達守りながら桃太郎100人の血の雨を降らせたあの時のお前を」
それに四季や矢颪が「すげぇ!」などと言っている中で、海と桃華は反応が違った。
当時まだ赤子だった桃華は当然覚えていないので不思議そうにしているが、海はその時の事を鮮明に思いだす事ができたので「あぁ…」と呟いた。
海の脳裏に浮かんでいたのは、真澄と同じ黒地に赤いラインが特徴的な隊服に身を包み、まだ首が座ったばかりの桃華を抱き抱え、海達に返り血を付けまいと自らの血で傘を作っていた兄貴分の姿。
あれがあったから姉は戦闘部隊を志したし、海も覚悟を決めた。
「ま、元エリートか。教員になんかなりやがって」
吐き捨てるように言う真澄に無陀野は「その半グレ共の溜まり場についても調査済みだろ」と何事もなさそうに返す。
真澄は舌打ちをしたが「あとは踏み込むだけ」と答えた。
「何だ、ちゃんとやってんのかよ…。怒っちゃったよ、ゴメン!」
「ますみにい、ちゃんとさがしてくれてたんだ…!」
謝る四季と目を輝かせる桃華。
馨は少し苦笑して言った。
「後先考えず突っ走るのが君達の弱みだね。あと、桃華ちゃんはまだしもシンプルに四季君は頭が足りない」
桃華と四季は、しょげながらその言葉に「ごめんなさい」と返した。
そのやり取りが終わると真澄は戦闘部隊の代わりに無陀野が動くと告げ、馨に「無陀野に付け」と指示を出した。
四季や矢颪は当然それに反抗するが、真澄に言いくるめられている。
海も四季達に加勢するが敢えなく却下され、唇を噛み締める。
その時、無陀野の無機質な声が響いた。
「いや、やらせよう」
「お前も冗談言うようになったのか?」
信じられないと言わんばかりに言い返す真澄に無陀野は言葉を返す。
「うちは普通の学校じゃない。経験を積ませた方が効率的だ」
「経験?知るかよ」
真澄は僅かに苛立ちを滲ませて言葉を続けた。
「妹も殺す気か?」
無陀野はそれに少し表情を動かしたものの、何も言わない。
すると、遊摺部が「索敵ができるから役に立てる」と手を挙げた。
「偵察部隊志望か?」
遊摺部は真澄のその言葉に『正直』に答えた。
「はい、自分の能力に合うかと思って。戦闘能力が無いのでそれくらいしか役に立てないかと思って…」
だが、その言葉は真澄の逆鱗に触れた。
真澄は遊摺部の胸ぐらを掴み、偵察部隊とは何たるかを吐き捨てるように、でも言い聞かせるように言った。
偵察部隊は戦闘部隊よりも『最前線』で戦う部隊。
桃への接触、潜入等も行うため捕まれば「ただ殺される」か「情報を搾り取られ殺される」かの二択である。
元より危険な場所しかない、安全な場所など無い鬼の中でも更に危険な立ち位置。
それが真澄達のいる偵察部隊であった。
「鬼機関は全員命懸けだ。その覚悟、お前らにあんのか?」
真澄は確かめるように真っ直ぐと四季や海達を見据えて尋ねた。
四季達は各々その問いに答えていく。
「すみません…。でも、役に立ちたくて羅刹学園に入りました…!」
「死ぬ覚悟は、出来てます…!」と喉の奥から吐き出すように答える遊摺部。
「つーか、覚悟がなきゃ入学してねーだろ」
身も蓋もないが珍しく正論を言う矢颪。
「カッコ悪い死に方は、したくない」
初恋の人を思い浮かべ、宣言する手術岾。
「愛する人と死ねりゃいいわ」
どこまでも手術岾と共に生きる漣。
「えっと、私は…死ぬのは怖いです…。ただ、やれることをやりたいです」
京都での一件で少しでも自信がついたのか、前向きに答える屏風ヶ浦。
「ぼくだけ、まもられてばっかりはいやだ」
ずっと自分の力を磨き続け、姉と肩を並べて戦った桃華。
「兄さん達のおかげで、私は昔から覚悟は出来ているよ。今はただ、姉さん達を助けたいだけだ」
拳を胸の前で握りしめ、少し微笑んで言う海。
「俺は、死ぬ覚悟は出来てるけど、死なないために成長したい。…だから行かせてくれ」
そして、ただ純粋に、友人と友達の姉を助けたいという心に従って言葉を発する四季。
そして、だめ押しのように無陀野が「鬼機関は人手不足なんだろう?」と真澄に言った。
真澄はため息を吐いた後、再度四季達を見回して「分かったよ」と口を開いた。
「その代わり、ガキだからって言い訳はさせねぇぞ。後、桃華。お前は留守番だ」
「は?」
「お前は戦えない。足手まといだ」
やっと行けると思った矢先、冷水を浴びせられたように桃華が目を丸くした。
桃華の心を表してか、段々と背後の前鬼と後鬼が大きさを増していく。
「ぼくは…たたかえるよ? 」
ひくひくと口の端を痙攣させて真澄に言う。
真澄はそれに「何度も言わせるな」と返した。
「お前はまだ小せぇ。連れていきたくはねぇ」
桃華は「それがなに?!」と真澄の胸ぐらを掴もうとしたが、小さな体では腹の辺りを掴むことしか出来ない。
だが、それでも良かった。この感情をぶつけられれば。
「ぼくを『ちいさい』っていわないでよ!」
海達が止めるが、桃華は言葉を真澄へ突き刺し続ける。
「ぼく、がんばってつよくなって…っ!」
何故_何故いつも僕を置いていくの、と。
「ひていしないでよ…!」
真澄はそこに守の昔の姿を思い出した。
鬼の世界に足を踏み入れて日も浅い少女が、『俺も戦いてえ!』と訓練を続けていたあの時を。
真澄は桃華から視線を外し、観念したように口を開いた。
「…誰かと必ず行動しろ。そうじゃないと許可しねぇ」
桃華はその言葉に海と顔を見合わせ、満面の笑みで真澄に返した。
「はい!たいちょー!」
真澄は桃華の言葉に少し頷くと四季達に着替えるように言った。
全員が着替え終わると、「変装はしないのか」と疑問が飛び出したが「変装する意味がない」と返答する。
「気合い入れろよ」
真澄の確めるような言葉に、全員が揃って答えた。
こんにちは。あるいはこんばんは。作者です。
今回長くなりまくりました。すいません。プラスに考えて受け入れてもらえれば幸いです。
余談ですが、閑話休題のシリーズを投稿しております。そちらも読んでいただけると幸いです。あと、ネタをください。
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これからも読んでいただけたら嬉しいです。
では、また。