テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
しばらく歩いたあと、三人は森の奥の少し開けた場所で足を止めた。
陽は高くなっているのに、腹の奥が空っぽで力が入らない。
「……腹、減ったな」
ぽつりと裕也が言う。
強がった声だけど、顔色はまだ悪い。
「そういえば……昨日から、何も食べてませんね」
千代がそう言って、手を重ねる。
俺は周りを見渡した。
木、草、土。
コンビニも、自販機も、何もない。
「……飯、どうする?」
言ってから気づく。
完全に、詰んでいる。
「その辺に落ちてる木の実とか?」
俺が言うと、裕也が鼻で笑った。
「下手に食うと、腹壊すぞ」
「え」
「毒あるの、結構ある」
千代もうなずいた。
「見分けがつかないなら、やめた方がいいです」
じゃあ、どうするんだ。
沈黙が落ちる。
そのとき、頭上で羽音がした。
枝から枝へ、小さな鳥が飛び移る。
俺は、思わず視線を逸らした。
「……あれ、捕まえないとダメ?」
「この森じゃ、一番確実だな」
裕也は淡々と言う。
「俺、やったことない」
「だろうな」
責める感じじゃなかった。
千代が、そっと言う。
「私も、最初は怖かったです」
「最初?」
「昔……家が苦しい時期があって」
一瞬だけ、目を伏せる。
「でも、生きるためでしたから」
裕也は傷のある脚を庇いながら、地面に腰を下ろす。
「俺がやる」
「脚、無理だろ」
「見張りだけでいい。捕まえるのは——」
千代を見る。
「千代、お前の方が慣れてる」
「はい」
千代は近くの枝を拾い、手の中で確かめる。
その動きは迷いがなかった。
「翔さんは、火を起こせますか?」
「火?」
言われて、固まる。
ライターも、マッチもない。
「……やったこと、ない」
正直に言うと、裕也が笑った。
「未来でも、そこは変わらねぇんだな」
でも、すぐに真面目な顔になる。
「大丈夫だ。ここは俺たちの知識だ」
千代がうなずく。
「乾いた枝と、樹皮を集めてください。
摩擦で火を起こします」
「そんなので、ほんとに?」
「はい。時間はかかりますけど」
俺は言われた通り、必死で枝を集めた。
手は汚れ、爪に土が入る。
——こんなこと、やったことない。
でも。
鳥を捕まえた千代の手は、少し震えていた。
裕也は、痛みを隠して歯を食いしばっている。
「……ありがとう」
気づいたら、そう言っていた。
「俺、ここじゃ何もできない」
「何言ってんだ」
裕也が言う。
「お前は“生き方”知ってる。
俺たちは“生かし方”知ってるだけだ」
千代も、静かに微笑んだ。
「助け合えば、それでいいんです」
やがて、弱い火が生まれた。
小さく、でも確かに温かい。
鳥を焼く匂いが、森に広がる。
「……うまそうだな」
裕也が言う。
俺は、その火を見つめながら思った。
未来の知識が役に立たない場所でも。
ここには、人が生きてきた時間がある。
そして今、
俺はその中に、確かに混ざっていた。