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おれに従った幻獣たちは力でこそ支配したものの、正式に契約したものでも無かった。召喚として従わせるには、やはりきちんとした契りを結んでおきたい――ということを話し、ドワーフの子たちには幻獣を返すことにした。
しかしクラスがすでに上がって手に負えなくなったらしく、後で改めて召喚し直すことにしたようだ。
「ボクたちはグライスエンドで生まれた。でも、のけ者。自由無い、遊べない、森の中。……アックさま! ボクたちが自由に生きる家が欲しいです」
召喚フォルネウスを使ったドワーフ族のフォルから飛び出したのは、意外なお願いだった。
「――なるほどな。末裔の町にいながら実力の足りない者は、中心に近づくことが許されないわけか」
厳しいしきたりのようなものだろうか?
そういえば序盤の樹人族は末裔では無かったが、実力でいえばドワーフに劣らない。ドワーフの召喚は未熟な部分はあったにせよ、差はあまり感じられなかった。
「自由に生きたい家……か」
「イスティさま、ドワーフたちをどうするの?」
「う~ん……このまま森の中に置くのも厳しいし、かと言って連れ歩くのはな……」
「ここの気配を感じるに、自然と人工とですみ分けが出来ている町だと思うの! だからイスティさまがしたいようにするべき! それに――」
「フィーサは何か気になることでもあるのか?」
フィーサが気にする視線の先にはシーニャとルティがいる。
「……イスティさまは召喚を得たことで魔力も安定してきたけど、あの小娘たちのことが心配。だから、ここでいったん国に戻ってもいいかも!」
「イデアベルクにか?」
「うん!」
ドワーフとの戦いが決したことでフィーサは再び人化した。そんな彼女が、ここでひとまずイデアベルクへ戻るべきと言い出した。おれはともかくシーニャやルティにとっては慣れない環境になる。そのせいで負担がかかっているということらしい。
さらにはおれに心酔しているドワーフたちをここに残していくには危険すぎる――とも。だからといって末裔の子たちをイデアベルクにという考えにはまだ至らない。
民家から離れた森の中ではあるが、問題はグライスエンドから出られるのかが問題だ。この先は恐らく戦闘が激化するエリア。フィーサが言うのは、まさに今のうちにということに違いない。
「ウニャ? どうしたのだ、アック?」
「大丈夫か? シーニャ」
「まだ眠いのだ……ムニャゥ」
確かにシーニャだけを見れば本来の実力が発揮されない状態でここまで来ている。そう考えればイデアベルクに戻ってもいいのかもしれないが。
「アック様、アック様っ!」
「ん? どうした、ルティ」
「ドワーフの子たちのお家を探してあげるんですかっ?」
「ん~、まぁな」
「それならっ、イデアベルクですっ! そこでならあの子たちも自由に過ごせますっ!!」
イデアベルクに戻ることも悩んでいたが、ドワーフの子たちをどうするか。そう思っていたらルティが意外なお願いをしてきた。
「アック様! ルティシアのお願いを聞いてくれますかっ?」
「な、何だ?」
いつになく真剣な眼差しと少し甘えた声。またとんでもないことを言い出しそうなんだが。
「転送ですっっ!! アック様には転送があるじゃないですか! 母さまも転送はおすすめだとおっしゃっていました。ですから、転送でバビュン! って戻っちゃえばいいんですよ~!」
「て、転送!? そ、それだけか?」
「はいっっ! ……って、他に何かありましたか?」
「い、いや」
何とも意外なお願いだった。しかも転送とはな。あまり使っていなかったが。属性移動魔法が不安定なだけに使っていなかったが、その手があったか。
「どうですか、どうですか~?」
「……やってみるか」
ルティにお願いをされたおれは、ドワーフの子たちに説明してイデアベルクについて来てもらうことにした。
「ボ、ボク、頑張りますっ! いつか魔神フォルネウスを召喚出来るようになりたい!」
「サラも負けないです!!」
「ルピも!」
どうやらこの子たちの中では、イデアベルクに行くことは決定していたらしい。そうなるとまたミルシェに頼むことになってしまうが、少しの間だけでも何か手伝わねば。
