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小桃(桜の精)
修羅道 左軍の屋敷内
小桃の言葉を聞き、百花ちゃんはキッと睨み付けた。
「アンタ、美猿王の話を聞いてなかったの?どちらか一人が死ぬまで戦わないといけないのよ。ここから出れるのも、私か小桃のどちらかなのよ」
「二人が戦ってる理由、百花ちゃんは分かってるよね。小桃達を助ける為なんだよ?百花ちゃん、二人の事を止めに行こう」
「小桃、甘ったれた事を言ってんじゃないわよ。止められる訳ないでしょ、あの二人の事を。忘れたの?悟空と牛魔王は仲良くなんて、出来ないのよ。けして、
交わる事がないのだか…、ゴホッ!!」
百花ちゃんは話しながら咳き込み、床に吐血した血が滴る。
「百花ちゃん!?大丈夫!?ど、どこか悪いの…?」
「アンタに関係ないでしょ、私が死のうが…」
「関係あるよ!!百花ちゃんの体が弱ってる事ぐらい、見たら分かる。残された時間が少ない事も…」
「同情でもする気?やめてよ、私が惨めになるだけでしょ!!!」
大声で叫んだ百花ちゃんの目から、大粒の涙が溢れ出す。
百花ちゃんが泣く姿を見るのは二回目だな…。
夜遅く、事務所の中で誰かを思い出して、一人で泣いている姿を見た事があった。
今、思えば、百花ちゃんは牛鬼の事を思い出して泣いていたんだ。
「小桃に見せる顔がないの、見せる資格がないの」
「百花ちゃん…」
「白虎を殺して、小桃を傷つけて、牛鬼様の元に行って…。だけど、変わってしまった牛鬼様に、私恐れてしまった。私を汚した神側についてしまった事が、許せなかったっ」
百花ちゃんが、小桃と出会う前の出来を聞いた事があった。
花妖怪達が神達に心も体も傷付けられた事。
神だからって、何でもして良い訳じゃないから。
「百花、お前のした事は許されるべきじゃない」
そう言って、白虎は百花ちゃんの前に立ちながら見下
ろす。
「この話し方…、アンタ白虎なの?人の姿になって、生まれ変わったの?」
「お嬢は百花に傷付けられても、アンタの事が好きなんだよ。そんなお嬢に、本当は謝りたかったのだろう?百花」
「わ、私はっ、小桃に会いたかった。小桃の体に傷を付けてっ、泣かせて…。自分が死ぬかもって思った時、真っ先に頭に浮かんだのは小桃の顔だった」
百花ちゃんは泣き崩れながら、小桃の方に手を伸ばした。
小桃は伸ばされた百花ちゃんの細い手を掴うと、鴉さんが巨大な鳥籠を突いた瞬間。
バキバキバキッ!!!
激しく大きな音をたてながら、硬い鳥籠が破壊された。
「え!?鴉さんが壊したの!?凄すぎる!!」
「このぐらい造作もない」
小桃の言葉を聞いた鴉さんは、凄く嬉しそうに羽を広げる。
「百花ちゃん、こんなに泣き虫さんだったんだね」
「え…?」
「それに、小桃の事が大好きなのも分かったから。百花ちゃん、小桃も大好きだよ」
そう言って、小桃は百花ちゃんの細い体を優しく抱き締め、背中をポンポンッと叩く。
「っ…、小桃っ。本当に、本当のごめんね、ごめんなさいっ…」
百花ちゃんは小桃の腕の中で、子供のように泣き続けた。
この世界は悲しい事ばかりで、幸せな事って指で数えれる分だけだと思う。
ドゴォォォーンッ!!!
