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花火の残り火を砂に押し付けると 小さく煙が上がる。
「これで全部終わりかぁ」
と舜太が名残惜しそうに言う。
「だいぶやったけどね」
袋をまとめる
帰ろうか、とどっちからともなく歩き出す。
海沿いの道は街灯が少なくて
少し歩くともう暗い。
波の音もだんだん遠くなって
代わりに虫の音がはっきりしてくる。
「涼し」
舜太がぽつりと言う。
「昼と全然違うよね」
同じ空気を吸いながら返す。
しばらく並んで歩いて 何も話さない時間が続く。
それが別に気まずくないのはいつも通り。
ふと、舜太 手を伸ばしてくる。
何も言わずにそのまま手を掴んでくる
「……なに」
横目で見る
「べつにええやん」
軽い調子
そのまま、ぶんぶん振り回す。 子どもみたいに。
「腕ちぎれそう」
と言いながらも、振りほどく気にはならない
「昔もやっとったやん」
「そうだっけ」
「やっとったって」
笑いながらまた大きく振る。
街灯の下を通るたびに、 2人の影が伸びて、重なって、離れる。
それを繰り返す。
その感じがなんだか懐かしくて、愛おしくて
少しだけ視線を落とす。
繋がれた手。
無邪気に振り回してる舜太
さっき海でキスしてきたくせに何も意識していなさそうなとこは昔から本当に変わらない。
「……ほんと」
小さく呟く。
「子どもみたい」
「ひど!」
笑いながら言う
でもやっぱり手は離さない
むしろ、少しだけ強く握る
その温度がちゃんとあるのに 関係はまだ曖昧なまま。
前を見る
暗い道、虫の音、たまに通る風
全部夏って感じで、
このまま終わっていくのが見える気がする。
このまま何も言わなかったら
また来年も同じことして、
でも少しずつ変わって、
気づいたら戻れなくなるのかもしれない
それが怖くて。
「……ねえ」
舜太をら呼ぶ。
半歩先を歩いていた舜太が振り返る
「ん?」
いつも通りの顔
まだその手はちゃんと繋がったまま。
その顔を見て思わず一瞬だけ黙る。
それから繋いでた手を引く
軽くじゃなくしっかりと
「え、なに」
舜太が少しよろけて、 そのまま街灯の下に引き寄せられる
影がぴったり重なる
「、これ」
低く言う
繋いだままの手を軽く持ち上げる
「俺らいつまでこれでいるつもり」
舜太が少しだけ目を丸くする。
「え」
「さんざんキスして、何もなしって」
はっきりと言う。
舜太は少しだけ視線揺らす
「……別に」
いつもの声と違って 弱い
「じゃあ、ちゃんとしようよ」
短く言う。
「ちゃんとって」
少しだけ息を吐く
それから、
繋いでた手をそのまま引き寄せる。
もう片方の手で軽く腕を押さえる
舜太がすり抜けられないように
「俺と付き合う?」
真っ直ぐ言う
迷いない声
舜太の目が一瞬動揺するように横に揺れる
街灯の光は2人の表情をはっきりと映す。
少しだけ困ったみたいに笑って
「……今さらやない?」
と小さく言う
つられて少しだけ笑う
「うん、今さら」
「だから言ってる」
「たしかにな」
小さく呟く。
「ええよ」
ちゃんと返事がかえってきた
その瞬間、おもわず体を 引き寄せる。
今度は迷いなく
はっきり触れる。
高揚感で胸が締め付けられた勢いで
さっきよりちゃんとしたキスをする。
短く終わらせない。
夏の夜の空気ごと、閉じ込めるみたいに。
少しして離れると
舜太が小さく息吐く。
「ほんま強引やな」
笑いながら言う
「今さらでしょ」
同じことを返す。
さっきと違い、もう曖昧じゃない関係で
帰り道はまだ続く。
虫の音も、風も、
さっきと何も変わらないのに
少しだけ違って見える。
この夏が終わっても
ちゃんと残るものができた気がする。
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