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 部屋中がオレンジに染る頃、動かし続けていた両の手を止め、キーボードの上から下ろした。横に置いていたスマホを手に取り、時間を確認した。

「約束……破るんだ……」

 俺と彼との約束。遅くなる時は17時までには1度連絡する。現在の時刻は18時少し前。約束を破られたのは初めてだった。今日の予定は何だっただろうかと考える。

「あー…前職の元同僚たちからの決起会だったか」

 平たく言うと飲み会。俺がいない所で飲んで欲しくない……。酔って赤く上気した頬は可愛くて、潤んだ瞳はめまいがするほどの色気を持っている。酔った彼は、年上なのに抱きしめて蕩けるほどのキスをしたくなるほどの魅力を持っていた。

「はぁ……気に入らないなぁ……」

俺は、作業のため止めていた前髪を下ろして無造作に掻きむしった。どちらかと言えば遊んできた俺は、こんなに相手に振り回されるなんてこと1度もなかった。追われたり束縛されて面倒だと思ってきた俺だ。こんなに縛りたいと思ったことは無かった。

「まいったなぁ……俺、ベタ惚れじゃん」

そう思うと少し切なくなって、俺は椅子の上で足を抱えてため息をついた。バカバカしいけど、これがきっと本当の「恋」なんだろう。

 毎日会える訳では無いからヤキモキして、くだらない約束で縛ろうとする。俺がやられたら嫌なこと……。最低じゃん…。そうつぶやくと、涙が溢れそうになった。今すぐ会いたい……。

 その時、LINEの通知を知らせるバイブ音が鳴り響き、パッと画面が明るくなる。

『今から家に行ってもいい?』

 アイツから届いたたった一文で、俺はすぐに嬉しくなった。そして勢いよく立ち上がると、来てもいい旨を素早く送り、風呂場へ走った。

「りぃちょく~ん。きたよぉ~」

「すっごい酔ってんじゃんww大丈夫?ww」

 風呂から上がり髪を乾かし終えた頃、合鍵を使って入ってきた彼は、足元もフラフラとしていておぼつかず、話し方もいつもより少し甘えたような可愛らしいものになっていた。俺は、そんな彼を支えるように抱きしめ、ソファまで導いた。

「ほらお水。飲んで」

「ん!あーと」

 俺が水を渡すと、彼はごくごくと音を立てながら勢いよく飲んでいた。しかし、酔いが回っていて感覚が鈍いのか、口の端から少し溢れさせていた。

「ふふ。零れてる……チュッ」

「んんっ……ぁ……」

「……なんて声出すの……」

 溢れ出ていた水を舌で舐めとるようにすると、彼は小さく喘いで、ゆっくりと俺の顔を見つめてきていた。その瞳はユラユラと涙で潤い、何かを強請るように薄く唇を開いていた。俺はその唇に誘われるように、自分のそれを優しく重ねた。

 舌を絡ませ唾液を交換し、息すら交換するほどの深い口付けを交わしたあと、俺はゆっくりと唇を離して彼の瞳を見つめた。

「どうしたの?急にくるなんて珍しい……」

「元同僚に、恋人いるかって聞かれ、話してたらりちょくんに会いたくなった…」

「ん……もう。可愛すぎるんだからwww」

 俺は可愛いことを言う彼を、ギュッと強く抱きしめた。すると、彼はえへへーと言いなが抱き締め返してくれた。歳上なのに……かわいい。離したくない。

「ねぇ、何で連絡くれなかったの?」

 俺が不貞腐れたように言うと、目を細めながらじっと見つめてきた。その目に全てを見透かされていそうで、思わず目を逸らした。

「ごめんね?」

「うん…でもなんで?」

「恋人の話したって言ってたでしょ?」

「あーいってたね」

「そしたら、スマホ奪われて写真見せろってされた」

「え?」

「ふふ♡見ても、わからないのにねw」

 でも、俺の大好きな写真いっぱいだけど。そう言ってふわりと笑う顔が、可愛くて俺だけのものにしたくて、再び深く唇を合わせた。互いに息を荒くし、水音だけを響かせていた。

「りぃちょくん……大好きだよ」

「うん……おれのキャメさん大好き」

「またいっぱい写真撮ろうね」

「うん…ね、キス写真撮ろ」

「うわぁwラブラブなやつだ♡」

 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、笑ってくれてる彼はきっと嫌がってる訳ではなさそうだった。俺は自分のスマホのカメラをインカメラにして、ふたりがちゃんと入るようにして、再び口付けをしてシャッターボタンを押した。

 画面の中の俺たちは、目をつぶって唇を合わせ幸せそうにしていた。この写真は誰にも見せられないけれど、絶対に消さない宝物になった。

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