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MAKO
『もう疲れちゃったなぁ・・・』
少女は指輪を外して屋敷とは似ても似つかない室内を見回す。
毎日の学校でのイジメとヒステリックで男遊びばかりの母親に辟易した。
学校にいかなくなるのは問題だろうと必死に耐えていたが、屋敷で大切にしてもらっていた長い髪を切られてしまったことで全てが嫌になってしまった。
『いいや、もう・・・私じゃないほうが皆もきっと助かるよね』
そう思った少女は指輪を片手にふらふらと深夜の街を歩き出す。
大きな川に架かっている橋の上からぼんやりと水流を眺める。
そうだ、飛び込めば死ねるかもしれない。
そう思った少女は迷わず端の欄干によじ登り、その身を投げた。
その時、一緒に落ちていった指輪がキラリと月の光を反射させたのが最期に見た光景だった。
「主様・・・主様・・・」
今日もベリアンは現れない主のためにお菓子とお茶を用意して呼びかけている。
主であった少女は、いつも通り元の世界に戻った後から姿を見せなくなった。
どんなに指輪に呼びかけても応えてくれることはなく、執事達は何がいけなかったのだろうと必死に考えた。
それでも主は戻ってくることはなく、無為に時間だけが流れていく・・・
🫖「主様・・・今日は主様の大好きなチョコレートタルトですよ?
どうか帰ってきていただけませんか?」
ベリアンは毎日決まった時間にお茶の準備をして、必ず数十分声掛けをしていた。
それだけが自分にできることだから、と他の執事たちに微笑む姿にいつものような覇気はなかった。
🍽️「主様!!メシ出来ましたよ〜〜!!!!」
ロノは主がいつも夕食を楽しみにしていたのを忘れられず、毎日夕食を作り終わると盛り付ける前に必死に声を張り上げて主を呼んでいた。
主が来てくれないと分かっていても、主の好物を作っては毎日陰膳を置いて寂しそうに食事をしている。
⚔️「主様・・・どうか帰ってきてくれないか?」
バスティンは一層剣の修行に励むようになり、厨房以外の屋敷の中に立ち入るのを避けるようになってしまった。
毎晩眠くなるまで馬小屋で木彫りをしては、主を呼んでいる。
バスティンの目の下には隈ができるようになり、あんなに食べていた食事も喉を通らない様子で皆に心配されていた。
✝️「主様、今日もボスキと喧嘩しないで仕事をしたんですよ・・・」
ハウレスは仕事の隙間に主に声を掛け続けていた。
それはいつの間にか懇願からまるで日常会話になっていき、まるで主が聞いているように話し続ける彼の姿に皆が心を痛めていた。
🦋「主様・・・今日はお風呂に入られますか・・・?」
毎日風呂をピカピカに掃除して、入るもののいない大浴場にいい香りのオイルを垂らして、ヘアケアの道具も増やしてみたりしていた。
完璧に準備したお風呂が冷めていくのをぼんやり眺め続ける彼の姿は哀愁が漂い、皆が見て見ぬふりをしていた。
🦾「主様、部屋の模様替えをしたんだが、見に来てくれねえか?」
季節が変わったことで、心変わりが起きてまた帰ってきてくれることに期待して毎回の模様替えは必死にアイデアを絞り出して会心の出来に仕上げる。
満足気にこれなら主様も気に入ってくれるだろうと話す彼に皆が同情の視線を向けた。
🌹「主様!今日もきれいに咲いたんっすよ!」
毎日ベッドの横の花瓶に花を飾って声を掛ける。
昼食の時間ならほんの少しだけ帰ってきてくれることもあると知っていたから、こっそりと人目を忍んで声を掛け続ける。
毎日残念そうに主の部屋から出てくるのを誰もが知っていた。
🍷「主様・・・悩みがあるのでしたらどうか何でも仰ってください」
きっと何か理由があるに違いないと確信しているため、必死にその原因を突き止めて解消したいと思って声を掛け続ける。
無駄なことだと分かっていながらも、これしかできることがないという事実に今夜も酒を傾けながら眠れない夜を過ごしている。
