テラーノベル
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朝、目が覚めたときから、頭の奥に薄い綿を詰めたようなふんわりとした鈍痛があった
熱を測ってみても36.4度
喉が痛いわけでも、咳が出るわけでもない
風邪というにはあまりに身体の主張が弱く、ただの寝不足か気圧のせいだろうと、鶴崎は自分に言い聞かせた
けれど、食卓に並べたトーストにはどうしても手が伸びなかった
一口かじっただけで、胃の奥からせり上がってくるような、ぬるりとした気持ち悪さがある
吐くほどではないけれど、何も受け付けたくない
鶴崎「……まあ、いいか」
とりあえず水分だけを胃に流し込み、鶴崎はいつも通り家を出た
事務所の会議室で行われたYouTubeの企画打ち合わせでも、その不快感は消えなかった
むしろ、時間が経つにつれてじわじわと身体を侵食していく
蛍光灯の白い光がやけに目に刺さり、メンバーたちの賑やかな笑い声が、まるで水の中にいるように少し遠くで響くような奇妙な浮遊感があった
鶴崎「あはは、それ絶対ボツになりますって」
鶴崎はいつも通りにうなずき、ツッコミを入れ、自分では完璧に「いつも通りの元気な自分」を演じているつもりだった
少しでも気を抜くと口元が引きつりそうになるのを、無理やり筋肉を動かして笑って見せる
熱がないのだから、体調不良のはずがない
ここで自分が倒れたら進行が遅れる
その一心だけで、朦朧とする意識の輪郭を必死に繋ぎ止めていた
しかし、昼過ぎ
資料の束からふっと目を離した、その一瞬の隙だった
張り詰めていた糸が、音を立てて弾け飛んだ
ふんわりとしていた頭痛が、一気に鋭い錐で脳の奥を直接抉られるような、凄まじい激痛へと跳ね上がった
鶴崎「ッ、ぁ……」
息を吸い込もうとしたが、胸の奥がぎゅっと収縮して空気が入ってこない
同時に、強烈な吐き気と目眩が同時に襲いかかってきた
視界がぐにゃりと反転し、床と天井の区別がつかなくなる
バクバクと鼓動を打つ心臓の音が、耳の奥でうるさいほどに暴れ狂った
冷や汗が一瞬にして全身から吹き出し、着ているシャツが肌にべっとりと張り付く
指先からは急激に血の気が引き、まるで氷を押し付けられているかのように感覚がなくなっていった
鶴崎「は、ッ……く、……ぅ」
頭が重すぎて、自分の首で支えていられない
鶴崎は必死に机の端にしがみついたが、ガタガタと両腕が震えて力が入らなかった
視界はみるみるうちに白と黒の斑点に侵食され、狭くなっていく
喉の奥から、過呼吸気味の浅く荒い喘ぎ声が漏れた
胸が激しく上下し、酸素を求めて口を震わせるが、頭の痛みと吐き気の苦しさに意識が掻き乱され、ただ苦痛の喘鳴を漏らすことしかできない
脂汗が顎のラインを伝ってポタポタと机に落ちた
河村「……鶴崎? おい、大丈夫か?」
暇人
359
けい
804
その苦悶の声を、同じ会議室でパソコンを叩いていた河村が聞き咎めた
書類を片手に振り返った河村の目が、限界を迎えている鶴崎の姿を捉えて大きく見開かれる
河村「つるさ……ッ!?」
河村が椅子の跳ね上がる音も構わずに駆け寄ってくる
その足音が微かに聞こえたのを最後に、鶴崎の視界は完全に真っ暗になった
脳のスイッチを強制的に切られたように、プツリと意識が途絶える
支えを失った鶴崎の身体は、机を滑り落ち、そのまま床へと崩れ落ちた
河村「……き、鶴崎、聞こえる?」
次に意識が浮上したとき、最初に届いたのは、いつになく焦燥を孕んだ河村の低い声だった
鶴崎は自分が会議室のソファに横たえられていることに気づいた
額には、冷たく絞られた濡れタオルが乗せられている
鶴崎「…ぁ……ッ」
声を出そうとしたが、喉がからからに張り付いて、掠れた吐息しか出ない
ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前に、眉をこれ以上ないほどに寄せて鶴崎の顔を覗き込んでいる河村の顔があった