「「!!!」」
外から激しい音が聞こえ、小桃と百花ちゃんは同時に立ち上がる。
この音を鳴らしているのは、悟空と牛魔王だと分かった。
「百花ちゃん、行こう」
「うん、小桃」
小桃と百花は、お互いの手をしっかり握りながら部屋を飛び出した。
孫悟空ー
どれだけ、俺達は血を流せば良いのだろう。
「「はぁ、はぁ…」」
俺と牛魔王の荒い呼吸だけが、この広い戦場で響き渡る。
いつの間にか、右軍と左軍の兵士達が集まって来ていたが、皆が口を閉じていた。
傷が出来ても、俺たちの体は再生を始める。
回復が始まっても、
「良い加減…、くたばれよ…、テメェ…」
「それっは、こっちの台詞だ…」
ふらふらの牛魔王の体を支えるように、向日葵の化け物の女が現れた。
牛魔王の過去で見た事がある牛魔王の母ちゃんだ。
化け物になっても、息子の事を愛しているのが見て分かる。
如意棒だけじゃ、牛魔王を殺す事が出来ねぇ…か。
流石の俺も、血を流し過ぎて貧血になっている。
「なぁ、爺さん」
「ガガ、ガガガ…」
俺が爺さんの名前を呼ぶと、爺さんはすぐに背後から
現れ、背中に手を回す。
冷たいゴツゴツした細い腕、顔は布で覆われ、布の隙間から大きな牙が除いている。
ポタッ、ポタッ…。
額の傷口から血が滴り落ち、俺の足元に血溜まりを作り出す。
「俺、アンタの息子を殺すよ」
「ガガガッ、ガガガッ」
「ハッ、今の姿の爺さんが喋れない事ぐらい知って…」
「ラ、くに、して、くれ…、ガガガッ、ガガッ」
俺の言葉に被さるように、爺さんが言葉を喋ったように聞こえた。
「牛魔王、刀を握れ」
「は?何言って…」
「腰に下げてる刀の事だ、修羅道で拾った刀だろ。お
前を殺す、お前も俺を本気で殺しに来い」
そう言いながら、三蔵から預かった魔天経文を取り出す。
取り出された魔天経文は刀に変形して行き、刃先を牛魔王に向ける。
「お前の母ちゃんも同時に来い、二人を同じ場所に送ってやる」
「ふざけた事言ってんじゃねーぞ!!!悟空!!!」
「キイェェェェエエ!!」
牛魔王と向日葵の化け物が二人同時に、俺に向かって走り出す。
向日葵の化け物の背中から二本の巨大な腕が伸び、鋭い爪が振り下ろされる。
ブンッ!!!
ズシャッ!!!
魔天経文は俺の意志の通りに動く刀だ。
俺の体に降り降ろされる前に、魔天経文が動き出し、
化け物の手の指を斬り落としていた。
ブシャアアアアアア!!!
「キイエエエエエエエエエエエ!!!!」
切断された部分から青色の血が勢いよく噴き出し、化け物が体のバランスを崩す。
「キイエエエエエエエエエエエ!!!」
爺さんが奇声を上げながら、化け物の首元に噛み付いた。
ガブッ!!!
「キイエエエエエエエエエエエ!!!」
「グアアアアアアア!!!」
ドンドンドンドンドンドンッ!!!
グサッ!!!
押し倒された化け物は大きな足をばたつかせ、爺さんの肩に骨の羽が突き刺さる。
「悟空ー!!!」
ブンッ!!!
キィィィンッ!!!
振り翳された刀を適当に拾った刀で受け止め、魔天経文が自由自在に動き、牛魔王の脇腹を抉るように貫
く。
ズシャッ!!!
「ガハッ!!?」
抉られた部分から骨が浮き出し、大量の血と血肉が溢れ出る。
「まさ、かあ、その刀は魔天経文か!?」
「あぁ、だが魔天経文は俺のだ。お前が持った所で、
扱えねーよ」
「馬鹿にするなああああ!!!」
牛魔王は体勢を整え,再び俺に向かって刀を振り下ろして来た。
ジュウゥゥ…。
適当に拾った刀の刃が、焼け焦げているのが分かった。
すぐに焼け焦げた刀を捨てると、魔天経文がタイミングよく戻って来る。
パシッ!!!
勢いよく飛んで来た魔天経文を手に取り、向かって来る牛魔王に刃を向けた時だった。
「キイエエエエエエエエエエエ!!!」
ドタドダドタドタ!!!
爺さんを突き飛ばした化け物が、物凄い速さで四つん這いになりながら走って来たのだ。
「宇轩!!!」
「「!?」」
化け物が牛魔王を見ながら、牛魔王の本当の名前を呼んだ。
俺と牛魔王は同時に、化け物の方に視線を向ける。
一瞬だけ、化け物の姿ではなく髪の短い女性の姿に見えた。
何だ、今のは幻覚か?
いや、違う。
本来の宇轩の母親の生前の姿だったんだ。
やはり、化け物には自我があって、自分の意思で牛魔王の事を守ろうとしている。
「キイエエエエエエエエエエエ!!!」
「ギャアアアアアアアアア!!!」
ドゴォォォーン!!!
爺さんが化け物の頭上から飛び掛かり、化け物の頭を地面に叩き付けた。
ビシャッ!!!
