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痛い心にいちばん優しく触れる人

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痛い心にいちばん優しく触れる人

9 - 第八話『触れたいのに触れられない距離が、いちばんつらい』

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2025年12月07日

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翌日。

学園はいつもと同じざわめきに包まれている。


だけど――

玲央と詩織のあいだだけは、静かだった。



レッスン室。

玲央が指導していても、詩織の目は合わない。


いつもなら少しふざけながら距離を縮めてくるのに、

今日は真顔のまま無駄な言葉を一切挟まない。


玲央「……詩織さん、そこテンポ半拍ずれてます」


詩織「……うん」


玲央「もう一回」


詩織「……わかった」


その声はどこか硬くて。

玲央の胸がチクリと痛む。


(どうしてだろう……昨日のままの距離だ)

(近づきたいのに……自分から距離を取りたくなる)


玲央は、自分でも理由がわからなかった。



レッスン後。

片付けを終えた詩織が、静かに言った。


「ごめんね……最近、空気重くして」


「そんなことは」


「あるよ。玲央くん、気を遣ってる。

……私のせいで」


玲央「違います」


言葉は即答だった。

でもその声の固さが、詩織には刺さる。


(ほんとは“違う”って言ってほしいだけなのに……

なんでこんなに苦しいんだろ)


詩織は意を決して、口を開いた。


「ねぇ……昨日のことだけど」


玲央の手がぴたりと止まる。


「玲央くん……怒ってるの?」


「怒ってません」


「じゃあ……避けてるの?」


「避けてません」


詩織「……」


玲央「……」


ふたりの間に、息が詰まる沈黙が落ちた。



見かねた詩織が、そっと近づく。


そして――

昨日と同じように、玲央の袖をぎゅっと掴んだ。


「ねぇ……見てよ。

昨日みたいに……抱きしめてくれても……いいんだよ?」


震える声。


なのに玲央は、視線を逸らした。


「……詩織さん」


胸が痛そうな顔で。


「……昨日のは、特別じゃなかったんです」


あまりにも残酷な言葉。


詩織の手から力が抜ける。


「……そう、なんだ」


玲央は、必死に言葉を探していた。


(違う。本当は違う。

特別だった。誰よりも特別だった。

でも……踏み込んだら戻れなくなる気がして怖いんだ)


だけど――


それを言葉にできる玲央ではなかった。



沈黙のまま見つめ合っていると、

そこへレッスン講師が駆け込んできた。


「天音!至急、収録変更でスタジオ入って!」


詩織「っ……わかりました!」


助け舟のような、でも最悪のタイミングの呼び出し。


詩織は玲央をちらっと見て。


(……言葉、届かなかった)


そう思ったまま、走り去った。


玲央はその背中を見つめながら、

喉に何かがつかえて息がしづらい。


(……止めればよかったのに)


目を閉じて、深く後悔が刺さった。



スタジオ入り口。

詩織は胸を押さえながら深呼吸する。


(弱いとこ、見せたくなかったのに……

玲央くんの前だと、だめ。

こんなの……嫌いになれないよ……)


涙が滲んだとき。


スタッフが駆け寄ってくる。


「天音さん! ごめんなさい、急だけど――

例のバラエティ企画、共演者が相川玲央くんに決まったの!」


詩織「……え?」


「二人でペア企画に出てもらうって。

そのまま外ロケに直行してほしいって!」


詩織の顔色が一瞬で変わった。


(……この距離のまま、

玲央くんと外ロケ……?)


胸がぎゅっと痛む。


だけど――

もっと痛い予感が、まだこのあと待っていることを

この時の詩織は知らなかった。

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