その表情には、明らかな動揺と深い心配の色が滲んでいる
河村「動かないで、まだ寝てて」
河村は、鶴崎が起き上がろうとするのを察して、その肩を優しく、しかし確固たる力で制した
鶴崎「……ぼく、は…ッ」
河村「急に倒れたんだよ……ほら、少し水飲める? ゆっくりね」
河村は鶴崎の頭をそっと抱き起こし、自分の胸に預けさせるようにして支えた
そして、ストローを挿したペットボトルを唇に近づけてくれる
鶴崎は微かに頷き、差し出された水を数口、喉へと流し込んだ
乾ききっていた食道が潤うと同時に、胃がまたきゅっと収縮して、小さな呻きが漏れる
鶴崎「ッ……、ぅ、く……」
河村「気持ち悪い? 無理に飲まなくていい。洗面器ここにあるから、吐きそうならいつでも言って」
河村は手際よく鶴崎の背中を、大きくて温かい手のひらでゆっくりとさすり始めた
トントン、と規則正しいリズムで繰り返されるその動きが、鶴崎の張り詰めた神経を少しずつ解きほぐしていく
河村「熱は測ったけど平熱なんだよ。でも、脈がめちゃくちゃ速いし、手が氷みたいに冷たい。自律神経か、それとも脳貧血か……いつも通り笑ってるように見えたから、気づくのが遅れた。ごめん」
河村の声は静かだったが、どこか自分を責めるような響きがあった
鶴崎は、そんな河村の手を止めようと、感覚の鈍い右手を震わせながら伸ばした
河村はその手を迷わず掴み、包み込むようにして握りしめる
鶴崎「かわ、むらさ……ちが、ッ……ぼくが、隠そ、と、して……ッ」
河村「分かってるよ。そういう頑固なところ、今に始まったことじゃないし」
河村は少しだけ困ったように、けれど愛おしそうにふっと微笑んだ
その笑みを見て、鶴崎の胸の奥を占めていた「体調を崩して迷惑をかけてしまった」という罪悪感が、すうっと消えていくようだった
河村「伊沢たちには、今日の残りの作業は俺が引き取るって連絡してある。他のメンバーも心配してたけど、まずは休ませろって言っておいたから、今は何も気にしなくていい」
鶴崎「…すみません、ありがとうございます……」
河村「だから謝るなって。今はただの看病される側なんだから、大人しく甘えといて」
河村はもう一度、ぬるくなった額のタオルを冷たいものに取り替え、鶴崎の髪を優しく撫でつけた
まだ頭の奥には鈍い痛みが残り、胃の不快感も完全には消えていない
けれど、河村の差し伸べてくれる確かな看病の手と、部屋に満ちる穏やかな沈黙が、何よりも心地よかった
鶴崎「……少し、眠ります…」
河村「うん、おやすみ。ずっとここにいるから、安心して寝て」
河村の手の温もりを微かに感じながら、鶴崎は今度こそ、引きずり込まれるような深い眠りへと、穏やかに落ちていった
コメント
8件
最高。昔は私体調不良の小説マジで苦手だったんだけど、これ読んだら大好きになったありがとう((
あー、はい、最高なんなんだよ神かよ神だよ🫵🫵🫵 いや、いい、題名も宜しい、好き マジでありがとうございます、最高です、ありがとうございます、語彙力消失しました、はい、ありがとうございます() 鶴ちゃん、私達の供給になってくれ、神もね?????うんうん()

はい、リクエストありがとうございます!!!! とても書くのが楽しい() いや、やっぱ体調不良を隠すのって尊いんだよ いい?分かるね??? 隠して、それで耐えきれなくなって結局隠せなくなる人は 尊いんだよ(洗脳) 今回お相手さんを誰にしようかと考えたところ、なんとなく、人の観察に長けてそうだから隠されてたことを知ったときに「なんで気づけなかったんだ」ってなりそうな河村サマで...(?) 河村サマって自責しそうだな...(???) この2人って、Skyの動画で共演してるのが多いのでたすかる あと2人で反省会してるのも把握してるので...(何目線だよ) 後日、気づけなかった河村サマと隠せなかった鶴崎サマの反省会があったとかなかったとか