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あの日からかなりの時間が経って、久々に「VWI」にログインしてみた。実は「VWI」は一定期間ログインしないとそのデータが失われるというシステムになっている。その期限がもうすぐだったので、何となく俺は、あの世界がどうなっているか確かめてみようと思ったのだ。

「セキ」のログイン履歴は互いに手を繋いだままログアウトしたあの日が最後になっていた。彼も俺を通して誰かを見ていたのだろうか。そのアテが外れたから、やはり俺と同じように急に「知らない人」が怖くなってここに来るのをやめたのだろうか。結局彼にとってもここは「現実」の代替品に過ぎなかったのか。

……それとも、「セキ」なんて本当は存在しなくって、「VWI」が作り出した、俺にとって都合のいい「仮想」だったのかもしれない。


俺はそっと、パソコンのディスプレイに映し出された「セキ」のログイン履歴を指でなぞってみる。不思議な気分だった。顔も名前も知らない誰か。それなのに、あの時間、俺たちは誰よりも親しい存在であったといえた。


でもこうして通信が途切れてしまえば、本当に存在していたかも分からないだなんて。


でもそれは「VWI」にも限らないのだろう。匿名性の高いインターネット社会で、俺たちは簡単に見ず知らずの人間とつながり、その関係は簡単にリセットできてしまう希薄なものだ。こうしてログインをやめてしまえば、もう二度と同じ時間を共有することなんてなくなって、いつかその存在も忘れていく。

もしかしたらそれは、俺にとっては現実でもあまり変わりは無いのかもしれない。たくさんの情報に溢れ、それが日々瞬く間に更新されていく現代で、古くなっていく情報を人は簡単に忘れてしまう。日々何かを更新し続けなければ、いつの間にか存在すら忘れられてしまう。ミセスだってそうだろう。だって俺たちは所詮コンテンツにすぎないのだ。


セキ。君が本当に存在したとしたら、君は俺を通して誰を見ていた?俺を、どう認識していた?

俺たちの世界はたしかに、認識している以上のものによって本当は構築されているのかもしれない。本当はもっとずっと広くて、想像できないものだって溢れているのかもしれない。

でもね、俺は思うんだ。所詮、俺たちの世界は認識している範囲でしかその存在を確固たるものにできないのだと。いま、この瞬間において、俺たちの存在できる世界は認識している範囲が限界なのだと。


そしてその認識は永遠ではない。人の記憶は儚いものだから。


……たとえどれだけ心動かされたことがあっても、唯一無二だと確信した過去があったとしても。


きっと誰もがそうだ。「君」だってそうだ。溢れて流れていくたくさんの情報の波にさらわれて、きっと「君」も俺の事を忘れる。そうだろ?


俺はマウスを操作してログアウトのボタンを押した。今度こそ本当に、もう二度と「VWI」の世界に足を踏み入れることも、「ラビ」として過ごすこともないだろう。俺は小さく声に出して呟いた。


さよなら。

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コメント

13

ユーザー

ひゃーいろはさん!!帰って来られます?💕💕ドキドキなんですけど! フォロー外されてて、えっ、思って慌てて見に来ました…😭 ずっと怪しい壁打ちコメントしててごめんなさい💦

ユーザー

これが1ヶ月前なの信じられない…

ユーザー

いつも素敵な作品をありがとうございます。 陰ながら毎日いろはさんの作品を読むのを楽しみに過ごさせてもらっています。テラーで出会ってからは本当に毎日更新通知をそわそわしながら待っている日々で、昨日初めてそれがなくてここの皆さんのコメントでこの物語に込められた意味に気づかされました。 改めてすごい、どんな発想力があったらこんな作品たちが書けるんだろうと感激したのと同時に、もう新しい作品が読めないと思うととても寂しいです。 もし気が向いたらまたここでいろはさんの世界を共有していただきたいです。待っています。

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