叩き付けられた衝撃で、化け物の口から青色の血が吐き出された。
「母さん!!!」
「余所見してんなよ」
牛魔王が化け物に気を取られてた瞬間、容赦なく魔天経文を振り下ろす。
ブンッ!!!
ズシャッ!!!
「グアアアアアアア!!!」
背中を斬られた牛魔王は、悶え苦しみながら地面に倒れ込む。
魔天経文は攻撃に特化した経文だけあり、斬られた傷口が腐敗し始めていた。
抉られた脇腹も同様に傷口が腐敗し、傷口の修復よりも腐敗化の方が早かった。
「クソッ…、クソがあああああ!!!」
「お前の負けだ、牛魔王」
「ふざけんな、ふざけんなよ…、悟空」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
牛魔王の体から黒い靄が立ち込めると、左眼の視界が赤く染まって行くと同時に、焼けるように熱くなった。
ブシャアアアアアアッ!!!
「グッ、アアアアアア!!!」
いつの間にか。俺は左眼を瞼から頬に掛けて縦に斬られていた。
左目を押さえなが避けると、爺さんが慌てて倒れそうになった体を支える。
爺さんが心配そうに、俺の顔を覗き込む。
何が…、何が起きたんだ。
一瞬の事過ぎて、何が何だか分からない。
傷口が修復しないのは、何故だ?
シュンッ!!
黒い靄も中から影が伸び、俺に向かって刃の形に変形した影が飛ばされる。
キンキンキンッ!!!
俺の前に仮面の女が立ちはだかり、飛んで来た影を刀で弾き飛ばしていた。
「大丈夫か?指揮官」
「あぁ、左眼以外はな…」
「お前の左眼は刀で斬られたんだよ、あの男が持っていた刀でな」
「…、そう言う事か」
仮面の女の話を聞いて、頭の中で状況を整理出来た。
牛魔王が影を操って、俺の目を刀で斬りやがったんだ。
傷口が焼けるように痛くて仕方がない。
「ご、悟空さんっ!!!大丈夫ですか!!」
「「指揮官殿!!!」」
黒風と左軍の爺さん達が、完全武装姿で俺の周りに集まった。
「悟空さんの左眼が!?」
「いちいち騒ぐな、大した事じゃねーだろ」
「大した事ありますって!!」
黒風が斬られた左眼を見て、大騒ぎし出す。
「クソ…が、クソ。何で、お前の周りには、人が集まるんだよ」
黒い靄の中から出て来た牛魔王は、幼少期の宇轩の姿をしていた。
俺に付けられた傷はそのまま残っており、体型だけが幼くなっている。
ビュンビュンッ!!!
グサッ、グサッ!!!
宇轩の背中から伸びた影が、爺さんと化け物の体を貫き始めた。
「「キイエエエエエエエエエエエ!!!」」
ビュンビュンッ!!!
グサッ、グサッ、グサッ!!!
「グアアアアアアア!!!」
「ガハッ!!!」
宇轩が見境なく、敵味方の体を刃に変形させた影で貫き始める。
「やめろ、何やってんだ!!!」
「黙れ、黙れ、黙れ!!!俺から父さんを奪ったくせに!!」
「は?俺がお前から爺さんを奪っただ?馬鹿な事言ってんじゃ…」
俺は宇轩の顔を見た瞬間、何も言えなくなった。
大粒の赤い涙を流しながら、宇轩は俺の事を睨み付けていたからだ。
「お前を可愛がった父さんが憎い。アイツ、俺が死んだのに思い出しもしなかった。母さんを化け物にしたのに、俺の事を助けてもくれなかったのに!!自分だけ、自分だけ!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
宇轩が言葉を吐く度に、黒い靄が増幅して行く。
「お前の事を可愛がって、名前まで付けて!!!死んだ癖に、俺よりもお前を選んで化け物になって!!!何なんだよ、何なんだよおおおお!!!」
「ガタガタうるせーんだよ、さっきから」
俺の言葉を聞いた黒風達は、目を丸くさせながら驚いている。
「だったら、俺を爺さんの所に行かせなきゃ良かっただろうが!!それに、爺さんを殺す事を選んだのは、宇轩自身だろ!!!」
「うるさい,うるさい、うるさい!!!悟空を可愛がった父さんなんか、死んで当然だろ!?偽善者ぶるなよ、今更。人も妖も動物も、いくらでも殺して来ただろ?俺と一緒に、無害だった奴等を殺して
