「雫ちゃんは、年齢を重ねてもずっと魅力的なままだ」
「そんなそんな。もう若くないし、おばさんになったから……」
「おばさんでも、おじさんでも、魅力が無い人もいる。でも、雫ちゃんにはちゃんと年齢に合った魅力がある。いつまでも美人だし」
「い、いやだな、慧君。からかわないで」
「からかってなんかない。本当に……綺麗だ。俺の中では雫ちゃんより素敵な女性は存在しないから」
大人になったその渋さ、少し影のある表情にグッとくる。
「恥ずかしいよ、本当に」
「雫ちゃんが結婚する前、俺は榊社長に百貨店に卸す小麦粉のことで会ったんだ。その時『雫ちゃんのこと頼みます。必ず幸せにして下さい』って……お願いしたんだ」
「そうだったの?」
それは、祐誠さんにも聞いたことがなかった。
「うん。榊社長は『任せて下さい。雫さんは何があっても私が守りますから。必ず幸せにします』って、そう言った」
祐誠さん、そんなこと言ってくれたんだ。
今聞いても、目頭が熱くなる。
私は、10年越しに改めて祐誠さんの深い愛情に触れることができた気がした。
すごく嬉しいよ、本当に……嬉しい。
「その真剣な目を見たら、もうそれ以上何も言えなかった。納得せざるを得なかったんだ。この人以上に雫ちゃんを幸せにできる人なんていないって。榊社長といれば雫ちゃんは大丈夫。俺といるより確実に幸せになれるって」
「慧君、私の幸せのこと、そこまで考えてくれてたんだ」
「だって、雫ちゃんは俺にとって1番大切な人だったからね。それに……」
慧君は、一瞬、言葉を詰まらせた。
「最愛のご主人の前でこんなこと言ったら怒られるけど……俺は今も、雫ちゃんのことが好きだから。かけがえのない人って思ってる。ごめん」
私は、再会したばかりの慧君の言葉に少し戸惑った。
「私達、離れてもう10年以上経つんだよ……」
「時間なんて関係ない、ずっと近くで父さんを見ててそう思ってた。俺とは違うけど、でも好きな人を想い続けてる父さんは、やっぱりいつも幸せそうだったから」
「慧君……」
「そして今日2人は結ばれた。本当に幸せだよ、父さんは。あっ、でも……もちろん俺は大丈夫だし、心配しないで。雫ちゃんと結ばれなくても、それでもいいって、もうずっと前から思ってるから。雫ちゃんが幸せならそれでいい」
優しくて穏やかな顔、そんなこと言われたら、胸の奥がキュッとなって切なくなるよ。
「慧君の気持ち嬉しい。でもね、ちゃんと……良い人を見つけてほしいよ。たった1度きりの人生なんだから、これから先、死ぬまで支え合える素敵な人を見つけてほしい」
こんなにカッコいいんだもん、求めればきっと慧君にとって1番大切な人が見つかるはず。
「そんな簡単にはいかない……かな。北海道に来て、何人か告白されたけど、でも、なかなか本気になれる人がいない。年齢を考えて、妥協してって思うけど、やっぱりできない。このまま俺は1人の方がいいのかもしれないって」
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