哲汰side
あの日、先生に告げられた言葉が
ずっと胸の奥に刺さったままだ。
「あと半年」――それが現実でも、
俺はその半年を
後悔しない時間にしたかった。
だから決めた。
直弥と、ただ楽しい日々を過ごすんだ。
夏
哲「じゃーん!直弥、見て!」
俺は袋から取り出した小さな線香花火を自慢げに掲げた。
直「……ここ病院ね?」
哲「関係ない!今日、屋上でこれやろ!」
直「…うん、やりたい。やろ」
直弥の口元が、ほんの少し緩む。
夜の屋上、ふたり並んで火を灯した。
じりじりと小さな火花が弾けて、
静かな夜にぱちぱちと音を立てる。
哲「きれいだな」
直「……うん」
線香花火の火が落ちる寸前、
俺は直弥の横顔をちらりと見た。
花火よりずっと綺麗だった。
秋
病院の敷地内を散歩すると、
木々が赤や黄色に染まっていた。
哲「わぁ……直弥、見て見て!紅葉だ!」
直「そんな子供みたいに騒ぐなって」
哲「はい、こっち向いて!」
パシャッとスマホで写真を撮る。
直「おい、勝手に撮んな!」
哲「いいだろ? 俺のスマホ直弥でもういっぱいだから」
直「…ふっ笑…なんだそれ」
直弥も負けじと俺の写真を撮り返してきて、結局ふたりで笑い合った。
秋風に舞う落ち葉の中、俺たちはまるで普通の高校生みたいに見えただろうか。
その後は「食欲の秋だから」と言って、
直弥に内緒で持ち込んだお菓子を広げた。
直「これ、ダメだって言われてるだろ」
哲「ほら、ひと口だけ!」
直「……バレたら全部哲汰のせいにするから」
そう言いながらも、
直弥は笑ってチョコをかじった。
冬
俺の誕生日が近づいた十一月。
病室のドアを開けると――
思わず固まった。
直「哲汰!誕生日おめでとう!」
哲「……え、なにこれ?」
直「サプライズ。誕生日パーティー」
部屋の壁には飾りや年齢の風船が
貼られていて、 テーブルの上には
ケーキが置かれていた。
哲「え、これ全部直弥がやったの?」
直「うん、たくも手伝ってくれて」
哲「え〜すご!!かわいい!」
直「ケーキは……俺が頼んでたくが買ってきてくれた」
哲「拓弥くんが?」
直「うん」
直弥は照れくさそうに目を逸らした。
哲「……ありがと、直弥」
直「別に。彼氏の誕生日祝うの、普通でしょ」
哲「普通とか言うなよ。めっちゃ嬉しいんだけど」
ふたりでケーキを食べながら、笑って、
ふざけて、写真も撮った。
真っ白な病室なのに、
その夜だけは本当に色鮮やかに見えた。
季節がひとつずつ過ぎていくたびに
直弥の体は少しずつ弱っていくのがわかる。けど俺は、それを表に出さなかった。
泣くのは、直弥が眠ったあとでいい。
起きている間は、ただ笑って、ただ隣にいたかった。
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最高すぎますт т