獣人とネコとエルフ、それにドワーフが加わるとなれば何とも賑やかな国になりそう。
「アック様。あのぅ……もう一つお願い、いいですか~?」
「……うん?」
ルティはまるで覚悟を決めたような顔をしている。
「えっと、その……ドワーフの子たちの面倒や世話をわたしに任させてもらってもよろしいでしょうかっ!」
……何を言うかと思えば。
「ルティ一人でか?」
「は、はいっっ! もちろんすぐのことでは無いのですが、同じドワーフとして~……」
「ルティがそうしたいならいいぞ。反対はしない」
「やったぁ!! アック様っ、ありがとうございますですっ!!」
意外でも何でもないことだが、ルティは世話好きらしい。国に戻ってからになるとはいえ、ドワーフの子たちとはいい関係を築きそうだ。
おれの返事を訊いて、ルティは嬉しそうにドワーフの子たちの所へ走って行った。
ルティのはしゃぐ様子が気になったのか、シーニャが声をかけてくる。
「アック、ドワーフがもっと増えるのだ?」
「シーニャは嫌か?」
「ルティみたいなドワーフならいらないのだ。でも、きっとそうじゃないはずなのだ! ウニャッ!」
「その辺りは心配しなくていいと思うぞ。シーニャも面倒を見るか?」
「シーニャ、アックだけでいいのだ!」
さすがにそこは譲れないものがあるらしい。何だかんだでシーニャは誇り高いワータイガー。仲間という意識は一人だけに留まっている可能性が高いかもしれない。
「しかし不安だな。行って素直に帰って来れるのかどうか……」
「イスティさま。グライスエンドの町にはもう妙な気配、強い気配しか感じないよ? でもこの気配のせいで転送魔法が言うことを聞いてくれるみたいなの」
これまで不安定だった転送魔法だったが、フィーサの言葉通りなら強い気配が潜在的な魔法に影響を及ぼしそのせいですぐに戻って来られるようだ。
転送魔法は詠唱要らずではあるものの、ドワーフの子たちがいるのでここはあえて名前を発することに。
名前となると、輪の中に立って言う必要がある。人化のフィーサに中心に立ってもらおうとしたが、彼女一人だけでは不十分だ。
おれは彼女たちの中心に立ち、声を発した。
「転送魔法! 【イデアベルク】へ転送する!!」
通常ならこれですぐに転送が開始され、風景が一瞬にしてイデアベルクに変わっているはずだった。
……しかし様子がおかしい。
転送魔法はすでに発動したにもかかわらず、未だにグライスエンドの森が見えているからだ。おれは変だと感じ、彼女たちから離れて様子を見ようとした、その時だった。
「――んっ? な、何っ!? ルティ、シーニャ! フィーサも!! ま、待て、置いて行くな!」
「あれれ? イスティさま!?」
「ウニャニャニャ!? アックが来ていないのだ!! アック、アックが~!」
「え、ええぇぇっ!? ア、アック様ぁぁぁぁ!!」
「嘘だろ……? 何だこれ、幻影魔法か? それとも転送の失敗……?」
ドワーフの子たちとルティたちを見送るかのように見えない透明な壁に遮られ、おれだけが転送されずにその場に取り残されてしまった。一体何事なのかと辺りを見回していると、どうやらまんまと敵に油断を与えていたらしい。
振り向いた先にはローブをまとった十数人くらいの者が立っている。
そして、
「悪いけど、アック・イスティ。あなただけここに留まらせてもらったよ。転送魔法には特別に遮断魔法をかけさせてもらった」
「遮断魔法……? ――ということは、おれだけが転送出来なかった。そういうことだな?」
「ご名答」
「なるほど。しかし、おれ一人だけであんたらと戦うつもりがあるとでも?」
「違うね。戦うのはこのオレだけで十分。ウルティモに敵うかどうか、面白くなるかそうでないかを確かめに来ただけ」
ウルティモ――外見が妙に派手な男かつ、妙手な攻撃をしてきた奴だったな。
奴の手下ということでも無さそうだが、まずはこいつと戦えばいいのか?
「ここでおれを倒す? それとも消し去るのか?」
「どれも違う。面白ければいいし、つまらなくても何かは得られる。オレがそうしたいだけ。あなたの仲間は邪魔だったから、転送しといて正解!」
そういうことか。
そういう意味ではルティたちと別になったのは正しかったかもしれないな。