テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
しばらく歩いたあと、三人は森の奥の少し開けた場所で足を止めた。
陽は高くなっているのに、腹の奥が空っぽで力が入らない。
「……腹、減ったな」
ぽつりと裕也が言う。
強がった声だけど、顔色はまだ悪い。
「そういえば……昨日から、何も食べてませんね」
千代がそう言って、手を重ねる。
俺は周りを見渡した。
木、草、土。
コンビニも、自販機も、何もない。
「……飯、どうする?」
言ってから気づく。
完全に、詰んでいる。
「その辺に落ちてる木の実とか?」
俺が言うと、裕也が鼻で笑った。
「下手に食うと、腹壊すぞ」
「え」
「毒あるの、結構ある」
千代もうなずいた。
「見分けがつかないなら、やめた方がいいです」
じゃあ、どうするんだ。
沈黙が落ちる。
そのとき、頭上で羽音がした。
枝から枝へ、小さな鳥が飛び移る。
俺は、思わず視線を逸らした。
「……あれ、捕まえないとダメ?」
「この森じゃ、一番確実だな」
裕也は淡々と言う。
「俺、やったことない」
「だろうな」
責める感じじゃなかった。
千代が、そっと言う。
「私も、最初は怖かったです」
「最初?」
「昔……家が苦しい時期があって」
一瞬だけ、目を伏せる。
「でも、生きるためでしたから」
裕也は傷のある脚を庇いながら、地面に腰を下ろす。
「俺がやる」
「脚、無理だろ」
「見張りだけでいい。捕まえるのは——」
千代を見る。
「千代、お前の方が慣れてる」
「はい」
千代は近くの枝を拾い、手の中で確かめる。
その動きは迷いがなかった。
「翔さんは、火を起こせますか?」
「火?」
言われて、固まる。
ライターも、マッチもない。
「……やったこと、ない」
正直に言うと、裕也が笑った。
「未来でも、そこは変わらねぇんだな」
でも、すぐに真面目な顔になる。
「大丈夫だ。ここは俺たちの知識だ」
千代がうなずく。
「乾いた枝と、樹皮を集めてください。
摩擦で火を起こします」
「そんなので、ほんとに?」
「はい。時間はかかりますけど」
俺は言われた通り、必死で枝を集めた。
手は汚れ、爪に土が入る。
——こんなこと、やったことない。
でも。
鳥を捕まえた千代の手は、少し震えていた。
裕也は、痛みを隠して歯を食いしばっている。
「……ありがとう」
気づいたら、そう言っていた。
「俺、ここじゃ何もできない」
「何言ってんだ」
裕也が言う。
「お前は“生き方”知ってる。
俺たちは“生かし方”知ってるだけだ」
千代も、静かに微笑んだ。
「助け合えば、それでいいんです」
やがて、弱い火が生まれた。
小さく、でも確かに温かい。
鳥を焼く匂いが、森に広がる。
「……うまそうだな」
裕也が言う。
俺は、その火を見つめながら思った。
未来の知識が役に立たない場所でも。
ここには、人が生きてきた時間がある。
そして今、
俺はその中に、確かに混ざっていた。