🌟「主様〜〜!!!お願いします!!帰ってきてください!!僕、ちゃんと掃除もするし、いい子にしますから!!」
毎晩夜空を見上げながら涙を流し、必死に主を繋ぎ止めようと自分の行動を改める。
最初は大泣きしていたがだんだん夜中にひっそりと泣くようになり、逆に皆に心配されている。
🔑「主様・・・どうかお戻りください。私は貴方様のためなら何でもいたしますから・・・」
いつものように侵入者を片付けた後、見回りをしながら主に一方的に語りかける。
返事がないことも、慣れない様子で照れる顔も見られないことも分かりきっている。
それでも記憶が薄れることを恐れて毎日主のことを思い出して褒め続けるのだ。
🕯️「主様・・・キャンドルを見に来ないかい?」
ちょっとしたことで毎日何度も主を呼ぶようになる。
最初のうちは寝ずに待っていたり音楽を奏でたりしていたが、その気力も徐々に無くなり疲れ果てた様子でロウソクを眺めてばかりいる。
❤️🩹「・・・主様は・・・どんなお顔をされていたのでしたっけ・・・?」
毎日主の音を必死に探し続けているうちに、音以外の主のことを思い出せなくなっていることに気付いた。
自分の中から主が消えてしまうのを恐れてパニックになり、満月の発作もぶり返すようになってきた。
🪡「主様のサイズ・・・変わっちゃってるのかな」
毎日主の服を手入れして、主の体型が変わってしまうほどに時間が経過していることに気付いた。
新しく作った服も袖を通されるとなくクローゼットに眠っている。
主のことを段々と思い出せなくなる恐怖に、変わらぬサイズの服を作り続けるのだった。
💮「主様・・・」
最初のうちはおちゃらけて主に呼びかけたりしていたが、もう顔も朧気になった主に諦めに近い気持ちを抱き始めていた。
もう二度と会えなくてもいいから、せめて声だけでも聞かせてほしい、と満月を見上げながら酒を煽った。
☔「主様、私はどうしたら良いのですか」
朧気な記憶の中にしか存在しない主に毎日問いかけるようになった。
自分はこのまま生きていていいのだろうか、そんな事が脳裏に浮かぶ。
もし、もしも・・・主がもう死んでいるとしたらお供しなくてはいけないのに、と思い詰めてしまう。
🧸「主様・・・ラッキーがもうないんです」
最初こそ明るく振る舞っていたが、もう演技する余裕もなく周りに当たったりと荒い言動が目立つようになる。
もう明るくて優しい彼を思い出せる執事は居なくなってしまったかもしれない。
🐾「主様・・・もう来てくれないんだろうな」
もう主が来てくれないという事実を割と早めに受け入れてしまっている。
主よりもベリアンの弱り具合が心配で、必死に慰めているうちに、主のことを忘れてしまったほうが楽だと気づいてしまったのだ・・・
🤍「・・・」
もう誰とも関わろうとせず、ひたすら絵を描くようになっていた。
最初の方に描いていた主の似顔絵を見ながら、朧気になっていく記憶を必死に鮮明にしようと足掻いていた。
ある日、主が現れた気配がして全員が主の部屋になだれ込んだ。
座り込んで泣いているベリアンの前に立っていたのは、見たこともない新たな主だった・・・
コメント
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読み終わりました……。1話目からずっしり来ますね。最初の少女の絶望と橋のシーン、あの指輪が月に光る瞬間がもう切なくて。そして執事たち一人ひとりの「待つ」姿の描き分けが秀逸です。ベリアンの毎日の声かけ、ロノの陰膳、バスティンの木彫り……みんな違うのに「主が帰ってこない」という喪失感で統一されていて、世界観がぐっと深まりました。特に「もう顔も朧げに」なっていく執事たちの描写が、時間の残酷さを語っていて辛い。最後に現れた新しい主……これからどうなるのか、続きが気になって仕方ないです。