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急速に拡大する新体制への不満
それは主に
新方針により割を食った人
業務改変によりしわ寄せを食った人
かつてのぬるま湯から抜け出せない人たちの間で
急速に広まって行った
しかし
表立って提言する者は皆無
皆自分の立場を貶めたくないのだ
そんな空気感を
敏感に察知した経営陣は
急遽カジュアルミーティングを組む
社員達は
形式張らず気ままに
現場の思いの丈を直接伝え
経営陣は
現場の思いの丈を直接吸い上げ
改善への糧とし
社員達へ方針の意義を直接伝える
それは普段接点の薄い上層部と
直接意見交換できる前向きな機会だった
ミーティングは小グループ単位で組まれた
順番に
時間を費やし
全社員を対象として行われた
***
コンッコンッ!
「失礼します」
この日
私は営業部のチームメンバーと共に
経営陣とのカジュアルミーティングに臨んだ
「営業部ですね。お忙しい所ありがとう御座います、どうぞお掛け下さい」
席は対面ではなく
非常に近い距離間で
囲む形に組まれていた
「良ければ飲み物いかがですか?紅茶かコーヒーですがご自由にお飲み下さい」
脇には飲み物が容易されていた
各自手に取り着席する
会は和やかに
世間話から始まった
しばしの談笑の後
会話が途切れたのを皮切りに
本題へと移って行く
とはいえ
突っ込んだ業務内容に触れる事はなく
普段の職場環境や
新方針後の居心地
困り事等が主題に思えた
にも拘わらず
そこは営業メンバー
皆一様に
アピールの場と捉えている
最小限の合理的な指摘はしつつも
旧方針からの改善を讃え
それとなく自身の実績を盛り込み
経営陣の求めるカジュアルな距離感で
雄弁を振るった
「結局は結果ですから。もっと働きたいですが時間が足りなくて——」
表向き和気あいあいと盛り上がる場
求めていた生の現場の声と違う事に
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#ワンナイトラブ
熱の無い冷めた笑顔で応じる経営陣
「仰る通り法人格は結局結果ですから、営業さんはさすがに解ってらっしゃいますね」
「ですが、プライベートの拡充も大事ですよ。バイケースで残業も可能ですが、労働基準法に則った時間内で慢性的に業務が終わらなければリソースが足りないのでしょう。その場合は人員を増やす検討をします。同時に結果に対して適切な人数か、そのポジションに適切な人材かの見極めもします。社員にとって、会社にとって、最適な環境、最適なポジションで働けているかも大切な要素です」
割って入る隙の無い状況に
私はただただ千利休のように紅茶を啜っていた
「水川さんはどうですか?気付いた事とか、こうあったら良い事とか、最近思う事はありますか?」
突然の名指しでの指名に
あからさまに体がビクッと跳ねた
語りかけてきたのは社長
私の名前を認知していた
当然社員は他にも大勢いる
この短期間で場末の一社員の名前を記憶していた事に
私は少し驚いた
「えーっと、、そうですね……」
準備していなかった回答
急加速で巡らす思考
私は
アピール出来るほど自信がないし
アピールするような立場にもない
アピールするような業務もしていない
(やばい……何も思い浮かばない)
焦った私は
同期女子とのランチタイムの話題に救いを求めた
「勤務形態がフレックスタイムだと嬉しいですかね……小さい子供がいる家だと朝保育園への送迎ある人とかもいるので」
「あとは有給の取り方とかでしょうか。もちろん仕事との兼ね合いもありますが、もっと柔軟に取れたらいいかなって。皆ほとんど取れずに溜めてしまっているのが現状ですから」
「うんうん……なるほど。確かにそれは一理ありますね。お子さんがいて自宅の遠い方などは苦労しているでしょうし、有給が取り辛いのは労働環境として好ましくありません。それらはモチベーションの低下にも繋がりますし、ワークライフバランスの観点からも適切とは言えません」
私の急造の回答に
意外にも食いついた経営陣たち
明らかに
これまでと毛色も方向性も違う回答に
啞然とする営業メンバーたち
思いのほか刺さったのか
経営陣たちは
私の発言を皮切りに
私の意見を題材に
議論を始めた
それを見て
私はホッと胸を撫で下ろした
しかし
一見事なきを得たように思えたこの何気ない発言が
思わぬ方向へと進んでしまう事となる