奪って来ただろ?」
そう言いながら、宇轩は狂った笑みを浮かべる。
「なぁ、悟空。俺とお前は同じ何だよ。作られた存在で善人じゃない。神に償ったとしても、報われる存在じゃない。だけど、悟空は俺よりも沢山、持ってるだろ?今だって、悟空の周りには人が集まる。昔からそうだった、俺はその光景を見るのが嫌だった」
「…」
「だから、一つだっけ頂戴。化け物になった父さんを頂戴?俺に返して?」
宇轩が子供のような顔をして、俺におねだりしてきた。
「爺さんんを殺したのは、お前が爺さんから逃げた証拠だ」
「あ?逃げた?俺が?」
「爺さんは俺をお前と重ねて見てたんだよ。爺さんは毎日、宇轩の仏壇の花を変え、お経を唱えていた。時折、遠い目をしていた時があった。宇轩、死んだ息子を思って泣いてた夜がほとんどだった。俺には見せないようにしていた」
「嘘だ…、嘘だ!!!」
俺の言葉を聞いた宇轩は、耳を手で押さえながら首を横に振る。
小さく舌打ちをした後、宇轩の胸ぐらを強く掴んで顔を上げさせた。
「聞くのが怖かったから殺した、ガキの考える事だ。宇轩、お前のした事は、爺さんの気持ちを踏み躙る行為だ!!!何で、殺した。俺の目の前で、殺したんだ!!!」
「俺の事を見てくれなかった…。俺の事を見ずに。悟空を助けに行った…。殺した時にしか、父さんは見てくれなかった…。じゃあ、どうしたら良かったの?何で、何で、俺の事を誰も好きにならないんだよ…」
宇轩は話しながら、その場で泣き崩れる。
爺さんが自分の息子に十分な愛情を注いでいたかと聞かれれば、そうではないだろう。
妻を化け物にしてしまった罪悪感と、宇轩に対しての申し訳なさ。
自分の事を恨んでいると爺さんは思っていた。
この二人の間に出来た溝は、寄り添り合えば解決していたのではないか。
「過ぎた時間は戻せねぇ。だが、お前を好きな奴がいるだろ」
宇轩の背後から見覚えのある二人組が、走って来るのが見えた。
「そんな奴っ、誰も…」
「宇轩!!!」
「っ!!!」
ガバッ!!!
走って来た百花が、勢い良く宇轩の背中に抱き付く。
「悟空っ!!!」
「小桃」
ガバッ!!!
「悟空のっ、悟空の左眼がっ」
「平気だって」
「でもっ、でもっ…」
「お前が無事なら、それで良い」
小桃が泣きながら俺の胸の中に飛び込み、胸の中で子供のように泣き続けた。
俺も小桃の背中に腕を回し、力強く抱き締めた。
***
牛魔王(宇轩)
走って来た百花が俺の体を、背中から抱き締めている。
暖かくて、名前の分からない花の香りを漂わせていて…。
「何で?どうして、ここに…?」
「貴方に会いたかったから、貴方に死んでほしくなかったから」
「どうして??百花は牛鬼の女だろ?器の俺なんかに、優しくしたら…」
俺の言葉を聞いた百花は、ゆっくりと俺を後ろに向けさせた。
目の前にいる百花の目には、大粒の涙が溜まっていて、今にも泣き出しそうだった。
「無理に大人になろうとしなくて良いのよ、宇轩。私の事なんて、気に掛けなくて良いの。こんなにボロボロになって…、痛かったでしょ?辛かったでしょ?」
「「キイエエエエエエエエエ…?」」
母さんと父さんの大きな手が伸びて来て、優しく頭を撫でる。
あ…、あ…。
やっと、父さんが俺…、僕の事を見てくれた。
僕はずっと父さんに頭を撫でて欲しかったんだ。
父さんが僕の為に、母さんを甦らそうとしてくれた事が嬉しかった。
僕の為にしてくれた事なんだって、知っていたから。
父さんが僕の事を考えてないなんて、思ってないよ。
寂しかったんだ、側にいて欲しかったんだ。
「ごめんさぁ…い。父さん、ごめんなさいっ…。本当にごめんなさいっ…」
ピチャッ。
僕の言葉を聞いた父さんが手を伸ばした時、何か液体のようなものが頬に飛んで来た。
指で拭って見てみると、青色の液体がべっとり付いている。
「爺さん!!」
「おじちゃん!!」
ボトッ、ボトッ!!!
悟空と小桃の叫び声が聞こえ、お父さんとお母さんの大きな頭が地面の落ちた。
ブシャッ!!!
