「この鯛美味しい」
「うん、本当。すごく身が締まってて甘いね」
「お母さんさ、なんでお父さんと結婚しようと思ったの?」
「え? 何よ、急に」
突然の質問に驚いた。
「昔からずっと2人は恋人みたいに仲良いよね。お父さんってさ、会社ですごくモテるんだよ。俺の営業部の女の子達はみんなファンだし、年齢とか関係ないみたいでさ。俺に『社長はお家でどんな服を着てるんですか?』とか『お父様の好きな食べ物は何ですか?』とか、いろいろ聞いてくるんだ。本当、50歳を越えてもあんなモテる人他に知らないよ。だから、心配じゃないのかなって……」
「別に心配じゃないよ」
「え? すごい自信だね」
「だって信じてるからね。祐誠さんがモテるのは昔から。今に始まったことじゃないから。それはそれはモテてたんだから。いちいちヤキモチ妬いてたら身が持たないっていうくらいにね。でも……いつだってあの人は私を見てくれてたし、今はこんなに年齢を重ねてしまって、見た目も変わったかも知れないけど、それでも……あの人の私に対する優しさは、変わるどころかますます大きくなっていくの。だから、信じていられる」
「すごいんだね。2人の絆」
そうだね、きっと絆はすごく強い……はず。
「正孝とこんな話をするの、恥ずかしいね」
「あんなにラブラブなのに、今さら恥ずかしがらなくても。それで? 結婚の決め手は?」
まるで芸能リポーターみたいに聞いてくる。
そんなのいっぱいあり過ぎて悩んでしまうよ。
「ハッキリとはわからないけど……そうだな。迷ってた私の心をガチっと掴んでくれた。好きだって思わせてくれたからかな。お父さん、私のパンが好きだって言ってくれたんだ。私を……愛してくれたから、だから素直に飛び込んだの、祐誠さんの胸に」
すごく照れるけど、正孝に嘘は言いたくなかった。
「そっか、お父さんは、ずっとお母さん一筋なんだ」
ニコッと笑う正孝。
「そうだと信じてる。正孝も好きな人がいるならちゃんと紹介してよ。お母さんもお父さんも、あなたが選んだ人なら絶対反対しないから。好きな人の側にいるのが1番だからね。でも、もしフラレてもめげちゃダメよ」
「わかってるよ。俺もお父さん程じゃないけど結構モテるんだから」
確かに、正孝は祐誠さんに似てる。
親バカだけど、正直モテるだろう、学生の頃はファンクラブもあったしね。
バレンタインデーに女の子からもらったチョコレートをみんなで食べたけど、全然減らなかった思い出がある。
でも、まだまだ祐誠さんには及ばない。
もっと頑張らないと、あそこまで魅力的な男性にはなれないよ。
「女の子は大事にね。泣かしちゃダメよ」
「うん……でも、彼女は本当にいない。今は仕事が楽しいからね。まあ、もしできたら必ず2人に紹介するから」
「楽しみにしてるよ」
若い正孝を見てたら、自分達のことを思い出す。
希望に満ち溢れてたあの頃。
イチゴを拾って、走って届けてくれた優しい希良君。
仕事熱心で、いつも優しく穏やかな慧君。
会社を守り抜く覚悟をしていた祐誠さん。
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