テラーノベル
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高校に上がって初めての夏休み
昔は毎年家族同士で集まってた海辺も、
気づけば2人だけで来るようになってた
日が落ちきる前の少しだけ明るさが残る頃
波の音が永遠と一定で続いてる。
「ほんまに2人だけで来るようになるとはなぁ」
砂を軽く蹴りながら言う。
「来たいって言ったのは舜太だけどね」
「まあな」
笑う声が前より少しだけ大人っぽい。
コンビニの袋から取り出した手持ち花火に ライターで火をつける。
小さく弾ける音と、じんわり広がる光
「うわ、なつかし」
舜太が少し目を細める。
その横顔にオレンジの光が揺れる。
「昔さ、絶対親が見てたよな」
「人に向けるのはやめなさいって」
「それ言われてたな」
2人で小さく笑う。
今はもう、誰も何も言わない。
波の音と花火の弾ける音だけ
少しだけ風があって火が揺れる。
「そっち危なくない?」
「大丈夫やって」
舜太はあまり気にせず 火の先をぼんやり見てる
横並びでただ光を見つめる。
さっきまで意識してなかった距離感も、 花火の光の中だとなんだか目に入ってくる
「……なあ」
舜太がぽつりと言う。
「ん?」
「今年さ」
波がひとつ大きくなる。
「懐かしいことすんの初めてやな」
静かな声
花火の火を見たまま
「そうだね」
と返す
それ以上は言わない。
でも、同じこと考えてるのはなんとなくわかる。
火がだんだん短くなる。
最後はぱちぱち、と強く弾けて消える
一瞬であたりが暗くなる
「次つける?」
「うん」
舜太が小さく頷く。
でも、すぐには動かない
そのまま 立ち上がる。
新しい花火に火をつけると
また光が戻る
その明るさで舜太の表情が見える。
ちょっとだけやわらかい
「なあ」
また呼ばれる。
「ん?」
今度はすぐ返す。
花火持ったまま、 少しだけ顔を寄せてくる。
「目、閉じてみ?」
「なんで」
「ええやん」
少し笑う
その言い方はずるい事をする時の舜太らしかった。
小さく息を吐いて、言う通りに 目を閉じる。
次の瞬間、 ふっと近づく気配がして
ほんの一瞬
唇にやわらかいものが触れて、すぐ離れる。
波の音がやけに大きくなる。
目を開けると舜太は普通に花火を見ていた。
何もなかったかのように
「舜太、俺に何した?」
舜太は横目で見て
「 花火やってるだけやけど」
、ととぼける。
でも口元だけ少し笑ってる。
自分の唇に触れてみるとかすかに緩んでいた。
そのまま残ってる花火に火をつける。
さっきより火が強く見える
夜も、もうすっかり暗い。
周りには誰もいない
波と、光と、
さっきの一瞬の出来事だけが残ってる。
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