地面に落ちた衝撃で切断された首元から血が噴き出し、思いっきり僕の体に降り注ぐ。
何が起きたか、分からなかった。
「母さん、父さん…?」
二人の大きな体を揺すっても、動き出す気配がない。
ただただ、青色の血がドバドバと流れ出しているだけ。
「あ、あああああああああああ!!!!」
母さんと父さんが殺されてしまったと分かった時、頭が真っ白になった。
「っ!!宇轩っ!!」
百花が力強く抱き締め、僕の体を暴れないようにする。
両頬を無我夢中で掻き毟り、爪の間に血肉がこべり付いていた。
「百花あああああああ!!!!」
「「「!!?」」」
聴き覚えのある声を聞いた悟空達は、現れた汚い黒い獣に視線を向ける。
「やっと、見つけたぞおお…、百花」
「牛鬼様…?どうして、ここに…?」
「決まっているだろ?お前を迎えに来たんだよ。ハハハッ、それからガキの器を奪いに来た」
牛鬼の言葉を聞いた百花は、僕の事を庇うように抱き締める。
その姿を見た牛鬼は、牙を剥き出しにしながら怒鳴り出した。
「何故、そのガキを抱き締めているのだ百花!!!お前は俺の女だろうが!!!何だよ、その目付きは。俺の事を睨み付ける、その目付きは何だ!!!」
「牛鬼様、この子に執着するのはやめて下さい」
「何だと?」
「どうして、変わってしまったのですか?この子はまだ、幼い子供なのに…。もう、十分じゃないですか。宇轩を騙して殺して…、昔の貴方だったら、こんな酷い事はしなかったでしょう?」
百花は泣きながら牛鬼に訴え掛けるが、牛鬼は笑いながら答えた。
「酷い?変わった?変わったのは、お前の方だろ。その花妖怪に会ってから、お前は変わった。どうしてだ?俺達は愛し合っていただろ?」
「いえ、貴方は神と出会ってから変わってしまった。小さい店で暮らしていた時の貴方と違う。私は、私は、貴方と普通に暮らして行きたかっただけなのに!!」
「そのガキが、お前を誑かしたんだろ」
「え…?」
牛鬼の予想外の言葉を聞いた百花は、目を丸くさせ驚いている。
「何、訳の分かんねー事を言ってんだ」
「何だと?」
「ぐだぐだ言いやがって、そんなんだから百花に逃げられたんだろ」
「お前に何が分かるんだあああああああ!!!」
そう言って、牛鬼は口を大きく開けながら、悟空に飛び付いた。
「小桃、下がってろ」
「う、うん」
悟空はそう言って、小桃を下がらす。
ズシャッ!!!
牛鬼が悟空に噛み付こうとしたが、魔天経文が先に牛鬼の口を切り裂いた。
「グアアアアアアア!!!」
赤黒い血を吐きながら、牛鬼が地面に倒れ込む。
「私の事を逃してくれたのは、何故ですか牛鬼様」
「ハァ、ハァ…。百花が大切だから…」
百花の問い掛けに答えた牛鬼の声が、凄く優しかった。
「あのまま、君がいたら…、飲み込まれると思ったから」
「牛鬼様…」
「逃げてくれ、百花…。ガハッ!!もう、抑えきれないか…、グアアアアアアア!!!」
ビチャッ、ビチャッ、ビチャッ!!!
牛鬼が頭を押さえながら、黒い泥々とした液体を吐き出した。
「百花あああああ!!!お前を殺して、一つになろおおおお!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
牛鬼が吐き出した泥々の液体が大きな棘に変形し、物凄い速さで百花に向かって飛ばされた。
「百花ちゃん!!!」
「お嬢!!行かせさせられませんよ」
「離して白虎!!!」
暴れる小桃を眼帯の男が、小桃の腕を掴んで行かせないようにしている。
「チッ!!!」
悟空が大きく舌打ちをした後、全速力で百花の元まで走り出す。
百花が死ぬ?
母さんと父さんのように、僕の目の前で死ぬの?
「百花が死ぬのは嫌だ」
そう思った瞬間、体が勝手に動き出していた。
ドンッ!!!
百花の体を強く突き飛ばし、前に飛び出し両手を広げる。
あぁ、僕はここで死ぬんだ。
少しは、誰かの記憶に残れたのかな…?
グサグサグサグサ!!!!
体に黒い棘が突き刺さり、目の前が真っ赤に染まって行く。
「そんな、そんな…っ、宇轩!!!」
百花の悲痛な声が、耳に残った。